深淵ちゃんは人と遊びたい

@undermine

第1話 完全体深淵ちゃん

 『蟲毒』と呼ばれる魔窟がある。

 そこには、あらゆる災厄が詰められた。なぜそのようなものがあるのか、神が人間に課した試練なのか、それとも邪なるものが用意した罠なのか。

 誰も知らない。


「……もーいやだー!!」


 蟲毒の底、地獄を煮詰めた奥の奥。あらゆる汚濁を集積したその場所にそれはいる。

 黒き不定形の身体に、1つの目。全身から放つ瘴気は容易に生物の命を奪う。瘴気を免れたとしても、目には呪いがある。不定形の身体には計り知れない力が秘められている。ありとあらゆる害あるものはこの者の中に。


「人間も来ないしー、この中にも遊べる奴はいないしー」


 うねうねとうごめくその身体。数千年に及ぶ停滞の中にあって、魔窟の主である『

深淵』に天啓が舞い降りた。


 およそ天から見放された物の集大成と言える『深淵』に下されたものがそうなのかは誰にも分からない。


「そーだ!!! 外に出ちゃおう!!!!」


 人類滅亡のカウントダウンが恐るべき速さで始まった。


「ふんふ~ん♪」


 魔窟の主である『深淵』にとって魔窟の逆走など何の障害でもない。立ちはだかるものすべてをなぎ倒し地上へと深淵があふれ出した。


「外だー!!!」


 太陽、空、澄んだ空気。どれもが魔窟には存在しないものである。『深淵』は多いに喜び、それらを享受した。


「うっれしいな♪ うっれしいな♪」


 跳ね回る黒き巨体、まき散らされる体液、周囲の命は速やかに死んでいく。小鳥も草木も、虫も、なにもかも、黒く腐れて死んでいく。


 嗚呼、これこそが『深淵』の姿。全てを殺し、呪い、食らう、災厄の化身。


 その本質が邪悪でなかろうとも、その存在は邪悪だった。


「あ!! 人間がたくさんいる!! あーそぼー!!!」


 『深淵』の目は獲物をとらえた。通った場所を全て死の荒野へと変えて突き進む。


 人がたくさん居るところ。つまり村であるが、村の全ての人間は『深淵』の到着とともに死に絶えた。


 あるものは瘴気を吸い、全身の血を吐き出した。


 あるものは『深淵』と目が合い、脳が焼けただれた。


 あるものは体液に触れ、生きながら液状となった。


 あるものは気が触れ、家族を皆殺しにしたあとに自ら果てた。


 惨劇は瞬く間に始まり、そして終わった。


「え、そんな、そんなつもりじゃ」


 『深淵』は気づいた。自分のせいだと。自分はここに来てはいけなかったのだと。


「どうしようどうしよう」


 肉体は勝手に死者を貪り、その脳を取り込んだ。そして、とりこんだ脳は思考を先に進めた。


「そうだ、私は危険すぎる。もっと弱くならないと、もっともっと弱くならないと」


***

現在の状態

蟲毒の主『深淵』 100%


保持スキル

無敵・・・あらゆる損傷を否定する

邪眼・・・瞳を見たもの、瞳に見られたものに呪いをかける

黒液・・・強靱なる流体の身体

瘴気・・・肉体から立ち上る致死の霧、蝕み殺す厄災の証


思考(低)・・簡単な思考が可能






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