第124話 研究
「それじゃあ、研究室へと行くとしよう。あちらの二人には、声を掛けておいてもらおう。すぐに追いつくはずだから」
ユイエストは番人の代表のベグルに声を掛けると部屋を出る。
「成果を期待しているよ」
ユリシス、ランサそしてロボは、背中越しにベグルの声を受けると、ユイエストの後に続く。ユイエストの背中は厚くたくましい。王位継承者であるならば、王族なのだろうが、まるで戦士のように精悍だ。
「聖女だと言っていたが、出自は?」
歩きながらでもユイエストは気さくに話しかけてくる。
「はい、私はリリーシュタット王国の王女でした。こちらのランサは王家から分かれた公爵の娘です。ご存知ではないでしょう。貴方が生きていた時代にはまだ国はなかったのです」
その王都であるベニスラはユイエストが亡くなった土地であり、いくつかある聖地の一つであるとユリシスは説明する。ユイエストは苦笑するだけだ。
「本当に伝説というものは人の口によって彩られていくものなのだね。死ぬのが嫌で私は逃げ出したというのに」
ユリシスにとってはユイエスト教は長い歴史をもつ一大宗教ではあっても、ユイエストにとっては重みも何もない、ただの思想の一つでしかない。ユイエスト自身にも教祖という自覚には乏しい。
「最初は、貴方とヘルベストさんの二人だけだったのですか? あなた方が最初の人だと聞いているのですが」
二人がここに行き着いた理由は先ほど教えてもらった。ユイエストとユリシスには約千五百年の時代の隔たりがある。謀略で失われる命はかなり多い。その中の何割かが、あの聖霊術によってその身を消されたと考えるとその数は決して少なくはない。
「君たちと同じだよ。最初はあの湖畔で気が付いた。そして分かったんだ、時間が流れていないと」
もちろん、二人の他には誰もいなかった。
「次元術式はいってみれば賭けだった。死んでしまってもおかしくはない。生きていたのは僥倖だと捉えるしかなかったな」
ここに来る人は少なければ少ないほどいい、とは思いつつも、二人は途方にくれた。降り積もっていく時間、あてどない思索、戻れる可能性の前に立ちはだかる永遠の狭間……。
「人が増えるにつれ、戻りたくないという意見が多いのにも驚きを隠せなかった。命を永らえ、永遠にここで生きていくという選択を望んでいる人が多かった。正直意外だった」
ここに来て、ユリシスは初めて疑念の囚われる。
「一つお伺いしてよろしいでしょうか?」
ユイエストがユリシスに向かって視線を落とす。ユイエストはユリシスに比べてかなり上背がある。覗き込むようにしてユリシスを見る。
「戻るといったいどうなるのでしょうか? どの時点に戻るのでしょうか? 研究はどの程度まで進んでいるのでしょうか?」
ユイエストが立ち止まる。どうやら彼らの住まいに到着したようだ。中に入ると、玄関の先に通路があり、左右にいくつかの部屋が並んでいる。その一番手前が応接室になっているのだろう。把手をひねり扉を開くと、ユリシスたちを手招きする。
中に入ると、テーブルを挟んでソファーセットが置いてある。
「ここに来た人には技能を持った人も多いんだよ。すべてが政治が理由で流されてきたのでもない」
建物から調度品、衣類に至るまですべてが自給自足で成り立っている街なのだ。もちろん食べる必要に迫られないが故に可能だ。ここには身分の貴賤もない。
ソファの奥には書見台があり、書類が積まれている。今までの研究の成果をまとめたものなのか、どこかからの報告書の類なのかはユリシスには分からない。勧められるままにユリシスたちはソファに腰を落ち着ける。
「たくさんの質問があったが、研究の筋道から話すとしよう」
研究には大きく分けて二つのテーマがあるとユイエストは説明を始める。
まず最初は、ここの仕組みだ。この世界がどうやって出来ているのかが分かれば、戻る手立てが見つかる可能性があるとユイエストは言うのだ。
「なぜ生まれたのか? 術式が出来て初めてこの世界が生まれたのか、それとも、術式はここに来るための鍵にしか過ぎず、最初から存在していたのか、それによってアプローチの仕方が変わってくる」
実はそれにはある程度答えが出ているという。
「おそらく正解は後者だ。理由は至ってシンプルだ」
それは術式の多さだという。送り込まれた術式は実に多岐にわたっているのだという。それは聞き込みで判明している。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews
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