第52話 合格
舞い落ちる骸骨の欠片と一緒に、人化したロボが降ってきた。ロンドが軽々と受け止める。火傷を負っているようだ。あれだけの雷を浴びたのだ。ランサが急いでベホンディングを施すと、すぐに意識を取り戻した。
「死んだかと思った」
ロボの最初の一声で皆が笑い声を上げる。
ユリシスはふと周囲に気配を感じた。いや、戦いの最中から感じていた。精霊のものだ。
「ちぇっ。おもちゃ壊れちゃったね」
おもちゃ? こちらは死ぬような思いをして破壊したのに、それが精霊にとってはおもちゃだとは思いもよらなかった。
「しっ、それは内緒でしょ」
宥めるように声がかかる。
「お見事でした。あなた方は試験に合格しました」
少し引きつった声が響いてくる。
「えっ、合格なの? 合格させないためにいやがらせするからってあのおもちゃ用意したんじゃないの? 何で合格?」
どうやら精霊の中でも意見が分かれていたようだ。対話での合意があったと聞いているがいろいろ事情があるようだ。ユリシスは精霊に声を掛ける。姿は見えないが、どこにいるのか方向ぐらいは分かる。
「いろいろ事情がおありのようですが、お教えいただけますか?」
ユリシスの問い掛けに返ってきたのはため息だった。一番落ち着いている精霊が応えてくれた。
「一言でいうと根負けしたのですよ、私たちは。そこにいるロボという聖獣はとてつもなく強いのにさらなる強さを望んだ。ユリシスさんってどなたですか?」
ユリシスはそっと手を挙げる。もちろん左手だ。
「そうですか……。そこのロボという聖獣は二度失敗したと言っていました。守れなかったと言っていましたよ。自分は失敗作の欠陥品、だから再契約してもっと強くして欲しいと技まで指定してきたのですよ」
精霊との話しは長時間に及んだようだ。ロンドも口添えをした。
「それで条件をつけたのですよ。最終試験をクリアすれば望みを叶えようとね」
さっきの囁きからすると、合格させるつもりはなかったように見受けられる。その点を詰問するとあっさりと認めた。
「そうですよ。これ以上強くなる必要などどこにもない。ちょっと注意すれば貴方を守るくらい簡単なのですから。だから最強のおもちゃを用意したのです。私たちの力を無尽蔵に吸収する代物ですよ」
それを私たちは破壊してしまったのだ。
「正直に言って不本意ですよ。おもちゃを破壊されたのも、再契約をするのもね」
でも精霊が約束を破ったとなると沽券にもかかわってくる。聖獣の国では精霊は嘘つきだと言いふらされると今後にも問題が大きい。聖女が戴冠するたびに聖獣は召喚される。召喚に疑いを持たれるのはとても心外だろう。説明する声はどんどん重たくなっていく。
「だからそのロボの願いは聞き届けます。再契約して差し上げますよ」
ロボが要求したのは眷属召喚と擬態の二つ。それに再契約により能力が上書きされるため、さらに強くなると精霊は言う。
「正直に言って規格外です。あなた方と一緒にこの地にとどまってもらいたいぐらいですよ。でもそれも聞き入れてはくれないでしょうね。それも分かるだけに、こちらとしても苦渋の選択なのです」
しかも、人間がこの聖獣の国にやってきたのは二例目。最初の人間はもちろん試験など受けなかったし、滞在日数も短かった。今回はこちらで訓練も受け、一緒に試験も合格してしまった。
「聖獣の国は化け物を育て上げて人間界に送り出す機関ではないのです。長老よ。二度はありませんから、次からはしっかりした育成をお願いしますよ。では再契約に移りましょう」
精霊がロボを誘うと、ロボを中心にして七色の円がロボを取り囲む。聞き取れないほどの小さな囁きが流れると、円の内側にそれぞれ違った文様が刻まれていく。精緻な文様だ。何が書かれているかは読み取れない。そもそも文字なのかすら分からない。
円陣がきれいに書き上がると、光り輝き始める。円陣が縦になり、光がロボに直射される。人型だったロボがフェンリルに姿を変え、そして光の中に消えていく。円陣が踊るように回り出す。まるで踊っているように。最初はゆっくりと、そして目にもとまらない速さになって七つの色が混ざり合う。
円陣は再びゆっくりとしたリズムに戻っていく。
中心にロボが浮かび上がる。ロボは気を失っているようだ。意識を取り戻す気配はない。フェンリルの身体が輝きを失い。人型へと返っていく。儀式は終了したのだ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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