第7話 濡れ衣
「どー--だ!!アンタらみたいな三下魔獣、私の手にかかればちょちょいのちょい!!ラトネ大森林の動物さ~ん?コレに懲りたら二度と面倒な騒ぎは起こさないことね!!」
「いや、フィーラさん…たった今もっと面倒な騒ぎが貴方の手によって起こったところです……」
喉の奥から絞り出すような掠れた声でユーバックはそう呟く。
え?なんで?と首をかしげるフィーラ。
「なんでって…さっき言ったじゃないですか。無暗に森を傷つけるのは…ってもう綺麗さっぱり無くなった今じゃ遅いですよねえ。ああ~!!ジャッジさんに何と説明すれば!!」
「…説明はいらないさ、ユーバック」
その言葉と共に現れたのは、これまた黒いスーツを着た男。
青い髪を七三で分け目の下にはクマが浮かんでいるソイツは、よく言えば真面目そう、悪く言えば顔が死んでいる、そんな見た目だった。
「はえ?……ってジャ、ジャッジさん!?どうして森に!!」
「あれ~?本当だ!ジャッジ~ヤッホ~!」
彼の姿を見た2人は対照的な反応を見せる。
ユーバックは分かりやすく動揺し、逆にフィーラは友達でも迎えるのかっていうくらいフランクに手を振っていた。
…ますます2人の上下関係が分からなくなってきたな。
そして、なるほど。この人がジャッジさんか。
ユーバックの口ぶりからすると彼の上司であることは間違いない。フィーラとの関係は…マジで分からないな。一見、親子と言われても疑わないほどの年齢差である。
見方によっては何とも犯罪の臭いが漂う組み合わせだ。
まあなんにせよ、彼の知り合いに命を救ってもらったことに変わりはない。
「あなたがジャッジさんか!いやあ、この2人には凄くお世話になって――」
と、お礼の言葉を口にしようとした途端
俺の身体に突然鎖が巻き付けられた。いや、巻き付けられたというのは正確ではないか。
何もない空間から鎖が現れ、ソレが独りでに俺をきつく縛り付けたという方が近い。
恐らくジャッジの魔術なのだろう。
思わず、え?と困惑の声を漏らす俺に対してジャッジは言葉を続ける。
「2人にお世話になった?これからブタ箱のお世話になるの間違いだろう、この国賊が。……まったく、私の言葉を無視して森を滅茶苦茶にするだけではいざ知らず、まさかこんな大罪人と一緒に居るなんて夢にも思わなかったぞ……フィーラ」
ブタ箱?国賊?大罪人?コイツ何言ってんだ?
俺は理不尽に家族に追い出された哀れなヒロイン、アリアネちゃんだぞ!
そしてやっぱり森の件はアウトだったな!ドンマイ、ユーバック。
「ちょっとジャッジ!何してるのよ!このお姉さんが一体何をしたって言うの!?」
ジャッジの言動に対してフィーラが非難の声を上げる。
そうだ!言ってやれ!
「我らがアルデシリアに入国する際には、専用の移動手段もしくは認可された転移魔法陣を使用しなければならない。連邦国刑法第162条、"出入国に関する手続き及びそれに従わなかった場合の罰則に関する規定"だ。…馬車や竜車を用いた入国ルートにも魔法陣による転移先にもラトネ大森林が設定されていないとなれば、こんな所を1人歩く少女が不法入国を働いているのは自明。それに――」
「あー-もう!法律の話は止めて!頭痛くなるから!」
ええと、つまり俺は知らないうちにアルデシリア首長国連邦へ勝手に入国してしまったってこと?
まあ確かに不法入国は悪いことだけどさ、国賊だの大罪人だのって、そこまで言われる程ではないだろ多分。
「ただ、ジャッジさんの魔術が発動したということはこの人が不法入国したのは紛れもない事実……私はてっきり連邦内の街から迷い込んでしまったと思っていたのですが……。となれば貴女、一体何者なのです?」
「え、ええと……いったい何が何やら…」
鎖に縛られオドオドとしている俺を睨みながら、ジャッジは再び口を開く。
「誤魔化さず正直に吐いたらどうだ?…帝国での聖女殺害を犯した極悪人、アリアネ・ファンデンベルク……」
◇◇◇◇◇◇◇
[Tips]
"本邦に入国する際に、次の各項目のいずれかに該当する行為を行った者は最大5年の禁固に処する"
……
Ⅲ,専用の移動手段、若しくは認可済みの転移魔法陣を用いず本邦に入った者
――連邦国刑法162条 出入国に関する手続き及びそれに従わなかった場合の罰則に関する規定
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