第145話……温泉旅行と煙草

「火をお付けしますね」

「ありがとう」



「……ふぅ」


 私はリアルの世界では吸わないタバコをふかす。

 お酒と煙草、人類の永遠の友である。


 この煙草の火は、今も副官殿が付けてくれている。

 ……この点、大いに贅沢で、私は幸せ者である。



 ……我々の世界は4次元で構成されている。

 縦と横と高さと、時間の四つだ。


 しかし宇宙には、10個もの次元が存在すると言われる。

 その未解明な世界の一つは重力が有力である。


 その他にも、思念体の世界があるかもしれないし、ゲームの世界があるかもしれない。

 さらに言えば、未解明の次元は6つとは限らない可能性もあるのだ。


 ……その一つが、今私が煙草をふかしている世界だとしても、何ら不思議はないのである。

 地球の世界と、この世界はそもそも時間軸が合っていなかったのだ……。

 輪廻転生とか、異世界に旅立ったり、過去にタイムスリップするのは、こういう世界を触媒にしている可能性も高いと、今は感じることが出来た。


 もちろん、感じているだけで、この説が正しいと言える確証はどこにも無いのだが……。



「灰皿をお持ちしますね」

「……ああ」


 バイオロイドの副官殿が、灰皿を持ってきてくれた。



「……ふぅ」


 気が付くと、手にした煙草は、真っ白になっていた……。




☆★☆★☆


「みんな、旅行に行くならどこがいい?」


「海に行くポコ♪」

「山に行くニャ♪」

「温泉に行きたいですわ♪」

「食べ放題に行きたいクマ♪」

「釣りに行きたいメェ~♪」


 改めて軍を退役し、暇がソコソコできたので、どこに行きたいか、みんなに意見を聞いたら、凄くばらばらだった。


 幸いなことに、元帥の年金で行けないような候補地はないようだ……。

 ……しかし、いつも勲功第一は副官殿なので、決議として温泉旅行へ行くこととなった。


 近場では何なので、巡回や視察という名目で、新たに味方になった星系の中から候補地を選ぶ。

 少し考えたところで、



「う~ん、……ここが、いいかな?」


「「「……」」」


 鉱山用惑星カイロ。

 航行費用の面などから考えて、ハンニバル開発公社の新開発案権の候補地から選ぶと、皆に白い目で見られた。


 ……経費で宇宙船を飛ばすんだから、ある程度仕事絡みなのは、仕方ないじゃない?



 ハンニバルは私たちを乗せ、長距離跳躍を重ね、鉱山惑星カイロを目指した。




☆★☆★☆


――鉱山惑星カイロ


 衛星軌道上の手前にまでに近づくと、赤い雲と赤い荒野が目立つ、不毛な荒れ地と火山が沢山ありそうな惑星だった。



「こんなところに温泉宿があるポコ?」

「パンフレットには載っているけどなぁ、……ほらここに」


「確かにありますわね、新装オープンって……」


 ハンニバルは現地の宇宙港管制の許可を得て、ゆっくりと衛星軌道上に入る。

 そこからは燃費が悪いので、小型シャトルに乗って大気圏に降下した。



 ……赤茶けた火山が見える。

 てか、噴火しているし、大丈夫かな? ここ……。


 着水した宇宙港は、なんと火口湖だった。

 そこは物凄く簡素な宇宙港だった。

 係員さんが2名しかいない、地方の無人駅を思い浮かべるような情景だった。


 宇宙港を出ると、小さな火山灰が、パラパラと落ちて来る。

 振り返ると、近くの火山は、なんと今も赤い火を噴いているではないか……。



「雰囲気満天ですわね♪」


「……なんか怖いポコ」

「貧乏くさいところニャ」


 皆の意見は三者三様だが、主賓の副官殿のお気に召したので、きっとOKである。



「いらっしゃいませ♪」


 宇宙港からタクシーで移動し、予約した温泉宿に着くと、木造のいかにもという宿で、非人族の仲居さんが出迎えてくれた。




「お世話になります♪」

「お世話になりますポコ♪」


 お部屋に通され、テーブルにあった御茶菓子を食べながら、お茶を飲む。


 ……その後、お昼ご飯が出る。



「肉きたクマ♪」

「お魚ポコ♪」


 お刺身やら、煮物やら、肉の入った小鍋など、とても美味しかった。


 ……その後、しばらく部屋でテレビを見て、ゴロゴロしていると、



「お風呂の準備が出来ました」


 ……と、仲居さんに教わる。



「温泉行くニャ♪」

「行きますわ!」

「行くポコ♪」


 皆でワイワイと用意していくと、温泉の入り口は何と一つだった。


 ち~ん。



「艦長、なんで立ち止まっているクマ?」

「お湯が嫌いポコ?」

「ひょっとして、水が苦手ニャ?」


 ……いや、男湯とか女湯とか区別がないのかな?

 てかよく考えると、我が幕僚たちはそもそも、タヌキにクマ、猫、羊だったね……(´・ω・`)


 しかし、一応人型のが二名いるのだよ、二名。

 バイオロイドと一つ目巨人で、確かに人間ではないけれどもね……。



「提督、行きましょう!」


「え!?」

「いやいや……ちょっと」


 私はバイオロイドの副官殿にぐいと腕を組まれ、お風呂に連れ去られました。


 ……さらに、



「お背中流しますわね♪」


「……は、はぅ!」

「え?」


 ……はぅ、ってなんだよ自分。



「すいません、提督、熱かったですか?」


「いや、そうじゃないよ……」



 そこは、きっと火山がみえる絶景の露天風呂でした。

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