第147話……商都ラヘルの落日
――標準歴5年4月。
濃い化粧と、お歯黒という独特の容貌のジョー・キリシマ提督は、ラヘル星系の富豪たちに乞われ、傭兵部隊を率いて星系防衛の任についていた。
「トロストとかいうやつ何者ぞ?」
彼はクノイチ集団と呼ばれる暗部の女性情報工作員の頭領という別の顔もあったのだが、トロストの急速な台頭を掴み切れないでいた。
彼はラヘル星系の主星ロンギヌスを後背に、艦艇100隻を布陣。
トロストの艦隊を待ち受けた。
トロストはグングニル共和国の艦艇300隻を動員し、このラヘル星系に侵攻してきた。
300対100では勝てそうにないのだが、このラヘル星系の主星ロンギヌスは、姿かたちこそ緑の惑星だが、それは色彩等を意図的に変化させた擬態であり、内実は移動用チューブが張り巡らされたメトロポリスであり、黒鉄でできた人口都市惑星だった。
「ほっほっほっ、トロストとやら、目に物を見せてくれん!」
「重装甲ミサイル艦の戦列を前へ出せ!」
「了解!」
ジョー・キリシマ提督は、グングニル共和国きっての高家の出である。
そのプライドや自信も相当のものだった。
「トロスト艦隊接近、射程内に入りました!」
「砲撃戦開始!」
トロストとジョー・キリシマ提督は、お互いの射程圏に入ると射撃を始めた。
お互い、戦場の長槍兵ともいえるミサイル艦艇を前に出し、主力は温存した戦い方だった。
そもそも、これがこの世界の戦いの常道であり、ハンニバルのように先頭をきる旗艦は珍しかったのだ。
「長射程対艦ミサイル来ます!」
「迎撃ミサイル発射! 対空砲応射せよ!」
双方、ミサイル艦の長射程ミサイルに対処。
戦いは次のフェーズに映る。
「重巡洋艦と戦艦を前に出せ! 大口径レーザーで敵を始末しなさい!」
「了解!」
ジョー・キリシマ提督は、ミサイル艦艇の後背から主力戦列艦を投入。
長射程の大口径砲の光条で、トロスト艦隊を攻撃した。
更には惑星ロンギヌスからの砲撃もトロスト艦隊を襲う。
戦いはジョー・キリシマ提督に有利に思えた。
……しかし、異形のモノが戦場に現れる。
「提督! 敵戦列から謎の宇宙海獣が現れました!」
「なんですって?」
お歯黒の提督は慌てる。
カリバーン帝国の宇宙海獣戦術には、以前からほとほと手を焼いていたのだ。
「こ、これは? カリバーン帝国の戦術! なぜ奴が!?」
ジョー・キリシマ提督が宇宙海獣に手を焼いていると、後方の惑星ロンギヌスに爆発と火の手が上がる。
その方向を見ると、巨大な惑星破壊砲が次弾発射の為のエネルギーを充填していた。
「奴らはこんなものまで用意していたのか? ……こ、これは勝てない!!」
「全艦に撤退命令を!」
「はっ!」
不利を悟ったジョー・キリシマ提督は全艦に撤退命令を出す。
しかし、彼が指揮をとっている艦艇の8割は、ラヘル星系の富豪たちに雇われた傭兵だったために、その場にとどまり続けた艦艇も出て、戦場は混乱を極めた。
さらには、混乱の最中、トロストの操る宇宙海獣が猛進。
多くの艦艇が混乱の中、爆散した。
戦いの趨勢は決し、ラヘル星系は降伏。
逃げていたジョー・キリシマ提督も捕縛された。
☆★☆★☆
「惑星ロンギヌスに降伏の意思あり!」
「財産保全を約束してくれるなら、武装解除に応じるそうです!」
「受諾してやれ!」
「はっ!」
……馬鹿な奴らだ。
俺が欲しいのはこの惑星の財。
落ち着いたら、丸ごと頂いてやろう……、ふふふ。
――惑星制圧後。
敵星系の有力者が挨拶に来る。
「トロスト様、此度は降伏をお許しいただき誠にありがとうございます」
「あの件だが、条件を変える!」
「は?」
「貴様らは全財産を差し出せ!」
「……そ、それは! 約束が違うのではありませんか!?」
「あはは……俺はもともとそんな約束など守る気などなかったからだ!」
……奴らの顔色が真っ青にある。
いい気味だ。
なにしろ、俺は神なのだから。
「おい! 貴様ら! こいつらを牢屋へぶち込め!」
「あと、地上部隊へ連絡! この惑星の市街地での略奪を許す! 存分にやれと伝えよ!」
「はっ!」
伝令兵までウキウキして、出ていきやがった。
現金なものだな。
……まぁ、俺様は話が分かる神だからな。
忠実な部下には恩恵を与えないとな。
☆★☆★☆
このトロストの蛮行命令により、ラヘル星系市街地は、三日三晩燃え上がった。
高層ビルは次々に破壊され、高度に維持された産業インフラも破壊されつくした。
その被害は女子供にまで至り、悲惨の極みであったと言われる。
僅か3日間の蛮行で、商都ラヘルは残骸しかないような街へと変わってしまった。
銀河随一と言える商都ラヘル星系の繁栄は、こうして潰えることになったのだった。
……結局、カリバーン帝国の援軍は間に合わず、ラヘル星系手前で撤退することになる。
もし、撤退しなければ、この蛮行を止めうることが出来たのかもしれないが、そのことをしらないカリバーン帝国軍の将兵のせいにするのは、少し気の毒かもしれなかった。
……なにはともあれ、トロストは残虐な神としての一歩を踏み出したのだった。
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