第5話……次元跳躍

 レーザービームやミサイルを受け、小惑星は次々に粉々になっていった。

 主砲の砲身が熱で少し赤くなり、ミサイル発射管の蓋も煤けている。


 圧倒的な破壊力の前に、自分が少し強くなったような。

 何の裏付けもない自信と、高揚感を手に入れてしまっていた。

 


 もう一人の自分が、強く囁く……、


 『冷静に成れ!』と。





――

 破壊した小惑星の破片の中に漂う装甲戦艦ハンニバル。

 細かい岩石の破片を掃除しつつ、次なる目標に向かっていた。



 その艦橋で、私は少し不満げな顔をしていた。




「どうしたポコ?」


「いや、エネルギーとミサイルが勿体ないなあと……」


 横をそっと見ると、副官のクリームヒルト様が『あちゃ~』みたいな顔になっている。


 ……ケチですまん!!



「じゃあ衝角攻撃するポコ」


 タヌキ軍曹殿に説明を受ける。艦のシールドにエネルギーを最大化させて、体当たり攻撃をするとの事だった。

 ちなみにシールドにエネルギーを注力しても、主砲に注力しても、結局はエルゴエンジンからのエネルギーが必要である。

 つまり、この世界はエンジンの出力が大きければ、砲戦能力も防御能力も上がる構造だった。




「両舷全速!」



――ドォォォォン



 艦が大きく揺れ、衝撃が走る。


 しかし、無事ターゲットの小惑星の破壊に成功した!



 実測したところ、レーザービームで破壊する25%のエネルギー消費で済んだ。


 ……こっちの方が儲かんじゃね!?

 

 まぁ、反撃してこない相手だからこそ成立する方法かもしれないが。





☆★☆★☆


 それから、人気のない小惑星破壊を毎日チマチマと10時間以上取り組んだ。もちろん現実世界の契約は一日8時間で良かったのだが……。


 小惑星破壊の任務を達成するたびに、カリバーン帝国銀行の私の口座の残高が増え続ける。元が小市民ゆえに、ゲームの中とは言え口座の残高が増えるのが病みつきになっていったのだ。





 小惑星破壊任務をはじめて20日くらいたった頃。


 タヌキ軍曹殿と共に、副官であるクリームヒルト様にある提案をすることにした。

 

 ……少し緊張する。

 いや沢山か?

 とことん小市民だな、と自分を笑った。





☆★☆★☆


「え? 雇用期間の延長ですか?」


 クリームヒルト様はきょとんとした顔をしている。



「できれば我が艦専属でお願いしたい」


「したいポコ」


 ちなみに、タヌキ軍曹殿とは別案件で延長専属契約してある。

 

 この世界のメイドさんの御給金も調べた。

 なにしろあれだけケチケチ節約して沢山の任務をこなしたのだ。少々の移籍金の支払いも可能なハズだった。


 ちなみにクリームヒルト様は、我が家のメイド様でもある。当然私の口座の数字は知っているはずだ。隠すべき条件はない。



「そ……それは嬉しいのですが、派遣元にも聞いてみませんと」


 少し頬を赤らめたクリームヒルト様が可愛い。

 意外と好感触か!?

 

 しかし、派遣元に義理があるならば、それを断ち切るべく工夫せねばならない。

 以前より優れた勤務先として……。



 彼女の意思を尊重するため、彼女の派遣元の組織を訪ねることにした。


 ……組織の名前は、シェリオ商会。

 代表者はシェリオ伯爵。


 お貴族様か?

 嫌だなぁ、会いたくないけど仕方ないか。

 


 私はサポートツールでもある熊帽子を深く被りなおした。





☆★☆★☆


「目標マールボロ星系! 長距離跳躍開始!」


 演算結果に割り出された空間に向けて、装甲戦艦ハンニバルは初の長距離跳躍を試みる。

 現在位置と遥か彼方の空間を折り畳み瞬間移動、所謂ワープをするのだ。

 

 時空振動が走り、気持ち悪い感覚に襲われつつも、目標であるマールボロ星系の外縁目指して、私たちは不安とともにひた走ったのだった。




 それからしばらくして、マールボロ星系の外縁に到達。

 星系中央の恒星マールボロは赤い光を放つ、老いた星だった。



 星系の中心に近づくと、老いた恒星マールボロの周りにダイソン球が建設中だった。

 恒星の周りをぐるりと取り囲み、発電パネルなどをくまなく並べ、余すところなく電力などのエネルギーを取り出す仕組みだ。



 私にはエネルギーの搾取にも見えた。感傷的なのだろうか?

 

 そんな感傷をもちつつも、装甲戦艦ハンニバルは惑星シェリオの重力圏に到達しようとしていた。





 ……クリームヒルト様の雇用期間満了まで、あと8日!?

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