第19話……補給作戦

「副長! そろそろ星系外縁だからエンジン絞ってね」

「はい! ヴェロヴェマ艦長!」


 操艦をクリームヒルトさんにお願いして、双眼鏡を片手に【羅針眼】で敵の索敵機を探すことに専念する。

 敵に接近がばれれば、優位な体制で迎撃される恐れがあったためだ。



 第87要塞はマイドリンク星系の小型要塞である。この星系はグングニル共和国の勢力圏に近いが、辺境星系であり、両軍ともさほど重要視していなかった。



「第852ブロック X座標269 Y座標536 Z座標288に一機」


「了解! 同座標へ砲撃開始ポコ!」


 私達は次々に小型偵察艦を破壊していった。


 レールガンはレーザービーム砲と違い、威力は低いが可視光線がほぼ出ない。

 よって先に見つけることが出来れば、哨戒用の小型艦であれば一方的に沈めることができた。

 隠蔽効果を狙い、岩石などに紛れながら小型偵察艦を潰しつつ、作戦目標の手前まで進んだ。



 帝国第87要塞は周辺の居住惑星を護るための防衛型要塞であった。

 直径5kmの岩石をくり抜いた中に防御施設が建設してある。要塞主砲は超γ線収束砲。収束されたγ線は迫りくる敵に対し高い破壊力を誇った。


 対して、この要塞を攻撃する共和国軍艦隊の主力は、核融合炉型の重巡洋艦2隻、同型軽巡洋艦4隻、地上軍揚陸艦4隻を投入し、この要塞を包囲していた。

 エルゴエンジンを積んでいないこれらの船は旧型であったため、要塞を強引に力攻め出来なかったのだ。




☆★☆★☆


「司令! 最後の偵察艦からも音信が途絶えました。敵かと思われます」


「うーむ、レーダーにも映らんし、エネルギー反応もないが、やはり敵だろうな」

「最後の偵察艦が消息を絶ったのはどこか?」


「はっ、この宙域になります。司令!」


「よし、そこへ全艦集結させろ! 兵力分散の愚を犯すな!」


「了解」




――二時間後。小惑星地帯。



「敵装甲型戦艦発見! たった一隻です!」


「おお! いたか! 全艦撃ちまくれ!」

「打ち方、順次始め!」


 六隻にもなる砲列が一斉に戦火を開いた。

 レーザービームのエネルギーが唸りを上げる。

 

 しかし、距離がかなりあり、命中弾がなかなか出なかった。




――砲戦開始30分後。



「敵が逃げます!」


「逃がすな! 追え!」



 目標の装甲戦艦は、小惑星の岩陰に入ったり、煙幕を焚いたりして逃げ回った。

 共和国軍の艦隊は長い時間追撃を行ったが、結局その装甲戦艦を取り逃がしてしまった。




☆★☆★☆


「追いかけられて怖かったぽこぉ~」

「怖かったですねぇ♪」


 タヌキ軍曹殿は涙目で怖そうにしていたが、クリームヒルトさんは何だがスリルを楽しんでいるように見えた。

 きっと、彼女は見た目より度胸があるんだろうなぁ……。

 ちなみに、私は大変に怖かった。なんだか最近撃たれてばっかりだよね。



「予定通り、要塞に補給物資をとどけたニャ♪」

「おおう、お疲れ様」


 マルガレータ嬢からビデオ通信で報告を受ける。

 今回、ハンニバルが囮になっている間に、コッソリとマルガレータ嬢の乗艦オムライスで物資を輸送する作戦だった。

 とても上手くいったようだ。良かった。

 その後、輸送物資が届いた要塞司令官からもお礼の連絡を受けた。




☆★☆★☆


「作戦成功です。今日の晩御飯は、皆ですき焼きにでもしよう♪」


「わーいポコ♪」

「たのしみですわ♪」

「お肉よりお金がいいニャ♪」




……――すき焼き片手に、みんなでビールを大量に飲んだために。


「……てめぇら、わたくしのおしゃけがのめにゃいの?」

「僕はダメなタヌキぽこ……」


 最近発覚したことだが、クリームヒルトさんはお酒が入ると怖い人になります。そしてタヌキ軍曹殿は泣き上戸でした。




☆★☆★☆


 衛星アトラスのドッグで今回の戦いの修理を受けるハンニバル。


 その隣で修理を受けているのが、サーベイ商会から鹵獲した重巡洋艦ハンブルクであった。

 かなりの部分に修理が必要だったが、使えるめどがついていた。

 

 問題は誰をその艦長に据えるか、である。

 クリームヒルトさんやタヌキ軍曹には側にいて欲しいのだけど、我儘だろうか……。


 ハンニバルも地上戦を想定して、陸上部隊の皆さんと雇用契約することにした。

 この世界の艦船はオートメーション化がかなり進んでおり、操船においてはほとんど人手はいらない。

 しかし、艦載機を撃退する各種機銃操作や、相手の要塞や船に乗り込む地上部隊には、結局は人手が要ったのである。

 そこで、我がヴェロヴェマ艦隊(正式名称はエールパ星系艦隊)の地上部隊の隊長ポストに、元宇宙海賊の二足歩行山羊のバフォメットさんを雇うことにした。


「吾輩は、羊メェ! 山羊ではないメェ!」


 ……あ、すいません。羊さんでした。

 マルガレータさんの尻尾より、もふもふ感25%増しなキャラである。

 好物はお肉。性別は不明。

 とりあえず夏は暑そうで、冬は暖かそうな人でした。



 その後に結局、バフォメットさんに現在修理中の重巡洋艦ハンブルクの艦長も任せることにした。

 修理が終わった暁には名前も強襲巡洋艦【ジンギスカン】に改名する。


 ハンニバルも近距離用であるが、破壊力の高い格納式ビームバルカン砲を多数搭載装備することにした。その砲手には惑星リーリヤのブタさん達を訓練して配備する予定である。




 大方の雑務を終えた後、私は惑星リーリヤの図書館を訪ねることにした。

 この世界をある程度学ぶ必要があると考えたからだった。

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