第69話 巡礼
「市国が同等の同盟を結ぶ保障はどこにもありませんが?」
ユリシスの発言はただのハッタリだ。レビッタントやアリトリオは無能ではない。だが問題はある。
「信仰はどうするのです? 私は救済派の聖女なのですよ?」
そこが最も難しい。ナザレットであれば強制的に改宗させるに違いないが、ユリシスは甘いと言われようと、信仰心とは矯正するものではないと信じる者である。
「聖サクレル市国の国是に従いましょう。しかし、お許しいただけるのであれば住民の随意に委ねたいと考えております」
ラクシンの話しを聞く限り、状況はかなり進んでいるようだ。だがユリシスには判断ができない。
「すみませんが、はっきり言って、今ここで答えは出せません。とりあえず餌に食いついてみたいとは思っています。宿題にしていただけませんか?」
脈ありと見たのだろうか、ラクシンは立ち上がると二人分の服を差し出した。
「巡礼者の服です。これに着替えてください。それとこれを」
名前と所属が記された札だ。首から下げられるようになっている。もちろん書いてある名前は偽名だ。
「私も同行致します、聖女様」
二人での巡礼の不自然さをなくすためでもあり、護衛でもあり、監視でもあるのだろう。
「ランサとロボはともかくとして、私には貴方を守るだけの余裕はありませんがそれでよろしいですか?」
自分の身すら守れるかどうかユリシスには分からないのだ。
「大丈夫でございます。いざとなれば自分の身ぐらいは何とかなるでしょう。ではこれを御覧ください」
ラクシンが机の上に広げたのは一枚の図面だった。
「皇都バレルの図面です」
かなり精緻な図面だ。一般信者では入り込めないようなところまで記載されている。
「聖女様の腕があるのはここです。牢屋か幽閉室があるのです。手の者が確認しております」
ラクシンが指差したのは教会と思しき場所だ。大聖堂の正面から入るとその先には一般の信者は立ち入れない政庁部分。そこから先はハッシキ頼りになる。
「街区、官庁街、そして大聖堂内で騒動を起こす手筈になっております。見え透いていますが、陽動は効果があるのですよ」
その隙きを狙うという作戦だ。夜間人目のない時間帯を狙って、侵入をしようと考えていたユリシスたちだったのだが、作戦は昼間、参拝者が多い時間だと言う。
「大聖堂自体は、参拝者の目もあって、警護の兵は意外と少ないのです。政庁部分になるとかなりやっかいです。もちろん中には兵がいます」
大聖堂に腕がある以上、なんらかの聖霊術式が展開されているのは確実だとラクシンは言う。
アリトリオは待ってくれと言った二日の間に、ラクシンに渡りを付け、ラクシンたちは、ユリシス一行がここに着くまでに手配を終えていた。この周到さは、腹をくくっているとも言える。
もしかしたらアリトリオは全てを想定していた?
「試されているのかもしれないわね、アリトリオに、私たちは」
狡猾とは言えないだろう。アリトリオはユリシスと誰かを天秤に掛けているわけではない。確かめたいのだ、それは恐らく、アリトリオ自身をも含んでいる。
その上で先の先までを見ようとしているのかもしれない。場合によってはレストロアの奪還まで視野に入っているのではないだろうか? その場合、アリトリオはどうするのだろう。また君主に戻ってしまうのだろうか。そうなるとユリシスは大事な片腕を失ってしまうし、アリトリオに利用されただけになる。
「それも含めてか……」
ランサに着替えを手伝ってもらいながらユリシスは一人つぶやく。声にならないような小さな声で。
「巡礼者が使う乗り合い馬車があります。ここからはそれを使ってください」
ロボがラクシンに問い掛ける。
「俺はどこまで一緒にいける? もちろん最後まで付いていくつもりだが」
乗り合い馬車であれば何ら問題なく乗っていられる。大聖堂に関しては不明だが、入る直前に騒ぎが起こるので、その隙きに侵入すればいいという説明だ。
「それを聞いて安心した。ここまで来て役立たずではすまされないからな」
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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