花咲かじいさんの孫は困ってる
小日向ななつ
本編
「みんなを笑顔にしよう。桜よ咲け咲け、花よ咲け~」
昔々、あるところに桜の花を咲かせるおじいさんがいました。
おじいさんはいつも人々を笑顔にするために一年中、桜を満開にしておりました。
そんなおじいさんの孫は、少し不満な顔をしています。なぜなら毎日木々に灰をかけて花を咲かせているため、周囲の人々から〈花咲かじいさん〉と揶揄されていたからです。
「みんなを笑顔にしよう。桜よ咲け咲け、花よ咲け~」
しかも音程が取れていない下手な歌を歌いながら灰をまき散らします。そんな音痴の歌を聞いた人々だけでなく、鳥やネズミ、犬に猫までもが笑っていました。
ですが、花咲かじいさんは気にしません。桜の花を咲かせることに精を出し、村中の木々を一面の桜へ変えていきます。気がつけば裏山は桜色に染まり、季節なんて関係なく咲き誇ります。
そんな桜の花を咲かせるおじいさんはどこか楽しそうであり、だからこそ周りにいる近くの人々は堪りませんでした。
「じいちゃん、もうやめてよ!」
ある日のこと、孫はおじいさんに訴えました。するとおじいさんは驚いた顔をし、木々に灰をかけることをやめます。
孫はそれに少し安堵します。どうやら聞く耳がある。それがわかっただけでも嬉しかったのです。
孫は少し溜飲を下げ、驚いているおじいさんに改めて顔を向けます。そしてどうしておじいさんが花を咲かせているのか問いかけました。
「なんで毎日毎日、灰をかけて花を咲かせるの? みんなから〈花咲かじいさん〉ってバカにされているんだよ?」
「おや、そうなのかい。でもこれをやめる訳にはいかんしのぉ」
「なんでだよ? 別に義務って訳じゃないでしょ? それともやらなきゃいけない理由があるの?」
「ああ、そうだよ。ワシの古い仲間との約束だからな。それにこの灰にはその想いを乗せておる」
「古い仲間? それってじいちゃんを慕ってくれていた犬のこと?」
「他にもいるぞい。キジにサル、あとはウサギやらカメやらいろいろとな。そんなみんなの想いをワシは忘れたくない。みんなで見た桜を見ていれば忘れずに済む。だからみんなの想いが詰まったこの灰をかけて、桜を咲かせているんだよ」
「でも、僕はやめてほしいな。みんなからバカにされるし。花咲かじいさんって呼ばれるおじいちゃんを見るの、僕は嫌だよ」
「ハハハ。すまんなぁ、これはワシが死ぬまでこれはやめられんよ」
孫はおじいさんが言っていることがわかりませんでした。なぜ桜の花を咲かせる必要があるのか。そもそも古い仲間がどうして関係しているのか全く理解できませんでした。
おじいさんはそんな孫の頭をワシャワシャをしながら撫でます。その笑顔はちょっと悲しそうでしたが、孫は何か誤魔化された気がして堪りません。
もっとちゃんと納得できる説明をして欲しい。そう願うものの、おじいさんはそれ以上からり魔戦でした。
そんな孫とのやり取りをしたおじいさんですが、また灰を振りまき始めます。桜の花が咲くたびにみんなからはますます迷惑がられ、孫も困りました。
そんな様子を見ていた孫の友人は、こんな提案をします。
「なあなあ、お前って花咲かじいさんに困っているんだろ?」
「そうだけど。それがどうしたんだよ?」
「だったらさ、あの灰、隠しちゃおうよ」
「え? 隠す?」
「そうだよ。隠しちゃえば木に灰をかけるなんてことしないだろ? 花だって咲かないし、問題は一気に解決するよ」
確かに灰がなければ桜は花を咲かせません。
それに気づいた孫は、友人と一緒に灰を隠してしまいました。すると数日も経たないうちに桜は花を散らせ始めます。
それは見事な桜吹雪であり、何かの終わりを告げているようにも見えました。そんな光景を眺めていると、どこか寂しそうなおじいさんの姿あります。
何かを訴えかけている顔をしてましたが、孫は気づかないふりをしました。そのかいもあってかおじいさんはすっかりおとなしくなります。
これで平穏に過ごせる。もうみんなからバカにされない、と孫がホッと胸を撫で下ろしているととんでもない存在が現れました。
「グガァアアアァァァァァッッッ」
それは頭にツノを生やし、たくましい肉体を持つ人に似て人ならざる者。ギラついた目で人々の動きを止め、虎柄の腰巻きをし、身丈よりも大きな金棒を持つバケモノでした。
突然現れ、襲撃してきたそれに人々は驚き逃げ惑いました。バケモノはそんな人々を見て気を良くしたのか、村の門を破り建物を壊し回ります。
「た、助けてぇー!」
「こっちにくるなぁー!」
「ああ、俺の家がー!」
バケモノは暴れ足りないのか、ついに人々を襲い始めました。一人、二人と大ケガをしていく中、その魔の手は孫にまで迫ります。
孫は懸命に逃げますが、途中で泣いている子どもを見つけてしまいました。
「うわぁーん! 母ちゃーん!」
バケモノはそんな子どもを跳ね飛ばそうとします。それを見た孫は、思わずその子を抱えて逃げようとしました。
しかし、それよりも速くバケモノが逃げ道に回り込みます。大きく振りかぶられた金棒を見て、孫は「もうだめだ」と諦めかけた時でした。
「大丈夫かい?」
叩き込まれると思っていた金棒がいつまで経っても振り下ろされません。その代わりに聞き慣れた優しい声が耳に入ってきました。
閉じた目を開くと、目の前に刀を持ったおじいさんがいました。その傍には腕を切り落とされ、痛みで苦しんでいるバケモノの姿があります。
孫は何が起きたかわかりません。そんな姿を見て、おじいさんはこんな言葉をかけました。
「もう大丈夫だよ。怖いのはそうだね、ワシがコテンパンに倒しちゃうよ」
「ガァアァアアァァァアアアアアァァァァァッッッ!!!」
そう言っている間にバケモノは立ち上がりました。大きな声で雄叫びを上げながらおじいさんへ迫ります。それに気づいたおじいさんは、先ほどとは打って変わって鋭い目でバケモノを睨みつけました。
振り返りざまに姿勢を低くし、流れるように刀を振ります。するとバケモノの左腕が切り落とされ、さらにけたたましい悲鳴を上げました。孫は思いもしない光景にただ驚き見つめます。
華麗な動きと鮮やかな剣裁き。それはまさに歴戦の戦士を思わせるような動きでした。
「歳を取ったもんだ。お前程度なら、一振りで屠っていたもんだが」
おじいさんは鋭い目で両腕を失ったバケモノを見つめます。バケモノはというと、先ほどと違ってガクガクと身体を震わせていました。
ゆっくり、ゆっくりとおじいさんはその巨体に近づきます。そして持っていた刀を大きく振り上げ、バケモノに告げました。
「冥土の土産だ。桃太郎は、歳を取っても健在だってな」
バケモノは断末魔を上げます。まるで助けてくれと叫んでいるかのような、大きな大きな悲鳴でありました。
おじいさんは逃げようとしているバケモノに容赦なく刀が振り下ろし、バケモノは真っ二つにしました。それは見事な勝利であり、孫も村人もビックリする出来事でありました。
騒動を終え、おじいさんはみんなに話してくれました。襲ってきたバケモノは〈鬼〉という存在で人々を容赦なく襲い、その鬼を遠ざけるために桜の花を咲かせていた、ということを。
「ワシは昔、鬼を仕留めていた死神じゃった。鬼ヶ島に行き、その途中で仲間達と出会ったんじゃ」
「だからみんな、おじいちゃんのことを慕ってたんだね。それで、どうしてまた鬼が現れたの?」
「鬼ヶ島の鬼を殲滅した。そこまでは良かったんじゃが、それは末端でしかなかった。頭領がいる本島へ向かい、戦ったんだが鬼の頭領を仕留め損ねてな。しばらくは大丈夫だろうと思っていたが、また力をつけてきたかもしれん」
「だからなんだ。でもおじいちゃん、まだ戦えるならどうして倒しにいかないの?」
「奴との戦いは激しかったもんでな、仲間を失った上にワシは大ケガをして長く戦えんようになってのぉ。だから奴らが嫌う桜を咲かせてみんなを守っていたんじゃ」
「そうだったんだ……ごめんねおじいちゃん」
「何も話さなんかったワシが悪い。まあ、これもいつまでできるかわからん。だが、ワシの目が黒いうちはお前もみんなも守るよ」
ですが、おじいさんの話を聞いた孫は安心できませんでした。おじいさんは歳ですし、それに今おじいさんがいない村はどうなっているのか、と考えてしまいます。
もし、できるならみんなを助けたい。だから孫はおじいさんにこう願い出ました。
「じいちゃん、僕を鍛えてくれない? 僕、じいちゃんのように強くなってみんなを守りたい!」
思いもしない孫の申し出におじいさんは目を大きくしました。ですがすぐに優しい笑顔を浮かべ、こう返事します。
「ああ、いいよ。ただしワシの特訓は厳しいぞ」
「望むところだ。僕、絶対にじいちゃんのように強くなってやる!」
こうして桃太郎の名を継ぐ者が生まれました。それはかつて桃太郎と呼ばれ、今は花咲かじいさんという英雄の孫です。
そんな二代目桃太郎は花咲かじいさんの地獄の特訓を乗り越え、鬼の頭領を倒すための旅へ出ます。
初っぱなで生涯の伴侶となる少女と最悪な出会いを果たし、だけど共に事件を乗り越えることで絆を深めました。
それからは様々な場所で数々の試練を乗り越え、たくさんの仲間もでき、ついには鬼の頭領との戦いを迎え、討ち果たし見事な勝利を掴みますがそれはまた違う機会に語りましょう。
そんな英雄の名を継いだ少年はいつしかみんなに頼られる者となります。
気がつけば桃太郎を中心とした国が出来上がり、これまたたくさんの試練と事件が起き、それでも頑張って問題を解決していきます。そんなこんなで楽しい日々を過ごし、二代目桃太郎はみんなから背中を押され、そして王様になりました。
花咲かじいさんの孫は困ってる 小日向ななつ @sasanoha7730
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます