第20話……帝国の歴史とレストラン

 人型生命体の都、グングニル共和国は繁栄し、ユリウース星系に莫大な人口を抱えていた。その数350億。

 その凄まじい勢いで増える人口を養う大地を常に求めていた。

 しかし、光の速度を超えることが出来ず、星系内のみに活動が限られていた。


 新宇宙暦元年。コバルト鉱石探索に訪れていたエルゴ・アダマンタイト博士はユリウース星系第八惑星で未知の遺跡を発掘する。後日アヴァロン超文明の遺産と命名されたインフレーション機関であった。


 インフレーション機関は次元跳躍を可能とし、人型生命体の文明版図は光の速度の壁を突破することになる。

 共和国の版図は加速度的に拡がり続け、瞬く間に他の星系を支配することになった。

 更に進出先の星系の知的生命体に戦争を仕掛け、次々に従属支配していった。


 共和国政権は従属星系に対し、不足しがちな食料生産を単純強制。星系レベルで産業構造のゆがみが生じ、貧富の格差は拡大した。


 新宇宙暦166年。

 共和国は星系国家群と呼べるほどの版図を支配するに至った。が、穀倉地帯に設定されていた惑星アルトースが、中性子星の爆発に巻き込まれ滅びてしまう。

 これにより、共和国内は各派閥に別れ、食料を奪い合う内戦が始まった。

 しかし、この時点の消費カロリーを賄う食料の生産は確保されており、投機目的としての食料争奪戦である。


 新宇宙暦172年。

 原理資本主義の延長たるこの戦いは拡大し、共和国全土に熱核戦争を引き起こした。共和国は文明資産の実に99.86%を焼失し、その支配地は死の大地と化した。


 しかし、その後も共和国ユリウース星系中央政府は従属星系に経済的圧力をかけ、食料を徴発し続けた。そのため従属星系では飢饉が発生。家族6人の夕食が小さなジャガイモ一つを分け合う事態にまで悪化した。


 新宇宙暦192年。

 ついに共和国の地方星系アルバトロスで反乱勃発。アルバトロス星系の反乱軍リーダーである青年カリバーンは各地で転戦。この3年後にカリバーン自身は戦死。

 新宇宙暦208年。惑星リヴァイアサン成層圏の戦いにて、反乱軍は共和国軍主力艦隊を撃破。ここに共和国政府は反乱軍と講和せざるを得なくなり、すべての市民に平等に資産の分配を是とするとするカリバーン自由連邦が誕生。同時に各地方有力星系が多数、共和国政権から独立した。


 新宇宙暦308年。

 勢力を拡大し続けたカリバーン自由政府は運営の歪みを呈しはじめる。第12代目の書記長は遂に自らを皇帝と称し、帝政を布くに至った。以後、国号をカリバーン帝国と改め、民衆は支配階級たる貴族と、被支配階級の平民に強制別離した。


 今現在をしても、熱核戦争の爪痕は大きい。星間航行可能宇宙船は少なく、食糧は慢性的な不足をする社会である。



【ヤリス出版・カリバーン帝国宇宙全史】より。




☆★☆★☆


 私は本を読み終わった後、近くのレストランに入った。


 メニューを見て、ハンバーグパスタを注文した。現実世界では普通にファミレスで頼めるが、星系国家レベルで食料不足のこの世界ではご馳走の部類だ。

 惑星リーリヤは食料が豊富な惑星であることが幸いし、比較的レストランが多い。逆に、我が衛星アトラスでは同じメニューで価格が5倍もする。

 勉強するといって出てきて、実はコレが食べたかったとかは内緒である。



 現実の世界でも食料は足りているのに、十分食べることができない地域が生じ、紛争が起きる。

 そもそも、この世界ではその食料が絶対的に足らないのだ。

 当然に社会は上手くいかず、戦争が起きる。

 

 そう考えると、衛星アトラスも食料プラントを増やさないと……、次は魚の養殖施設がいいかな。



 支配地の民衆を納得させるには、政治思想じゃなくて、十分な食べものの量な気がしてきた。

 それはともかく、衛星アトラスでもハンバーグパスタが普通に食べられるようにしないとね。



☆★☆★☆


「お客様、困ります!」


 お会計を帝国ドル札で払ったら怒られた。帝国ドルの価値が下がって、蛮王様発行のエールパ銀貨でないと受け取ってもらえないのだ。

 結局お代は銀貨3枚で支払った。

 物価高騰インフレはレストランにも及んでいる。

 カリバーン帝国士官としてのお給料だけだったら、今頃ピンチだったかもしれない。



 惑星リーリヤには操縦の練習を兼ねて小型シャトルで来ていた。

 大型艦船と違い、帰りも地上の飛行場から飛び立つ。

 夜なのでガイドビーコンに従いジェット・ブラスト・ディフレクターの前に機体をセットした。



 発進した後、船体下部の窓から飛び立った街並みの灯を愉しむ。

 成層圏で重力発生装置が自動でONになった。


 重力圏離脱後。操縦席を立ち、蒼い惑星リーリヤを眺めながらミルクたっぷりのコーヒーを楽しんだ。

 惑星リーリヤの発進飛行場の管制にお礼をつげた後、衛星アトラスからのガイドビーコンをのんびりと待った。




☆★☆★☆


「ぽこぉぉぉぉおお!!」


 惑星アトラスに帰った後。

 シャツにハンバーグソースが付いていたのをタヌキ軍曹に発見され、とても恨まれた……。

 ハンバーグパスタが彼の大好物だったからだ。



「今度一緒に行こうね、うん」

「ぽこぉ♪」




──私はその晩、帝国司令部より大尉に任命された。

 次の作戦任務は、共和国軍前線基地への攻撃任務だった。

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