第142話……味方の嫉妬

「すぐさま後方へ向かう!」

「要塞攻撃の指揮は、前線司令官の首席に任せる!」


「はっ!」


 ハンニバルは急いで後方の被害を受けた輸送船団の現場に向かった。



「輸送艦隊全滅の模様!」

「……生存者無し!」


 手痛い攻撃だった。

 こちらが情報を得られぬように、全滅させてあったのだ……。



――輸送船団の破片が虚しくさまよう中。


【魔眼発動】……過去映像の念写!


 私の眼前に、ここで起きた事象が、映像で蘇る。

 敵がどこから攻撃してきたのか、そしてどうやって攻撃したか、そしてどちらの方角に逃げ去ったのか が、鮮明に映ったのだ。



「敵はダークマター潜航艇だ!」

「進路は二時の方角、最大戦速!」


「了解ですわ!」


 3回ほど長距離跳躍した先に、敵の補給基地があった。

 岩石上の準惑星に、機械化部分がうっすらと見える。



「凄いポコ! 本当に見つけたポコ!」

「凄いですわ!」


 早速、ハンニバルは前進し、敵補給基地を射程圏に収める。



「攻撃用意! 全砲門開け!」

「了解ポコ!」


「撃て!」


 大口径レーザー砲の光条が、敵港湾を破壊せしめる。

 大爆発が起こり、内部に停泊していたダークマター潜航艇も連鎖爆発を起こした。



「艦載機用意! ここを占領する!」

「わかりましたわ!」


「順次攻撃隊、発艦!」


 ハンニバルのハッチが開き、電磁カタパルトが艦載機を次々に押し出した。

 抵抗力を失った敵港湾に、艦載機群が更に押し寄せる形となっていた。



「敵、反撃力消滅の模様!」


「よし、陸戦隊を上陸させて制圧に掛かれ!」

「はっ!」


――4時間後。

 敵補給基地は味方の補給基地に姿を変えることになった。

 更に、ダークマター潜航艇を4隻拿捕。

 我が方はこの時、初めてダークマター潜航艇を有することになった。



 さらにハンニバルは味方に前線を任せ、後方で脅威となる敵隠し基地を順々に叩いていった。

 中には、工廠を有するものもあり、戦略的に見れば大戦果だった……。




☆★☆★☆


(リヴァイアサン大要塞司令部)



「味方第83補給基地、連絡途絶!」

「第23号潜航艇、音信途絶!」


 ……何故だ?

 何故、敵はこうもこちらの後方破壊を遮断できる?


 ――味方の訃報に、要塞内にいるリーゼンフェルト元帥は焦っていた。



「クレーメンス皇帝陛下からの援軍はまだか!?」


「……て、帝都の防衛に必要で、余剰戦力無しとの回答です!」


「馬鹿か、この要塞が落ちれば帝都など守る手段は無いのだぞ!」


 ……ワシはどうしたらいいのだ?

 帝国などどうなってもいい。

 しかし、ワシの麗しい寵姫たちは敵に渡したくないのだ。



「敵、再び攻勢に出ます!」


「反撃しろ! 決してこの要塞は渡さんぞ!」

「軌道主砲を全て繰り出して反撃しろ!」


「はっ!」



 旧カリバーン帝国の主星系アルバトロスへの最後のワープポイントに、大宇宙要塞リヴァイアサンは構築されていた。


 この要塞は一辺80キロメートルの正八面体の半人口天体であり、超高度ミスリルの複層装甲と大出力の軌道砲台などの武装をもってこの宙域を防衛する。


 さらに、この要塞の重力圏には、機動防衛衛星や迎撃用プラント等を80個余り備えていた。


 さらに言えば、既に一度グングニル共和国が落とした頃のリヴァイアサン要塞では無かった。

 近代的な改修が幾重にも施され、兵站的にも、ミサイル工廠や人口食料プラントなどを兼ね備えた永続的な要塞となっていたのだった……。



 ……皇帝パウリーネを擁するカリバーン帝国正統政府側の艦隊は、意味のない損害を2週間にわたって出し続けていたのだった。




☆★☆★☆


「提督、落ちる気配がありませんわね!」

「堅いポコね」


「……ふむう」


 敵補給基地を叩いて戻ってきたハンニバル。

 味方に任せた要塞攻略は遅々として進んでいなかった。


「すでに味方の損害は撃沈13隻。大破21隻に達しておりますわ」


「ふむう」


 流石は大要塞として名高いリヴァイアサン。

 ちょっとやそっとでは落ちそうになかったのだ……。



「しかし、味方の提督に任せると言った以上、しゃしゃり出るのもなんだよね?」


「……そ、そうですわね」


 ……任せたと言った以上、後ろから出て来ては手柄を盗まれたと言われかねない。

 味方は完全に部下でない者が多数な為、そこらあたりは慎重にならざるを得なかったのだ……。



「う~む、ご飯にでもしようか」

「賛成ポコ!」




――食堂にて。

 トンカツ定食を幕僚たちと食べながら……。



「もう、要塞なんか無視して、敵主星に攻め込んだらどうクマ?」


 と、クマ整備長。


「長距離跳躍時の無防備状態を狙われるからダメポコ」


 と、タヌキ砲術長。


 ……ん? まてよ?

 敵主星を攻めちゃえばいいのか……。



「次はそれでいってみようか?」


「大丈夫ですか? 下手をすれば撃沈されかねませんわ!」


 ……心配そうな副官殿にも、思いついた作戦を話した。



「面白そうですわね」

「そこまでする必要があるポコ?」


「人間は複雑なんだよ!」


 ……そう言って、タヌキ砲術長を宥めた。




「ハンニバル出撃用意!」


「「「了解!」」」



 ……作戦開始であった。

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