エピローグ 今日もおばあちゃんは
森の中というのは、妙に風が冷たく感じてしまいます。
晴天、晴れの日。
鬱蒼と生い茂る木々の葉から降り注ぐ、木漏れ日だけが唯一の温もり。少しばかり露を含んだ風が私の肌を撫でました。
「よし、綺麗になりましたね」
黒ずんだ雑巾を片手に私は一仕事を終えたと、おでこと頬に伝う汗を拭います。
今日のお仕事は、私のたった一人の味方で、とっても頼りになって、王子に騙された私を救い出してくれた、おばあちゃんのお墓をピカピカに磨き上げる事でした。
お墓というのは誰かがお手入れをしてあげないといけません。汚れたりなんてしたら、中に入る人が悲しんでしまいますからね。
水の入ったバケツを持ち、私はおばあちゃんのお墓に背を向けます。
「さて、これか――」
「――おいエドナ。こんな所でなにしてんだい」
「ぴゃあ」
「『ぴゃあ』じゃないよ、まったく」
振り返るとそこには、物騒な表情をしたおばあちゃんが居ました。気配もなしに近づいてくるなんて、流石は魔女ですね。
私が王子に復讐してから1年の月日が流れました。
私はおばあちゃんと一緒に山奥の寂れた民家でひっそりと暮らしています。それは恩返しの為に、雑用の仕事で培った経験を生かして、私はおばあちゃんの食事や身の回りの生活支援をしています。
おばあちゃんのお墓を作ったのもその一つ。
『あたしが死んだらここでゆっくりと眠らせておくれ』と言われたので、私はお墓を作って毎日ピカピカに磨いています。
「朝飯はまだかい! お腹が減ってしゃあないよ!」
「4回目の朝ごはんを食べる気ですか? 食べすぎですよ」
「あたしが呆けてるとでも言いたいのかい!?」
おばあちゃんは私を困らせようとしているのか、呆けてる振りをしているのか、朝ごはんを日に7回も取ります。朝昼晩合わせて21回ですね、食費を切り詰めなければ。
食費や生活費に関しては、おばあちゃんが調合する謎の薬品を王国に私が売りに行っています。これがなんとも好評で、巷ではうわさの的になっています。
その王国は今は跡取りの問題が発生しているようです。
私との一件で王子は民衆の支持を得られなくなり失脚、王国も殺人未遂の王子を国に置いとくわけには行かず、王子は一族から、王国からも追放されたとのこと。
今はどこでなにをやっているのやら。さながら悪役令息の末路。
私はおばあちゃんのお陰で王子の柵から解放されました。今こうして、日々を無事に生活出来るのもおばあちゃんのお陰です。
恩返しに息を引き取るまで支えようと、私は決心します。
「おいあんた、今不吉な事を考えなかったかい?」
おばあちゃんはどうやら私が考えている事までお見通しの様でした。
そんなおばあちゃんは不機嫌そうに水晶を眺めています、澄み渡った紫色の水晶をおばあちゃんはいつも毎日眺めています。
何をしているのだろうかと考えていると、簡単に答えが出ました。
「た、大変だよ! シグレ王国のとある令嬢が悪役に仕立て上げられる! こりゃあ急いで行くしかないね!」
そう言った直後、おばあちゃんの姿が私の視界から消えました。
予知をしていたのですね、不幸な女の子を助けるために。
今日もおばあちゃんは、音速で走るようです。
おしまい。
おばあちゃんは婚約破棄経験者 ラストシンデレラ @lastcinderella
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