~地下都市150階層~

小雨(こあめ、小飴)

水中

「行ってきまーす」

 そう言って船からダイブする、バシャンと音を立て続いてボコボコボコという音に代わる。ザパンと水面に顔を出して船に残った操縦者に手を振る。酸素ボンベのノズルを口に含み再び潜る。水底にはかつて栄えていたであろう高層ビルの群れが見える。地下都市第27階層に該当するこの地域は地上で起こった地割れの影響で12年前に水底に消えた。と言っても水が到達するまで約3日あったため住民は余裕をもって避難していた。今となっては私たちのようなダイバー達のダイブスポットとなっている。今も水が流れ込んできておりそれは28階層に少量ではあるが流れていくため水流があり、それに沿って泳ぐのがここでのマナーだ。逆走するとほかの船とぶつかるかもしれないし、何より泳ぐ体力を消耗し、溺れかねないのだ。

 水流に沿って下っていると魚の群れが見える。ここに流れ込んでくるのは海水と淡水のちょうど中間の水なので27階層独自の生態系がある。目の前にいるのは鯵の群れ、横では鮭が群れを成して水流に逆らって泳いでいる。彼らは上流の26階層の人工川まで遡上し、そこで産卵をする。こういう時のためにこの階層は元々水槽のような構造になっていて1階層から人工の専用水路が引かれていた。しかし、実際に起こった地割れは予想を超えていて25階層までの専用水路付近の建物は床上浸水をしたという。幸いなことにその程度で27階層まで到達した水はダムの放流のごとく流れ出た。今はかつて荒川という川が地上にあったらしいがそこの川の勢い程度まで落ち着いているらしい。私は39階層出身で歴史の授業で習っただけで本当に見たことはない。地上はいま氷河期と呼ばれる恐ろしいことが起こっており、辺り一面が氷の世界になっているらしい。歴史の授業では200年前から地下都市計画は始まり、つい50年前に氷河期になったばかりだという。まぁここまで水が到達するころには大分ぬるくなっているため泳いでいて寒かったり、冷たいと感じることはない。と、一際大きな魚が見える。見たことのない魚なので腰に装着しているスキャナーを取り出し、その魚に向ける。どうやらアジアンフィッシュという魚で魚類研究家が生み出してしまったイルカとクジラのキメラらしい。アジアンとついているのはそのトチ狂った研究家の名前が由来のようだ。スキャナーのモードをカメラに変更し撮影をする。大きさはクジラという博物館で見たホログラムと遜色ない大きさをしている。と、その魚と目が合った。お互いに水中でビクっとした後にアジアンの方から近づいてきた。温厚で穏やかな気性とスキャナーには出ており頭をなでると、目を細めてこちらに頭をスリスリとこすってきた。スベスベで研究者が生み出してしまったということを除けば超が付くほどかわいい魚だ。クォ~と鳴きながら水流を下る私をアジアンフィッシュは見送ってくれた。27階層から28階層へ下るピットウォーターフォールの横で水面に顔を出し空気で膨らむブイをボンベの送風で膨らませ水面に立てる。

 数分後船とランデブーし無事に乗船し船専用の階層移動用水流に乗り28階層へ下る。

「今日はどうだった?」

 操縦手に感想を聞かれる。基本的に27階層へは26階層から下って入らなければいけなくて、この地下都市を運営している国の許可が絶対必要だ。なので船の操縦は基本的に国の許可を受けている企業のだれかだ。今回この人とは初めてだったのでお互いを知るために世間話もする。

「珍しい魚に合いましたよ。アジアンフィッシュです」

「おぉ~そいつはまた、すごいのを見たねぇ資料でしか俺は見たことないよ」

 そんな話をしていると水路を抜け開けた湖に出る。28階層の人工貯水池だ。そこにある桟橋に停泊し操縦者にお礼を言ってその場を後にする。チップで100ランド(旧日本円で約2500円)を渡したので次もまた喜んで受けてくれるだろう。湖前のバス停から40階層行きのバスに乗り運転手に、

「39階層のバス停に」

 といって10ランド支払う。ここからはバスで2時間半かけて家まで帰るのだ。およいだつかれもあるので、私は一人がけの席に座り、静かに目を閉じた。

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