第53話 贈物

 ロボは眠りから覚めない。意識を失ったまま三日が過ぎた。ランサとユリシス、ハッシキは交代でロボに付き添っている。


「なんの心配もいらない。猛烈な代謝が起こり、身体を作り変えたのです。しばらくすれば気がつくでしょう。まあ、再契約は初めてなので、少し時間がかかるかもしれませんが」


 目覚めると分かってはいても心配だ。ユリシスはベッドの中からロボの手を引っ張り出すと、手を重ねる。その指は細くて長い、繊細な細工物を作る職人の手はこういうものなのかもしれない、ユリシスはそう思った。まるで女性のようでもある。性別は無いと言っていたが、ロボはどちらかと言えば男性的だ。フェンリルという見た目からしてそうだ。それだけに、意外さが募った。


 扉がノックされる。振り向くとランサが部屋へと入ってくるところだった。交代の時間だ。


「まだ起きませんか。なんだか心配になってきました……」


 ランサにとって、ロボはユリシスを支える相棒のような存在だ。いなくては困る。不安そうにロボの額に手をあてる。気休めにベホンディングを掛けているのだ。病気でも怪我でもないから効き目はないのは分かっていても、そうしてしまうランサなのだ。

 再び扉をノックする音で、二人はベッドから離れる。入ってくるのはロンドだと察しがつく。予想通り、扉を開くとロンドが立っていた。手には三つの小箱を抱えている。


「ロボはまだ起きませんか。そろそろだと思うのですが」


 二人が手に持った箱に注目しているのに気が付いたのか、机の上にその箱を並べていく。


「あれだけ悪態をついておきながら律儀なものです。合格の証だそうです。精霊からの贈り物ですよ」


 精霊によると、ロボに贈られたのはネックレスで、各種抵抗効果があるという。体感調整も出来るらしい、とても優れた品だそうで、人間界にはもちろん存在しない。ロボ専用で、他の聖獣が身につけても効果は得られないそうだ。


「あなた方にはこれです」


 小箱を開くと、白金と金の指輪が入っていた。白金にはユリシスの名前が、金の方にはランサの名前が、それぞれ精霊の文字で刻まれているという。触ってもいいかと聞くと、もちろんという応えが返ってきたので、早速手に取って眺める。


「へえ、ユリシス・リリーシュタットって精霊の言葉だとこんな綴りになるのね。ランサのも見せて。うん、とても素敵な文様ね」


 ユリシスは初めて見る文字列に気を取られている。ランサは早速に指にはめている。どうやら左手の中指がちょうどいい大きさのようだ。


「効果はロボのものと同じだと言っていました」


 ユリシスは指輪をじっと眺める。するとランサが手にとって指に当てていってくれる。


「どの指にも合わないですね。中指には神器がはめられていますから無理ですし」


 すると、ロンドがポケットから同じ白金でできたチェーンを差し出す。


「返ってくれば右腕に着けるといいでしょう。それまではネックレス代わりに首に着けておけばいいでしょうね。効果は発動するようですよ」


 ランサはチェーンを受け取ると、指輪を通してから、ユリシスの首へと掛けてくれた。うなじにランサの指が触れてこそばゆかった。


「ロボにも着けておいてあげましょう。意識が早く戻るかもしれません。抵抗効果があるのならば気絶抵抗も持っているはずですからね」


 ロボが意識を取り戻したのはそれからさらに二日が過ぎてからだった。再契約の儀式はあまり覚えてないらしい。


「そうか、俺は生まれ変わったみたいなものなんだな。特に身体に異常はないようだ」


 ベッドから起き上がると、首に着けられたネックレスに気が付いたようだ。ランサが説明する。


「やつらにしてみたら気の利いた贈り物だな。ありがたく頂戴しておこう」


 どうやら気に入ったようだ。

 ロボが意識を取り戻したと聞いて、ロンドが部屋へと入ってきた。聖獣の国にとっても精霊との再契約は初めてなのだ。いろいろとロボに質問をしてくる。


「再契約といっても、契約の時と感じは一緒だな。生まれ変わるという意識はあまりなかった。それより気になるのは力が備わっているかどうかだな。あとで試してみないと。もしダメなようなら文句を言いに行かなければならないしな」


 精霊がどこに棲んでいるのか知っているのかとユリシスはロボに問いかけるが、ロボは首をふる。また呼び掛ければ出てくるはずだと自信たっぷりだ。


「ところでロボ。明後日の晩が満月だ。どうする、行くか?」


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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