シミュレーション・ゲーム

朝霧

ゲームシナリオその他(細かいところは別で詰める)

冒頭、主人公語り(以下、文字数未調整)

 この世界は漫画の世界らしい。

 ジャンルとしては現代ファンタジーということになるのだろうか、魔法と科学が当たり前のように両立している世界だ。

 そんな世界に転生したところで、自分はただのモブだと思っていた。

 よくあるチート転生だとか成り代りだとか原作改変する夢女子系じゃなくて、物語として語るにはあまりにも平凡でありきたりでつまらない一般人、のつもりだった、そっちの方が良かった。

 だけど少々事情が変わってしまったので、色々と面倒なことを考えねばならない。

 下手を打てばきっと私は死ぬ。

 いいや、殺される。(→できればここ赤文字で)

 死にたくはない、せっかく好き勝手生きられるおうちに生まれることができたので、できれば人生は堪能しきってから死にたい。

 しかし、どうしたものか。

 とりあえず、まずは自分が何者であるのかを考察するところから始めてみようと思う。

 私はこのフィクションの世界で一体どんな役割ロールが与えられた?

 原作クラッシャーなチート転生者か、無残な目にあうネームドか、それともただのモブなのか。

 まずはそれを確かめなければ、それがわからなければ今後の対応と敵が分からない。



 意識不明の重体になった自分の女はここのところずっとずっと何かに思い悩んでいるようだった。

 どうかしたのかと聞いてもなんでもないと頑なに首を振り続けた女は、目を覚さない。

 一体この子を追い詰めていたものはなんだったのか:

 そう思って、携帯端末に何か手掛かりになるものはないかと思って確認してみた。

 メールやメッセージアプリ、写真、見たと言ったら確実にブチ切れるであろうSNSまで確認したが、めぼしいものはなにもなかった。

 半ば諦めつつもなんとなくメモアプリを開いてみたら、買い物メモに紛れていくつか異彩を放つタイトルのメモがあったので、その一番上側のメモを開いて見てみた。

 ゲームをやるのが好きなことは知っていたが、作ろうと思っていたことは全く知らなかった。

 一番上側にあった『ゲームシナリオ(細かいところはあとで詰める)』を開いてみると、まずそのゲームの冒頭部分が書いてあった。

 「異世界転生系……?」

 この子はたしかそういう転生ものはあんまり好きじゃなかった気がするのだけど、何故そんなものをテーマにしたのだろう?

 漫画や小説でもそっち系は読まない、というか少し避けているのに。

 生まれ変わっただけで立派な主人公になった元凡人というのが、見ていて納得できないのだと言っていた。

 それなのに何故あえて異世界転生系のゲームを作ろうなどと思ったのか。

 きっとこれは事件には一切関係ないのだろうけど、それでもそれだけが気になるから、もう少し読み進めてみようと思う。

 きっとものすごく怒られる、というかどうか怒ってほしい。

 いくら怒られても叩かれても泣かれてもいい、だから早く目を覚まして。


●主人公、過去回想(前世)

 私は、親に殺された。

 親はよく言えば厳格な、悪く言えば毒な親だった。

 自分達は大して立派ではないくせに、そんな立派でもなんでもない自分達から生まれたソレの出来が悪いことがとにかく気に食わなかったらしい。

 だから『りっぱなにんげん』になることを私は強要されていた。

 子供の頃は辛いけどそれが普通だと思っていた。

 だけど、高校生になったあたりでそれが普通ではないのだと気付いてしまった。

 気付いた後は「いやだなあ」と思いつつ親の言うことを聞いて、それでも自分が子供でなくなった頃に逃げた。

 自分はきっと相当『できのわるいにんげん』だったのだろう、だから情も恩義も感じることなく、自分で思っていたよりもずっとあっさりと親の前から姿を消した。

 友人経由で知り合った伝手を頼って南の島に移住して、自由気ままなのんびりスローライフをスタート。

 それから四年ほどは自分でもびっくりするくらい楽しく順調に日々を送っていたのだけど、ある日親に発見され口論となり、挙げ句の果てに殴殺された。

 それが私の前世。

 薄っぺらくてありきたりな、どこにでも転がっている少し不幸な人生だった。



 思っていたよりも異世界転生におけるテンプレみたいな前世に、ますます言いようのない漠然とした気持ち悪さを感じた。

 この子はこういう『いかにも』な話が好きではなかったはずだ。

 だから異世界転生系といってもなにかしらの変化球かつ豪速球な設定になっていると思っていたのだけど、あまりにもテンプレだった。

 これがこの子が作ろうとしているゲームのシナリオでなければ別におかしなところはなにもない。

 だけどこれをこの子が書いたと思うと、違和感しかない。

 ひょっとしてこれ、この子が書いたのじゃなくて別の誰かが書いたやつをコピーしただけなんだろうか?

 だとしてもなんでこの子が異世界転生系をわざわざ保存したのか、その理由がわからないけど。

 とりあえず、もう少し読み進めてみよう。

 それが嫌なら早く起きて、目を開けて。

 じゃないと俺、お前が見られたくないもの全部見ちゃうよ。


●主人公、過去回想(現世)

 前世で親に殺された後、私は現世に生まれ変わった。

 生まれ変わったと気付いた、というか前世の記憶をうっかり取り戻したのは私が四歳くらいの頃だった。

 子供の身体で大人の記憶を思い出してしまったのは結構キツかった。

 それでもパニックには陥らず、誰にも気付かれずに冷静に私はその記憶を受け入れた。

 受け入れた後、すぐに自分が前世とは違う世界に生まれ変わったことに気付いた。

 なんせ前世の世界には魔法なんてものはなかったのだから。

 それでも生活水準、というか文化文明がほぼ同じなのは不思議だ。

 歴史的事件も覚えているものと照らし合わせてもあまり変わりない、魔法が使われていた部分がいくつか科学に置き換わっていたり、魔法に関する独特の文化がないだけで、前世の世界は現世の世界とそれほど変わりがなかった。

 なので、私はこの時自分は単に『魔法が存在するだけ』のパラレルワールドに生まれ変わったのだと思っていた。

 前世で転生系のライトノベルをいくつか読んだことがあったので、ひょっとして何かしらのチートがあるのではとも思ったが、私はやっぱりどこにでもいる無力な子供でしかなかった。

 けれどもこの世界は無力でも平穏に生きられる世界だった、少なくとも幼少の私にとっては。

 それからしばらく、私は現世をのんびり堪能していた。

 現世の両親は前世の親に比べるととてもいい人で、最低限のことさえこなしていれば自分の好きに生きることを許してくれる人だった。

 だから私は、前世では手に入れられなかった普通の子供の生活を手に入れられたことを素直に喜んでいたし、そんな普通を当たり前のように暮れた両親にも感謝していた。

 このまま私は普通に生きて死ぬのだ、と思っていた私がこの世界がただのパラレルワールドではないことに気付いたのは、私が十歳になった頃の話になる。

 その頃、A氏(名前は後で考える)が魔法決闘の全国大会で優勝した。

 彼の地元は私が住んでいる町で、中学までの彼はとんでもない不良少年だったが、高校の頃の出会いをきっかけに魔法決闘を始め、そしれ二年で全国を制した。

 覚えがあった、どこかで、正確にいうとあの南の島で聞いた覚えがあった。

 私をあの島に誘った友人は、オタクだった。

 その友人がかつて語っていた漫画の設定が、確かこんな内容だった。

 ・漫画の主人公(B、名前は以下略)は地元の不良少年からのしあがり魔法決闘の大スターとなった青年に憧れ、魔法決闘部に入部した。

 ・そこで出会う様々なライバルたちと競い合いながらも優勝を目指すスポ根系サクセスストーリー。

 ・キャラが濃い、そしてスポ根系なのに闇深すぎるキャラが多い。

 確かこんな感じで、そして友人が語っていた主人公の憧れの青年というのは、A氏と全く同じ名前だったのだ。

 A氏とその青年も経歴もほぼ同じ。

 だから、私はその時点でこう思った。

 私はどうやら、友人が話していたタイトルすら覚えていない漫画の世界に転生してしまったのだ、と。



 「このA氏って……田中正二に似て……モデルにでもしたのか?」

 自分達の世代では憧れないものはいないとまで言われている伝説のプレイヤー、不良世界を飛び出して今や世界中を熱狂させる英雄となった男に似た経歴の登場人物に思わず首を傾げた。

 こういうあからさまに現在する人をモデルにした登場人物を書くタイプだとは思っていなかったので、少し困惑した。

 やっぱりこれを書いたのはこの子ではないのだろうか、そう思いつつさらに読み進めてみる。


 ●主人公、過去回想(転生発覚後)

 自分が漫画の世界に転生した、そう気付いた時に自分が何者なのかと少しだけ考えた。

 だけど家も自分自身も平凡だったので、ほぼ即座にただのモブ、名前すら与えられないガヤどころか画面にすら登場しないただの一般人だと結論づけた。

 というかその方が都合が良かったのだ。

 主人公の親族周りだったらともかく、ほかのメインキャラはかなり闇深い経歴を持っているらしいので、関係者にはなりたくなかった。

 だから私は自分自身と自分の家族をただのモブだと決め込んで、ネームド、つまりは漫画の登場人物には関わるまい、と思っていた。

 目立たず普通に生きていれば、簡単にクリアできるだろうと楽観視していたけど、今はそのことをとても後悔している。

 この時もう少し警戒心を強めていれば、私がもっと世間に目を向けていたら、もっとちゃんと調べていれば。

 あるいは、前世で友人の話をちゃんと聞いていれば。

 少なくとも、こんな現状にはならなかっただろうし、私はただの平凡極まりないモブでいられたのだろうから。

 どうすればいいんだろう、どうすればいいんだろう。

 どうすれば、普通の人みたいにしあわせになれるのだろうか。

 亜希子、亜希子、ねえ教えてよ。どうするのが正解なの。もっとちゃんと話を聞いとけばよかった。

 ねえ教えてよ、轟木君は本当に闇堕ち魔王系のラスボスになるの?

 自分の彼氏が何もかも失うようなひどい人生を送って、挙げ句の果てに主人公に敗れて死ぬとか……

 本当に勘弁してほしいのだけど。

 あと二次創作BLでは彼の主人公攻めが大人気で公式が最大手だって話されたのをたった今思い出してしまったのだけど、本当にどうしろと?



 「…………は?」

 唐突に出てきた自分と同じ響きの名前に思わず声が漏れた。

 字が違うが、自分も『トドロキ』だ。

 まさかこの主人公ってこの子がモデルで、『轟木君』のモデルは俺か?

 この子が自分をモデルにした話を書くだろうか?

 ……いや、ない。

 それはない、そんなことはこっぱずかしくてできないだろう。

 じゃあこれは何だ、一体なんのために誰が書いたものだ?

 それと俺が闇落ち魔王系のラスボスってどういうこと? 何もかも失うって何? 死ぬってドユコト??

 二次創作BLって何? 俺が男とそういう仲になるって??????

 この子自身が主人公というのも相当おかしいが、よりによって俺をモデルにしたキャラにそんなとんでもない設定をつけるだろうか?

 ……いいや、それはない、絶対にない。

 それじゃあ、これはなんだ?

 誰が書いたものなんだ、この子が書いたものでないとしても、なんでこの子はこんなデータを持っている?

 謎でしかない、そしてその謎を放置するのはあまりにも気持ちが悪く、気分が悪い。

 だから先を、とにかく先を読まなければ。



 ……私がモブでなくてネームドで、かつラスボスの恋人という役割を持って生まれたのなら、きっとひどい目に合うのだろう。

 だってラスボスは『全てを失った』のだから。

 死ぬなりなんなり酷い目にあって、彼の手元を離れる時が遠からず訪れるはずだ。

 私がただのモブであるのなら、きっと原作の流れを変えていることになる。

 修正力的な力が働けばきっとひどい目に合うだろう。

 私が原作クラッシャーとしての役割を持つ何かだとしたらそれが一番いいのかもしれないが、私にはなんの力もない。

 誰かを救えるような力なんて、ない。

 それでもどうにかするために、私は考え行動しなければならない。

 幸せになるために、この平穏を続けるために。

 それでは、シミュレーションを開始する。

 私の役割は一体何だ。

 私の敵は、一体誰だ?


 冒頭終了

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