第70話 皇都
絢爛とは決して言えない。浮つきのない落ち着いた街だった。巡礼者たちで賑わってはいるが、どことなしか静けさがある。さすがに皇都だけあり、治安維持もしっかりとしている。作戦に支障を来さないか心配になるほどだ。
皇都バレルもユイエスト教の聖地のひとつだ。教団発足当時、信仰を広めるために力を尽くした聖者バレルの没した土地と言われている。大聖堂にも神と共に祀られている。
信仰する神は同じでも、宗派が違う。大聖堂の建築様式もかなり差異がある。救済派の教会は角があまり目立たないような優美な造りだが、贖罪派の様式はより荘厳さを重視しているように見受けられた。
もちろんユリシスとランサにとっては初めて見る贖罪派の大聖堂だ。
「ラクシンは初めてなの?」
演技しながらユリシスは話し掛ける。三人は親戚同士という設定になっている。いろいろと用意してきたが、ここまで何ら咎められてはいない。実のところそれも想定済みだったのだろう。
「そうね初めてよ。なんだかドキドキするわね。大聖堂って中身はどうなってるのかしら、足を踏み入れるなんて感動で胸がいっぱいになるわね」
何気ない言葉の遣り取りだが、ラクシンは今から始まる作戦を暗に告げている。一歩踏み込んだら、真っ直ぐに走り出すのだ。地図を見る限りでもそうだったが、実際に目にすると、大聖堂は巨大な建物だ。それは同時にバレルの大きさを物語っている。中はかなりの巡礼者を収容出来る作りになっているようだ。見上げると奥には尖塔が建っているのが見える。大聖堂は縦に長い構造になっている、政庁も兼ねているのだ。
「ハッシキ、大丈夫? 場所、分かりそう?」
最終確認だ。
「この建物で間違いはないよ。腕の回りがどうなっているのかまでは分かりにくいね。何かで縛られているような感覚があるよ」
ユリシスは最後にもう一度ラクシンを見つめる。薄茶色の瞳から放たれる視線がユリシスのそれと交差する。
「上手くいったらどうすればよろしいでしょうか?」
ラクシンはフードをまくり上げる。
「そのまま市国へお戻りください。追って連絡をレストロア卿へ」
うなずいたユリシスは扉の前に立つ。ランサがその腕からロボを下ろす。ラクシンが重たそうな扉を押し開く。すべてが始まる。
目を覆うばかりの閃光、同時に耳に届く爆発音、先行していたラクシン配下の手による陽動作戦だ。突然の光と音にあたりは騒然となる。壁際に立っていた兵士の注意が爆発に奪われる。
「走って!」
ユリシスたちの後ろでは次々と爆発が起こる。椅子が飛び壁に当たって砕ける音、柱に入る亀裂、兵士も吹き飛ばされている。大聖堂の外からも大きな炸裂音が響いてくる。ユリシスたちがここに飛び込んだ時点で作戦が発動したのだろう。
ユリシスは大聖堂奥の神の像の脇を通り抜ける。
「そのまま真っ直ぐ、あの扉に飛び込んじゃおう」
ハッシキは腕の存在をはっきりと認識している。扉を空けると反対側の扉から兵士が出てくるところと鉢合わせた。その数は十数人ほど。
「避難者? 此処から先は入れませんよ!」
状況が良く飲み込めていないようだ。大聖堂の爆発から避難してきた巡礼者だと勘違いされているのだ。擬態を解除していない子狼の姿のままのロボが猛烈な速さで兵士たちに突進する。
身体が白光に輝く。そのまま鎧ごと兵士を貫く。同時に咆哮を上げると、敵兵の頭が二つ吹っ飛ぶ。
この時点で相手はようやくこちらが侵入者、すなわち敵だと認識したようだ。剣を抜く、が遅い。
「イザロの炎ティンノウル!」
鋼鉄をも焼き尽くす数億の針が飛ぶ。ランサ得意の聖霊術だ。貫かれた身体から火が吹き出す。ユリシスは人の燃える臭いを初めて知った。気分の良いものではない。ランサの放った針は素通りしただけでも身体を発火させる。兵士たちは鎧を着ている。つまり、その中で身体が焼けていくのだ。踊るようにもがき苦しんでいる。
ロボはともかくとして、剣術勝負ならばこちらはかなり不利だ。ユリシスとランサを体つきを見てもそれは明らか。聖霊術とユリシスの術式で押していく。聖刻神器で文様を刻んでいく。
「グラベーリン! ブラン! エクスプロデル・フローマ!」
大きさを調整した超高温度の掌大の炎が兵士を直撃する。断末魔の悲鳴を上げ、ユリシスの前で兵士は灰になる。
ロボが最後の兵士の喉首を食い破る。十数人の兵士たちは、それこそ十も数えない間に無力になった。炎系の術式を使ったため、部屋が燃え始めている。
「一万人は大げさだけれども、二人がいればこれぐらいの兵士はなんとかなるわね。もちろん剣を握ってなどは戦えないけれどね」
一行は兵士たちが入ってきた扉を先に進む。大聖堂の外からは間断なく爆発音が響いてくる。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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