第154話 動静

 侍臣が席を外すと、パントラムはキッスラットから書類を受け取ると、それをユリシスの前に差し出す。表題は書かれていない。


「以前、聖女様が襲われたと思しき場所を調査したのですよ。あの童話だけではどうも確証が持てなかったので」


 この書類はその調査書というわけだ。


「見てしまってもよろしいのでしょうか?」


 パントラムは仕草で促す。ユリシスは一読して驚いた。


「人が住んでいた形跡がみつかったと、書かれていますが……」


 あそこは辺境の地で、街もなにもないただの土地だと説明されていた。もちろん現在でも誰も居住はしていない。


「秘密裡にですが、比較的徹底した調査を行ったのですよ。もっともそれほど大規模ではありませんでしたが」


 年代は特定までは至らなかったが、比較的古く、焼け焦げたあと、つまり襲撃されたあとまでも見つかっているというパントラムの説明にユリシスも覚悟を決めなければならない。


 魔王の話を知っているのはごく限られている。オーサももちろん当事者の一人だが、二人の間で秘密にしておこうなどという相談はしていない。どのように扱うかは各人に任されていると考えている。ユリシスたちの暮らす地域は、ナザレットに比べて、かなり西側に偏っている。それだけ魔人の大陸とも近い。特にこのランド王国はそうだ。国交こそ結んではいないが、民間の交流はどの国よりも盛んだ。


「陛下にもお姉さまにも、お聞きいただきたいお話がございます」


 司書の受け入れも依頼して、受け入れてもらっている。その目的が魔王の情報の収集でもあるのだから、隠し立ては返って害悪になる。ユリシスはランサを見つめると、意を決して話し始める。


「慌てずにお聞き下さい。魔法は実在するのです」


 ユリシスはナザレットとの戦いのあらましと自分の体験を三人に語って聞かせた。


「ユイエスト様は別の世界に閉じ込められてはいますが、ご健在です。しかも彼自身の口から聞いたのです、自分は魔王の息子であり、魔王は生きていると」


 あまりの内容に三人は言葉もない。だがユリシスの言葉を信じるしかない。ユリシスが嘘を着く理由もないし、一連の流れからも信じざるを得ない。


「その魔王はいったい今は何をしているのだ。動きがあるとは聞いてない。ユイエスト様の話しによると千五百年前には確かに活動していたようだが……」


 パントラムも困惑を隠せない。


「実は密かにとは思っていましたが、隠していても仕方がありませんので正直にお話し致します陛下。島を渡って、あちらの大陸を調査しようと思っているのです。何が分かるかは未知数ですが、ここで手をこまねいていても何もはじまりませんから」


 今回の訪問にはその報告も目的のひとつではあったのだが、ランド王国が継続して調査をしていたのであれば話しは早い。共同で動いたほうが何かと都合は良い。両大陸の間にあるブリストル島はどこの国が納めているわけではない完全自治区だ。国交を持っている国もない。


「こちら側の街であるカイレアにも魔人が住んでいると聞いています。であれば、対岸のあちら側の魔人の街にも人間が住んでいるのではないでしょうか? 何か話しが聞けるのではないかと思うのです」


 今のところ魔王の動静は伝わってきていない。いや童話から察するに、動き出してからでは遅いのかもしれない。パントラムの額から汗が吹き出す。魔王が侵攻してくると、真っ先に狙われるのはこのランド王国になるのは間違いがないのだ。あの童話が残っている。今回n調査でも襲撃の痕跡を見つけている。魔王が攻めてくれば、ココが戦場になる可能性は高い。それ以上に人間の存亡を掛けた大きな戦になる。


「できればそれだけは避けたいと考えているのです。ユイエスト様の願いもそうだったのです、陛下、お姉さま」


 ユイエストの時は人間側がそれを拒絶した。魔王の力量をその程度と見くびった訳ではないだろう。恐らく人間は魔王の本来を知らないだけなのだ。もとろん現在も、まったく分かっていない。できれば相互理解を深め、平和な関係を築きたい。


「調査団を組むとなると話しは大きくなりますし、相手を刺激します。まずは魔王とは一体何であるのか、魔人にとって魔王とはどのような存在であるのかをつかめれば充分だと思っています」


 当然だが、魔人側のアストル大陸に人間の領地はない。いくら調査をしようとも、それは自由だ。どこの許可が必要という理由はどこにもないが、ランド王国の了解は欲しいとユリシスは考えている。


「そこまでする必要があるのでしょうか聖女様」


 パントラムに変わって宰相のキッスラットが疑問を呈する。その言葉にユリシスは頷きをもって応える。


「始まってしまっては遅いと考えているのです。魔王はかなり好戦的だと思っています。


 それがユリシスの回答だ。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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