第38話 悔恨
ユリシスは目覚めた時、肩にかすかな痛みがあった。身体を起こすと左側に倒れ込んだ。バランスが上手く取れなかったのだ。
倒れた瞬間にすべてが鮮明になった。涙がこぼれた。もちろん痛みからではない。
「また失くしてしまったのね」
ユリシスは起き上がり、がらんどうの右袖をつかむ。
「気が付いたか姫様。また守れなかった、すまない」
ベッドの脇で伏せていたロボが起き上がってベッドのユリシスを覗き込む。
「貴方のせいではないのよ、ロボ。私の油断よ」
思わず右手を伸ばそうとして、慌てて左手でロボを撫でる。
「あ、お目覚めになられましたか、不手際をお掛け致しました。もう開きのしようもございません」
ここで仕事をしていたのだろう、小脇に書類を抱えたランサがベッド脇に駆けつけてくる。
「心配掛けてごめんね。貴方が助けてくれたのね、ありがとうランサ」
ランサは今にも泣き出しそうな表情でユリシスを見つめている。暗殺未遂が知れ渡るのを避けたかったためもあり、追っ手は掛けなかったとランサは説明する。ユリシスはその判断に誤りはなかったと思った。
「でも、心当たりはあるのでしょ? 私と同じだと思うけれども」
ユリシスの問い掛けにランサはうなずく。
「賊は姫様の腕を持って逃走致しました。腕の秘密を知っているのはごく限られています」
その限られた中でユリシスに敵対する勢力はただ一つしかない。
「ナザレットか、面倒ね。でも腕を持っていってどうするつもりなのかしら? 使いようなんてないように思えるけれども」
ユリシスの疑問に明快な答えをくれたのはハッシキだった。
「何らかの力が秘められている、それを知っているんだよ、相手さんは。まあ、解析なんて不可能だけれどもね。ところでどうする、ユリシス、腕?」
ユリシスは呆気に取られている。腕をどうするかなんて、こちらが決められるわけではないのだ。
「両腕を切り取っていかなかったのは失敗だったね。まあ、あの時間で両腕っていうのは不可能だったけどね。つまり、相手は負けたんだよ、ユリシスを殺せなかったのだからね」
ユリシスには状況がよく飲み込めない。
「両腕を一緒に切り離されていたら、ボクは消滅していたよ、きっとね」
つまり、片腕が残っている以上、ハッシキは消えないし、持ち去られた腕も機能している。
「どこにあるのかも分かるのね?」
ユリシスにもようやく理解できた。腕と腕は魂の回廊でつながっているとハッシキは以前説明してくれたのを思い出したのだ。場所の特定なども可能なのだろうか?
「残念ながら、大まかな方向と今の状態が分かるくらいなんだ、ちょっと感覚的になってるみたい。細い糸で繋がっているっていうと分かりやすいかな」
やはり切り離された影響はあるようだ。
「あの……。姫様の腕、取り返しにいきませんか、私たちで。ロボだってきっとそうしたいはずなんです」
見ると沈みきっていたロボの瞳に光が宿っている。
「ぜひそうさせて欲しい、姫様。俺はもう不覚はとらない。……ただ、もし行くのであれば、少し用意が必要だ。時間が欲しいし、できれば一緒についてきてもらいたい」
ロボ歯切れが悪い。いつもの快活さがみられない。意欲は見せているものの、やはり自分を責めているようだ。何か考えがあるらしい。
「まずいけるかどうかを考えなければならないわね。当然ここを離れるわけだから、諸々調整が必要になるでしょうね」
ランサはうなずくと部屋を飛び出していく。しばらくするとレビッタントを連れて戻ってきた。
「聖女様、この度は誠に申し訳なく、臣の不手際でごさいます。それで、娘、いや補佐官から伺いましたが……」
もちろん、ランサは腕を取り戻しに行く方向で話しを進めていきたいようだ。
「かなり危険が伴うのではございませんか? これ以上聖女様の身になにか起こるのは臣としては耐えられません」
しかし、話し合いでなんとかなるとも思えないし、出せる軍隊もない。待っているだけでも腕は返ってこない。自分たちで動くしか手はないのだ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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