第6話 連絡先とビニール袋の対価
次の日、目覚まし時計の電池を新品に交換しておいたので、ちゃんと早く起きて朝食を作って食べる事が出来た。
ここ数日、朝食抜きだったからなぁ…成長期に空腹はツラい。
今日のおかずは納豆、卵、刻みネギ、オクラ、明太子を混ぜ合わせたものだ。
これをご飯の上に掛けて食べるとメッチャ美味い!
あとは味噌汁があれば最高だ。
顔を洗って歯磨きをし、制服に着替えて家を出る。
府中駅に着き電車を待っていると、昨日の電車の発車時刻より2本ほど早い電車が駅のホームに入って来る。
車内の人混みはそれなりにあるがギュウギュウでは無い、良かった。
俺は電車に乗り込み扉が閉まってから周囲を探すと……居た。
女の子はコチラに向かって歩いて来ると、俺の頭を正面からワシャワシャし始めた。
「おはようございます。
改めまして、私は
「…オマ…針生、俺の頭をワシャワシャしないと話が出来ないのか…?
俺は片倉楓、高1。」
「だって…モフモフしててカワイイじゃないですかぁ。
んーヨシヨシ。」
「かっ、カワイイ…?
…よっ、ヨシヨシじゃねぇ、俺はオマエの犬じゃねーぞ!
それに俺はネコ派だ、犬は嫌いだ。」
「え〜、犬カワイイのに…
何で嫌いなんですか?」
「…昔、中型犬に咬まれて掌に穴が空いた事がある。
それ以来小型犬も駄目になった…。」
「えーっ…可哀想…………。
…じゃ、片倉君、また明日〜。」
「またかよ!一駅って早えぇな…。」
俺は針生と連絡先の交換が出来ず、密かに残念に思っていた。
何だかんだ言いながら俺は針生に惹かれていたみたいだ。
そう考えていたら、針生は電車を降りる前に制服のポケットからメモ紙を取り出して俺に渡して来た。
「電車の中だと交換する時間無いと思って。
これ、私の電話番号とSNSのIDなので、連絡してくださいね。」
俺は手を振る針生を見送って電車の扉が閉まってからメモ紙を眺めていた。
そこでふと視線を感じたので周りを見渡したところ、何人か見た顔が俺から視線を逸した。
こっ、コイツ等…昨日車内でニヨニヨしていた連中だ、マジか…!
「お巡りさーん、ココにストーカー共が居まーす!」
と大きめに声を出したところ、ビニール袋をくれたオッサンが近寄って来た。オマエもか!
もうコイツはアレだ、長くて言いづらいから略してビニオだ。
「まぁまぁ、皆君の恋の行く末が気になってるんだよ、上手く行く様に願ってるから。」
そこでビニオがニカッと笑いながらサムズアップすると、呼応した様に前期高齢者、若い女性等の様々な年代の男女の親指が付近で何本も上がっていた。
「…で、ホンネは?」
「朝の連続ドラマを見てるみたいで面白い!
一駅分のラブストーリーみたいな。」
…誰かに見られてると思うと一気に醒めるな。
俺はジト目でビニオを見ていると、ビニオは
「まぁまぁ、ビニール袋あげただろ?
あれの対価だと思って。」
「随分と高けぇ対価だな、オイ!」
俺は針生と連絡が取れる様になったら、電車の時間を変えるか車両を移動しようと心に決めたのだった。
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