牢獄
地下都市第1階層、世界連盟によって合同で作られた地球半分を包む人工洞窟、氷河期を迎えた地球の地下ではかつて争っていた国も今では手を取り合い運営をしている。この第1階層は主に工業や刑務所といった施設がある。地表に一番近いこともあり、熱を発する工業や、刑務作業をする囚人たちにとって都合のいい環境が整っている。
今日も朝五時に極東刑務所の起床ブザーが鳴り、囚人たちはいっせいに部屋からグラウンドに出る。刑務所とは言っているが、特に環境がひどいわけではなく、犯罪を犯した者を更生させるための施設と言えよう。
「整列! 番号!」
刑務官の掛け声に合わせ1から囚人は番号を言っていく。万が一を考え刑務官は武器を装備しているが使われたのは過去50年で1回だけだ。点呼が終わり朝食の時間となる。この階層は寒く、いつも微小の雪が降っているため提供される食事は温かいものがほとんどだ。もちろん希望すれば冷麺なども提供され、自由時間には実銃の射撃練習などの娯楽もあり、脱獄する理由はあまり感じられない。今日のメニューは27階層産の鮭のシチューに第8階層のパン屋で作られたコッペパンだ。囚人はそれぞれ食堂の好きな席、または自室の中で食べる。 7時半から17時までの10時間は刑務所周辺の囚人各自が希望した工場での刑務作業となる。工場長はその時間帯のみ刑務官が代理をし、囚人を見張るというスタイルが確立されていた。
ある囚人は船のエンジンパーツを組み立てる作業をしている。ここの工場は比較的まったり作業をしていても怒られず、また組み立ても図面通りにやればいい受刑すぐの囚人が勧められる工場だ。工場長代理がそばを通る。
「10896番、どうだ? 少しは慣れたか?」
彼と代理は過去に警官として同じ警察署で働いていた。囚人は酔った暴徒に殴られ銃で反撃し、不幸にも暴徒を殺してしまった。身を守るために行った行為とはいえ、殺めてしまったという事で実刑判決で1年2か月、刑務所で過ごすことになった。代理はそれと同じ時期に刑務所の監守に任命されてこの1階層に偶然にも同じ時期に2人ともやってきた。
「神楽、名前で呼んでくれても……いや、何でもない。忘れてくれ、まぁまぁ慣れてきましたよ。しかし労働分の給料が出るのは意外です」
そう、この極東刑務所の特徴的なところは刑務作業で給料が発生することだ。刑期が終わり、出所するときに刑務作業時間分の給料の入った通帳を渡され、住宅街のある第8階層まで送られ、解放される。それもあってか更生した囚人は優秀な労働力として高給で雇われることも少なくない。10896番も刑期が終わったら警察に再雇用される手はずになっている。
「ったく、今お前は収監されてるんだぞ? 気持ちはわかるし俺だって名前で呼んでやりたいさ。大丈夫だよ、お前は正しい判断をして今ここにいる。誰も失望してないぜ、じゃ、頑張れよ」
そう言ってその場を後にする。話している間も手を動かして組み立てていたので一組完成した。横にある緑色のボタンを押すと、ビープ音とともに吊り下げられたエンジンが移動し次の作業員に送られる。彼の目の前にはエンジンのパーツと吊り下げるためのフックがガコンガコンと大きな音を立てながらやってくる。これを再びくみ上げるのが今の作業だ。時給は200ランドとかなり高めの給料となっている。理由としては自由時間に行うことのできる射撃練習、実弾ではあるが1発ごとに80ランドルと高価なものになっている。また売店の者も外に比べれば割高で販売されているため、それを聞いた極東工業地帯連盟が囚人たちの給料を底上げしたのだ。
17時となり終業を告げる鐘が鳴る。18時までに刑務所に戻り風呂に入り、19時には再び点呼がある。
「今日もお疲れ様10896番」
代理ではなく正規の工場長から刑務所内のみでしか使えない通貨であるランドルを渡される。金額は200ランドル、ランドにすると100分の1の価値しかない。数年前までは15ランドルしかなかったと20年懲役の年寄りが言っていたためかなりの増額と言えよう。200ランドルは1枚の硬貨で、200、100、50、25、10、5、1ランドル硬貨がある。コイントスをしながら囚人10896番は刑務所へ戻る。最近は貯金をしていたのでそろそろ実弾射撃の練習ができるくらいには貯まってきたはずだ。
鼻歌を歌いながら気分よく、刑務所に戻っていくのだった。
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