第156話 発熱

 ランド王国に属する貿易都市カイレアについて早々に、ユリシスは激しい頭痛と発熱に冒された。


「私の心配はいいから、ラクシンは仕事を続けるように。ランサはそばにいて」


 息も絶え絶えにユリシスは指示を出す。今回は国王であるパントラムと王妃のネスターも一緒だ。そんな中、貴人である聖女の発病は重大事だ。両者とも、心配で見舞いにもやってきたが、そう長い時間ではなかった。伝染病の心配もあるからだ。それでも、ネスターはユリシスの手を握り、額に手を当ててくれた。


「ごめんなさいお姉さま……」


 それだけを言うと、ユリシスは気を失うように、眠りについた。国王、王妃共々、それほどこのカイレアに滞在する予定ではない。聖女のユリシスの体調を危惧しつつも、王都へと戻っていった。

 それからしばらくたったが、ユリシスの病状は回復しなかった。ランサは付きっ切りで看病に当たった。時折、ユリシスは目を覚ました。熱にうなされ、瞳は虚ろだ。衰弱も激しい。慣れない環境のためだと最初は思われていたが、そうでもないようだ。ユリシスは旅慣れているし、順応力も高い。この土地特有の風土病なども疑われたが、特徴がまったく一致しないという医師の見立てだ。原因がまったく分からない。そのため対処のしようもない、打つ手がないのだ。


「ランサ、大丈夫よ、心配しないで。すぐによくなる。ハッシキと話しをしているだけなの……」


 かすれた小さな声でユリシスは話す。ランサは耳をユリシスの口元に寄せてはっきりと聞き取った。


 実際にユリシスはハッシキと対話していた、夢現の中で。


「ごめん、ユリシス。ボクは戻らないといけないみたいなんだ。連れて行ってくれるかい?」


 ユリシスには意味が分からない。戻るとはどこなのか? どこに連れていけばいいのか? 腕に宿ったハッシキには意識はあっても記憶はなかった。突然に現れ、ユリシスの腕に宿ったのだ。ユリシスにもその理由が分からない。それでも今まで一緒に旅を続けてきた。それは決して失われない。そのハッシキがどこかへと行ってしまうというのか。


「一体、どこに戻るの? どこに連れていけばいいの? 私たちは離れ離れになってしまうのかしら?」


 どうやらハッシキの記憶も朧気なままで良くは分からないようだ。ただ、あちらの大陸に渡るのだけははっきりと自覚出来ているという。ハッシキは魔人の大陸と関係があるらしい。


 一体、何が待っているのかは分からないが、行かなければならない。ユリシスにはどこか不確定ではあるが、使命感が湧き上がってきている。ハッシキが望んでいるのだ。身体の一部となってくれているし、助けてもらった。ユリシスはハッシキの希望を叶えたい。


 ユリシスは夢の中で両腕を抱えるようにして、自分の身体を抱く。熱い。腕が焼けるように熱い。まるでハッシキが訴えかけてくるその強さが熱さに変換されているかのようだ。


「ハッシキ、行こう。ハッシキが行きたい所まで行こう。私が連れて行って上げる。一緒に私も連れて行って」


 ユリシスは目を覚ました。側にはランサもロボもいる。


「ラクシンを呼んで頂戴、ランサ。ちょっと用件があるの」


 ユリシスの言葉にランサはすぐに応えてくれる。程なくしてラクシンがランサに伴われて部屋へとやってきた。


「ここからの情報の収集と司書の手配りをお願いしたいの、ラクシン」


 ここから、とは? という疑問符がラクシンの頭に浮かぶ。この街を視察したあとは、残りの旅程をこなして、市国へと帰途につく、そいう予定になっているはずである。もちろんユリシスの体調が戻り次第ではあるが。


「何か予定の変更でもあるのでしょうか?」


 ユリシスはベッドから身体を持ち上げようとする。それをランサが素早く支える。


「私はハッシキと一緒に島へと渡って、大陸へといく。行かなければならないの」


 どうやらハッシキはあちらの大陸と関係が深いらしい、そこまでしかユリシスにもハッシキにも分かってはいないが、この街にきて、ハッシキの記憶が鮮明になりつつあるのは確かなようなのだ。


「どのみち、渡ってみないと分からないわ。でも、どうせあちらでも情報を集めないといけないのだから、それは私たちがするわ」


 ここからの使節団の裁量をすべてラクシンに委ね、ユリシスは、ランサ、ロボとともに、ハッシキの導きにまかせて行ける所まで行く、そう腹をくくった。


「ランサお願い、島に渡る船の手配をお願いしたいの。できれば私たちだけが使える船だと助かるわね。費用は惜しまないでちょうだいね。私の体調ももうすぐよくなる。大丈夫、心配しないで」


 それだけを言うとユリシスはまた眠りに就いた。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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