第88話 手術


「しゅ、主席・・病巣を取り去ったとしても・・また再発すれば、どうなりますか?」

王兄は震えている。

「君ぃ、また取り去ればよい。 身体は常に正常な状態を保とうとする。 余計なものは取り去るに限るだろう」

王兄は大きく深呼吸をする。

「中主席・・病巣を取り去るより、その身体そのものを変えようとは思われなかったのですか?」

中主席は妙な顔をする。

「なに? 君は何を言っているのかね? 身体を変える? そんなことが可能だと思っているのか? 13億人を抱える超大国だぞ。 歴史を見ろ! いろんな思想家が試したが無駄だったではないか」

「主席・・それは一部の特権階級が存在したからです。 病巣というのなら、その特権階級にいる連中を排除するべきでしょう」

「王君・・悪いことは言わない。 それ以上は口を開かないことだ。 君は病巣にいたのだから感染しているのだよ」

王兄は確信した。

目の前に両親の仇がいる。

そして、今自分にはその仇を倒す力がある。

主席も言っていたではないか。

病巣は取り去るべきだと。


「中主席・・私が・・私が病巣の・・諸悪の根源を取り去ります」

「なに?」

王兄の身体から金色の光が溢れていく。

「王君・・君は巨象に牙を向けようというのかね?」

中主席の顔つきが変わる。

そして、大きく息を吐き身体を臨戦態勢に移行。

中主席がスッと右手を軽く振る。

それを確認した後方にいる戦車隊が移動を開始。


中主席は右手を前に出し、王偉ワンウェイを抑え込む動作をする。

中主席のスキル、『抑制者』を発動。

文字通り、相手の行動を抑制する。

もしかすると、相手の時間を停止させているのかもしれない。

中主席のイメージ通りのスキルだった。

自分に抗うものは存在しない。

絶対者からの視点。

自分以外の意思は必要ない。

自分がすべてのルール。


中主席は、王からかなりの距離を取る。

同時に戦車隊から猛攻が開始されていた。

王の居る場所に集中砲火。

巨大戦艦や空母がいたとしても、跡形も残らないだろうという攻撃だ。

爆発光と煙、舞い上がる土埃。

攻撃は10秒ほど続いただろうか。

沈静化するまでにかなりの時間が経過したような気がする。

・・・

舞上げられた土埃も落ち着いてきた。

中主席のところへ戦車隊の隊長が近づいて来る。

「閣下、ご無事ですか?」

「うむ、問題ない。 やはり私を狙ったテロだったようだ」

「はい、大英雄に対して不敬の極み。 跡形も残らないでしょう」


中主席以下、誰もが攻撃後の土埃の後を見つめていた。

緩やかな風が流れる。

その風がゆっくりと景色を回復させていく。

地面が荒く削られ、大きな穴が見えてきた。

深く削られているところもあれば、浅い穴もある。

・・・

中主席はその後を見つめていたが、くるりと背中を向けて戦車に乗ろうと移動する。

戦車から身体を出している隊長の顔を見て驚いた。

そして、すぐにその視線の先を追う。

!!

ま、まさか・・あの爆発の中で生きていたのか?

普通の砲弾ではない。

レベルにより強化された戦車隊だ。

その演習は何度も見てきた。

今までの戦車の砲弾とは明らかに威力が違っていた。

それを受けて生きていたのか?

中主席は思わず後ずさりをする。

怯えたのではない。

そう自分に言い聞かせるが、身体が反応する。


王偉ワンウェイの身体を金色の光が包んでいた。

そして無傷。

衣服すら焼け焦げていない。

「なるほど・・これが共産圏の答えというわけか・・こんな連中に・・我が両親の命が奪われたのか。 つくづく我々は騙され続けていたわけだ」

王が右手を挙げる。


ドン!!


戦車隊の一部が吹き飛んだ。

戦車隊の隊長は爆発のあった場所を見ると同時に、辺りを索敵。

・・・

遠くのビルのところでキラッと光るものを発見。

それが光るとまた戦車が爆発する。

「か、閣下・・テロリストたちの攻撃です。 戦車の中へお入りください」

「君ね・・外の方が安全だよ」

いくら強化した装甲でも、現に爆発している。

それに自分の身体で強化した方が、防御力は高そうだと判断。

しかし、あの男・・ワンといったな・・いったいどのようなスキルを持っているのか?

中主席にはそのことの方が重要だった。

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