第33話

      三十三


      夫


「呉谷? 呉谷か。今どこにいるんだ。無事なのか!」

 私はもう呉谷の捜索には関わってなかったが、加藤から呉谷がまだ見つかっていないという連絡をつい数日前に受けていた。

「お前が全然姿を現さないからお前の家族と捜索願を出しに行ったんだぞ。心配をかけさせやがって。今どこにいるんだ?」

 それを聞いた呉谷は舌打ちをした。

「愛香に会ったのか」

「そうだ。お前が結婚していたと聞いて驚いたよ」

「まあ、いい。とりあえず、俺がお前に連絡を取ってることは誰にも言わないでくれ。頼むよ」

「そういうわけにはいかないよ。みんな心配してる。お前が無事だって伝えないと」

「頼むよ。複雑な事情があるんだ。お前とだけ会って、話したいことがある」

 呉谷はそう言って、落ち合う場所を私に伝えた。



      妻


 結局、それから少しだけの問答の後で沙月は解放された。例によって、あの二人が乗る車だ。そのまま沙月の監視に移行するつもりなのだろう。

「なあ、東城さん困ってんだよ。呉谷の居所知ってんだろ? 観念して教えろよ」

「私が今、呉谷と何の関係もないことはあなた達が一番よく知ってるでしょ」

「さあー、メールとかされたら分からないからなあ」

「じゃあ、見る? 私の携帯」

 沙月は普段からほとんど使っていない携帯電話を突き出した。

「いらねえよ。面倒だ」

 運転している方の短髪の男がそう言うと、まさに受け取ろうとしていた大柄な方の男が、「良いのか?」と不安そうに聞く。

「東城さんも、そこまではしなくて良いって判断したんだろ。あんまりこだわりだすときりがないぞ」

 沙月が携帯電話を鞄にしまった直後、サイレントモードにしていた携帯電話に勝廣からの着信が入ったが、幸いなことにそのときは誰も気が付くことはなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る