ASMR中毒の勇者たち

やすんでこ

ASMR中毒の勇者たち

 荒れ狂う波──。


 私たち四人の勇者が乗る船は、現在地を見失っています。私、火の勇者『グレン』。水の勇者『アクア様』。雷の勇者『ライデン様』。風の勇者『エアロ様』。


 船内の貯蔵庫には、食料や魔王討伐の報酬がそこら中に転がっています。魔王の剣、虹のオーブ、神獣の卵、断罪の翼など──幸いにも気泡緩衝材こと『プチプチ』で包装されており、傷は付いていません。


 魔力感知スキルを上昇させるブレスレットが落ちていましたので、私が身に着けておきましょう。


 波乱万丈ありながらも、何とか私たちは『島』に漂着することができたのですが……。


       †


「っ……ここは……?」


 目覚めると、朦朧とした意識の中に鳥のさえずりが飛び込んできました。穏やかな波の音、静かに通り過ぎる風の音。そして天井から爽やかな陽光が……って、天井なくなっちゃったみたいですね。漂着時の衝撃が凄かったのでしょう。食料は見当たりません。守り切れなかったのですね……。


「私たち、無事に漂着して──」


「グレンちゃんが最後だな、ガハハッ!!」


 ライデン様が船体へ上がってきました。貯蔵庫の扉の向こうには白い砂浜が覗いています。「すみません、長く寝ちゃってたみたいで……」


「俺たちもさっきまで同じだったよ」エアロ様がさっぱりした口調で告げます。「寝起きのところ悪いが、焚き火を作りたい」


「お手伝いします」


「まあまあ、魔王はもういねえわけだし、のんびりいこう、や!」


「ぐあっ!」ライデン様がエアロ様の肩を思いっきり叩きます。「危ないってば、おっさん!!」


「おっさん言うな!」


「作業開始まであと三分。予定終了時刻との誤差、およそ十分」


 水色ロングヘアの美しいアクア様が、焚き火の設置地点へ引き返していきます。


「ガハハッ、アクアちゃんは相変わらず愛想ねえなあ」


 私も後を追おうとしたときです。不意に背中におぞましい冷気が……。


「魔物っ!?」


 咄嗟に振り返りますが、貯蔵庫には誰もいません。それに今、何か動いたような……。


「どうかしたのか」エアロ様が心配そうにいいます。


「いえ、魔物の気配が──」


「考えすぎだ。俺たちは魔王を倒したんだ」


「そう、ですね……ちょっと神経質になっていたのかもしれません」


「リラックスリラックス。もっと肩の力を抜いてだな──」


「人のことより、まずは俺の肩から手を離してくれよ、もう!」


「ガハハッ、お前は例外だ例外」


 この調子ですと、お二人は気付かなかったようですね。


「さっきの感覚、一体何だったのでしょう?」


 もう一度見渡しますが、やはり気のせいだったのかもしれません。忘れることにしましょう。


 空には見事な晴れ間が覗き、昨夜の嵐が嘘のようです。砂浜の先にはたくさんの木々が生い茂っています。葉っぱが風で揺れる音、砂浜を踏みしめる音、何というか──とても癒されます!!!


 船内の貯蔵庫に残っていた薪を火劇魔法で燃やし、焚き火の完成です。


「これが火の勇者の実力です! えっへん!」空に向かって自慢します。


「っしゃー! ちょっと早めのパーティ!! といいたいところだが、肝心の食料がな……」


 ライデン様が無念そうに乾杯のポーズを決めています。


「ごめんなさい、私がちゃんと守っていれば……」


「いや、グレンちゃんを責めるつもりはないんだぜ……」


「あんたが取って来い。魚を感電させて大量ゲット狙えるだろ」


「魚パーティかあ、悪くねえなガハハハッ!!」


 エアロ様は耳を押さえながら、「あんたのためじゃねえんだからな」


 ツンデレですか?


「では、助けが来るまで食料を調達しましょう」


「同意」


 アクア様はコップに水劇魔法で水を注ぎ始めます。


 コポコポコポ──……。


 容器に液体を注ぐ音。アクア様がぶるりと身体を震わせます。


「究極の癒やしとは水の音。異論は認めない」


 究極の癒やしの追求。それを言ったが最後、私たちを取り巻く空気は一変するのです。


 水の溜まったコップの中に、さらに一雫──。


 ポタンっ。


「フイ〜……、マイナスイオン」


 またアクア様はぶるり。


 それを見兼ねたのでしょうか、エアロ様がすくっと立ち上がり、


「言っとくが、世界最高のASMRは風の音と相場が決まってる!」


「ガハハッ。エアロ、お前は何も成長しとらんな。スパークよ、スパーク! それしか考えられんだろう! あれを痛む腰にやると、嘘みたいに腰痛がなくなって──」


「確かにあれ、気持ちいいですよね。ですが、やはり私は火のパチパチする音が好きです。火こそ至高のASMRです」


「まあ、二番目として認めてやってもいいがな」


 ライデン様はうんうん、と頷きます。


「みんな譲る気はないみたいだな」エアロ様が私たちの顔を見渡します。


 魔王を倒すまでこの話題を避けてきました。でも、もうその必要はないのです。


「ここで決着をつけましょう。ASMRの頂点を」


「癒やしは主観的。順位付けには客観的評価が不可欠。科学的評価を推奨」アクア様は水を飲み干します。


「癒やしを科学的に分析するのはいいが、それなら第三者によって決められるべきだ。火、水、雷、風の癒やし効果を調べて、順序をつけた魔法論文はあるか、アクア?」


「未発見」


「科学的に順番をつけるのは困難ですね」


「だが客観的評価は必須」


 癒やし論争に決着はつかないのでしょうか?


「おいおい、難しく考えすぎ!!」ランデン様がいきなり雷劇詠唱を始め、


「じじい、何しやが──」


 時すでに遅し。ライデン様の大剣から放たれたスパークが、私たち三人を駆け抜けました。


「ひっ!!」


 私は素っ頓狂な声を上げてしまいました。腰の辺りにビリリッと刺激が来て、奇妙な感覚です……。


「ほら、立ってみ」ライデン様は納刀し、得意げな笑みを浮かべています。


「あ、少し体が軽いです」


「だろ〜、癒やしの本質は体験だ。俺たちは理屈屋じゃねえ」


 ライデン様はアクア様のほうを勝ち誇った顔で眺めますが、


「電気分解への応用可能性。魔力型電気分解と、通常型電気分解のどちらが低コストで生産可能か。魔素削減社会の実現」


 アクア様の目がキラキラと輝いています。


「あー、くそーっ、そうじゃなくてだなあ」ライデン様は頭を搔きむしります。


「あのー、提案があります。癒やしとは何かを考える前に、やはり評価方法を決めるべきです」


「賛成だ」エアロ様がいいます。「グレン、案があるのか」


「たとえば、癒やしマニアの二人の魔道士がいるとします。片方の魔力は1で、もう片方は10とします。その場合、10の魔道士のほうが10倍の人を癒やすことができます」


 エアロ様がパチンと指を鳴らします。「なるほど。癒やした数で競おうってか」


「しかし問題もあります。おそらくこの島にいるのは私たち四人だけ。癒される人の数が足りません」


 ライデン様が首を傾げ、「比べる方法がないんじゃ、どうしようもないわな」


 私はしばし考え、


「そうです! バトルです!! バトルで決着をつけましょう!!!」


「おもしれぇ!! 喧嘩上等だ! んじゃ、ライデン様の相手はどいつからだあ?」


「だから耳元で大声出すな……脳筋じじいは黙っとけ」


「の、脳筋だと……」


「グレンのことだ、何か考えがあるんだろう」


「癒やし属性を決めるのが難しいなら、癒やすのが上手い人を決めるしかないと思います。魔法で相手を拘束し、先に癒やしたほうの勝ち。私たちは歴戦の勇者。動きを封じるのに相当な魔力とスキルが必要になります。さらにASMR愛好家です。私たちを癒せるなら本物と認めてよいはずです」


 話し終えると、皆さん互いの顔を見つめ合います。気に入らなかったでしょうか……。


「それいいかも! 癒やしの声を漏らしたほうが負けってルールも追加で」


「はい、エアロ様!」


「合理的判断」アクア様は水龍召喚を解き、「ライデン、勝負を申請」


「おうよ! アクアが相手なら不足はねえ。俺様の雷属性セラピーでとことん! 癒やしてやるからよ!」


「負けない。癒やしで水に勝るものは皆無」


 魔王討伐以上の緊張感です……。亡き魔王も複雑な心境ではないでしょうか。


 勝負の舞台はそこの砂浜です。アクア様は海水を自由に操り、ライデン様は水のフィールドに電気を自由に流せます。


「初戦の審判は俺が務めよう。どちらの贔屓もなし、中立に判定する」


 砂浜で向かい合うアクア様とライデン様。


「ぶっちゃけ、アクアに勝ってほしいけどな」


「おい、てめえ! さっき中立っていったろうが」


「華奢な女の子と髭面のおっさん、どっちを応援するかなんて言うまでもないだろ、じじい」


「くっ……、散々じじい言いよって」


「準備はいいな! デュエル!!」


 エアロ様の合図と同時にライデン様が高等雷劇魔法を唱えます。


 それを読んでいたのでしょうか、アクア様は素早く後ろへステップします。


「俺様の先制攻撃を読み切るとは、さすがはアクア」


「思考パターンを解析しただけ」


「なるほど、頭脳戦は苦手分野だ。だったら──雷撃疾走!」間合いを一気に詰めます。


「アクア様!!」つい叫んでしまいました。


 ライデン様は本能の赴くままに攻守を操ります。賭けに勝つこともあれば、負けることもあります。頭脳戦が得意なアクア様にはやりにくい相手でしょう。


「水星五枝」アクア様の槍が青く光ると、一瞬で天へと昇る水柱が生成し、水路が星型に分岐します。


 ビリリッ、と凄まじい雷撃音が鳴ったかと思うと、五つに分岐した水流回路でアクア様は回避、うまく電気を逃がしました!


「水龍よ、我の願いを聞き届けよ」


 今度はアクア様の反撃です。槍から巨大な水龍を生み出し、あっという間にライデン様の大きな体を水ブレスで囲みます。


「くそっ、周りが見えねえ!」水龍が生み出した檻の中で、ライデン様は狼狽しておられるようです。水龍は海上高くまで昇り、滝のように落下するブレスを吐きます。


 ドオオオォォォーーー。その瞬間、豪快な着地音が辺りを支配します。


「まるで滝が近くにあるみたいです……癒されますね」


「大自然を独り占めしてるようだ」エアロ様も感心しているようです。


「くそっ、アクアちゃんの居場所がわからん! こうなれば勘が全てってもんよ!! いでよ雷龍、ライデン様の命に従え!!」


 直後、水の檻の中から大きな咆哮とともに雷龍が出現し、水龍に向かって飛んでいきます。


 まもなく水龍と雷龍の激しい取っ組み合いが始まります。相手の急所を狙いつつ、両者一歩も引きません。


「目標時間に到達、突撃」


「突撃だと?」エアロ様が驚いた顔をしています。「アクアにしては大胆だな」


「ライデン様の猛攻に圧されているのでは」


「勝負あったな、アクアちゃん。悪いが俺様の勝ちだ。水龍を撃ち落とせ!!」


 主の命で雷龍がついに水龍の首を捉えました。水龍は悲痛な叫びを上げ、海へと落ちていきます。


「そんな……アクア様の水龍が!」


「勝負あり、か」


 水龍が海水へ落ちると、盛大な水しぶきが上がりました。ライデン様を取り囲む水の檻が消滅し、ようやく視界が晴れ──。


「ガハハッ、俺様のかち……」いいかけたライデン様は、まるで時間が止まったかのように固まりました。


「あっ、エアロ様! あれっ!!」


「こりゃ、すごいな」


 水龍の落下で生じた大量の水しぶきで、なんと空に巨大な虹が掛かっているではありませんか。


 するとライデン様は力を失ったように跪き、「ああ、我が祖国マルテミア。ミーナ、ケイオス……もうすぐ会えるのだな。あの日、お前たちと見た虹を思い出す……」


「これは……」一瞬にして形勢逆転です。


「魔法じゃなく精神的にとどめを刺すとは、さすがアクアだ」


「水龍でライデン様の視界を遮ったのは、この演出のためだったんですね」


 エアロ様は愉快そうに笑い、「勝者、アクア」


 見事な試合でした。勝敗の結果も納得です。


「クッソ〜、俺様としたことが」


「脳筋じじいじゃアクアには勝てねえよ」


「だから脳筋いうな!!」


「エアロとグレン。戦闘準備を要請」審判はアクア様が務めるようです。


 いよいよ私の番ですね。何だか緊張してしまいます。武者震いしながら、所定の位置でエアロ様と対峙します。


「火と風の試合か。おもしろい組み合わせだな」


「どちらが勝ってもおかしくありませんね」


「悪いが、勝つのは俺だ。風こそASMRの頂点にふさわしい」


「デュエル」


 アクア様の掛け声で、私はすぐさま火劇魔法を唱えます。いきなり火龍を召喚するのは愚策ですから、時が来るのを待ちましょう。


「紅蓮炎砲」


 灼熱の紫炎玉をエアロ様めがけて飛ばします。得意な高等魔法です。初手から攻めないと勝機はないでしょう。


「来ると思ったよ、風柳消天」交互に構えた双剣が眩い緑の光を放ち、次々と強力な風緑玉を生み出します。紫炎玉と風緑玉がぶつかり合って相殺します。


「やはり一筋縄ではいきませんね」


「次はこっちからいくぜ! 風龍よ、いでて我の命に従え!」天を貫くように双剣を掲げます。


 すると風龍が出現し、じろりと私を見下ろします。エアロ様は上昇気流を巧みに扱い、風龍に飛び乗ります。今度は双剣を二枚重ねて詠唱の姿勢をとります。


「あれは……」


「大地転生!!」


 その瞬間、強烈な突風が襲ってきました。まずいです、身動きが──。


「風の勇者エアロの命に従え。乱流昇華」


「うわぁぁぁ!!」視界がどんどん高くなっていきます。地面から突如吹き出した風に押し上げられ空中に浮いているのです。やりますね、さすがはエアロ様。


「これで自由は奪った」


「果たしてどうでしょう」


「何っ!?」


 体勢を整えてからタクトを構え、「火龍よ、いでて我が命に従え。炎裂豪舞!」


 タクトから火龍を召喚し、炎の鎧を纏います。準備完了、反撃といきましょう。


「まさかグレン……その技を!?」


「空中戦と致しましょう。エアロ様が風を操り空を駆けるなら、私は火力で空を舞います」


「望むところっ!!」


 エアロ様が天高く上昇。「火龍よ、火の勇者グレンが命じます。風龍を封じなさい」


 火龍は雄大な咆哮を上げ、灼熱のブレスを放ちます。風龍の右足にヒットするも急所とはなりません。エアロ様が生み出す豊富な風をターボ出力に使い、私はどこまでも加速できます。ふと下を覗くと、ライデン様とアクア様が点のように小さく見えました。


「おっと、よそ見してる暇はないぜ。風紋錯乱」


「きゃぁぁ!!」


 油断しました。急に風向きが変わり、バランスが……。風向きがランダムでターボをうまく制御できません。


「どうしたグレン、お前の力はそんなものか?」


「いいえ、負けません!」


「もらったぜ! 風龍よ、火の勇者を拘束せよ!」


「火龍よ、我を守る盾となれ」


「風凪一閃」風劇魔法が放たれ、エアロ様のいる地点に収束する、嵐のような風が吹き荒れます。


「その攻撃、待っていましたよ!」


「何だと!?」


「炎炎疾風」風向きに合わせてターボブーストを発動させれば、倍以上の速さで動けるようになります。フルスロットル!!!


「風紋結界!」


 予期しない猛攻に驚いたのでしょう、エアロ様の張った結界は未完成です。私の突き刺したタクトがエアロ様の結界に亀裂を生じさせます。


「くそっ……!」


「火龍よ、今こそ結界を破りし時!」


 火龍は炎を纏った尻尾でエアロ様の身体を弾き飛ばし、ついに結界が破られました。


「ぐわぁぁぁ!」


 エアロ様は風力制御を失い、みるみる高度を落としていきます。


「エアロ様、これを!」


 急速落下するエアロ様に何とか追いつき、私は『あるモノ』を渡します。


「……これ……は?」


 私が渡したもの、それは長方形の絹です。「ニ隅ずつ両手で持って、頭の上で広げてください!!」


 まもなくエアロ様の頭上で巨大な『パラシュート』が開き、空気抵抗力で凸型に広がりました。


「火玉明天」


 これこそが狙いです──。


「まさか、最初からこれを──」エアロ様の落下速度が徐々に緩み、「気球だとっ!!」


「私の狙いは初めから気球を作ることでした。標高の高い魔王城から脱出するとき、皆さんで使いましたよね」


「勝つ気はなかったのか」


「先程のライデン様たちの試合を見るまでは。私は重要なことを見逃していました。それはASMRの掛け算です」


「風嶽飛来」エアロ様は上昇気流を生成し、気球を安定させます。「気球には風と、空気を温めて上昇させる火力が必要だ。考えたな……。なるほど、こうして眺める景色は格別だ」


 私もパラシュートを開き、風と火が織りなす究極の癒やしを堪能します。「世界には魔法の使える人は少ないです。そんな方たちでも、こうやって空を飛び、絶景に癒やされるのです」


 目を閉じると、心地よい風の音。頭上で逞しく響く火の音。ASMRは奥が深いです。


「俺の負けだ。グレン、お前は癒やされる人の立場に立って答えを出した。誇っていいと思うぜ」


「ありがとうございます、エアロ様」


 究極のASMRを決める闘い。それは魔王討伐より私たちに大きな成長をもたらしました。


 ASMRはこの世の命題であり、魔王討伐会議より話し応えがありました。王国に帰ったら、今度は世界中の人を癒す旅にでも出ましょうか。


 一件落着、船の貯蔵庫に備品を取りに入った瞬間のことでした。


「感じますっ!」私の声で全員が一斉に武器を構えます。「強い魔力。やはりまだ魔物が……、もしかして、このブレスレットで」


「魔物は全滅。存在確率はゼロ。ブレスレットなしで感知できないほど微量な魔力」


「どういうこった? 魔物は消滅したってのに魔力感知するなんて」ライデン様は口髭に手を当てています。「貯蔵庫の中を探してみっか!」


「そうですね」


 貯蔵庫と呼ぶには備品がほとんど残っていませんが、いくつかの戦利品は無事なようで──。


 ってあれ? 何か足りない気が……。


「神獣の卵がない!!」エアロ様が床に散らばった残骸を見下ろして声を上げます。「殻だけここに落ちてるぞ!」


 まさか……、そう思ったときです。


「キエエエエエッー!」


 人間とは明らかに違う獣の声が機関室から聞こえ、やがてテクテクと『鳥の見た目のそれ』は歩いてきました。まだ赤ちゃんですが、嘴だけは立派に尖っています。正真正銘、神獣です。私たちがキャンプを造りバトルしている間に卵からかえったのでしょう。


「か、かわいいっっ!!!」つい声を漏らしてしまいました。


 おそるおそる近付き膝をつくと、顔をすりすりしてくるではありませんか!!


「このモフモフ、癒やされます」


「なんだ魔物じゃねえのか、どれどれ。俺にも触らせてくれ」ライデン様は高らかに笑って納刀し、抱き上げます。


「おっさんの匂いがつくからやめてくれ」


「ちゃんとケアしてますうっ!!」


「なでなで」アクア様は遠慮気味に撫で、すぐにレポートを書きます。


 ライデン様が床に下ろすと、神獣はまたテクテクと貯蔵庫を散歩します。その様子を何となく見守っていると、『あるモノ』の前でぴたりと立ち止まりました。


「プチッ、プチッ」


 戦利品を保護する『気泡緩衝材』。通称プチプチ。


「プチッ、プチッ、プチッ」鋭い嘴を『それ』に当てて潰した際に奏でられるヒーリング音に、


「ASMRサイコー!!」私たちの声が重なりました。


 ASMRの頂点は、プチプチです!!


 勝者、神獣の赤ちゃんです!


「キエエエエエッ!!」

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ASMR中毒の勇者たち やすんでこ @chiron_veyron

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