恵みの行方①

 レイラ・ポインセチア「やっと私も機動艦隊司令になれるの?彼杵副司令殿?」


 彼女、レイラ・ポインセチアは第6機動艦隊の司令である。興一世代の出世頭であった。厳密に言えば、彼女が中学生の頃から前線に立っている興一や樒果の方がキャリアが上であり、本来ならば2022年生まれの世代は海護財団に就職してから3年目の若手の筈なのだ。

 だが滝川在斗や雲野真澄、壱岐成茂や吉野秀喜・琴子と言った優秀な同期よりも頭1つ飛び抜けた武功を挙げているのは間違えなかった。


 茜「そうね…今回色々と対応が後手に回った佐世保江迎支部に、日本国防軍や米国国防総省、更に弓張重工は不安感を抱いている。だからこちらで手を回して事務局に異動してもらう事にした。その中継ぎを頼みたい」

 レイラ「んで、その元支部長さんは何て名前だったの?」


 茜「大友さん。かなりのベテランだけど、あのおじさんよりも貴方の方が果たして優秀なのか注目されてるわ。」

 レイラ「あー…理解、そいつの代わりにきっちりと私がやってやるわ。」

 茜「弓張重工のCEOが、貴方を推挙したそうよ」

 レイラ「そんなバックアップ無しで、私はきちんとやれるわ。」

 茜「果たしてそうかしら?」


 試すように、彼女にとって年上だが妹分とも言える部下を見据える茜。レイラ・ポインセチアは只ならぬプレッシャーを与えられながらも、ようやく巡ってきた活躍のチャンスに舞い上がっていた。


………


 大友「みな、世話になったなぁ…」


 執務室にて命令書を監察官から受け取った大友支部長は、ひと月後に迫る後任の着任の為の支度を始めた。

 敷島に妻子を残して単身赴任していた彼も、数年も寝泊まりした部屋に愛着を持っていた。


 大友「次来る子は若い子らしいから、この加齢臭のする部屋を消臭や消毒してもらわんとな…執務室を座乗艦に移す、その為に家具を全部持って行くから手伝ってくれ。」


 自分の秘書にそう言うと、秘書は同僚を連れて来る。彼らは特段嫌そうな顔をせずに、せかせかと荷造りを行なっていた。


…………


 指宿、鹿児島県の南端に位置するこのエリア。大隅半島と共に錦江湾の入り口に存在し、富士山の様な美しい火山「開聞岳」を擁する。また、池田湖や鰻池、山川湾の様な火口だった場所に水が溜まり淡水湖や湾を形成する。山紫水明の土地である。


 光隆「掛瑠、何書いてるんだ?」

 掛瑠「ににに兄さん!?」

 光隆「えと…?指宿、鹿児島県の…」

 掛瑠「朗読しないで。航海日誌担当になったんだけど、ちょっとまだ恥ずかしいからやめて…」

 光隆「いずれ誰かに読まれるもんだろ?いいじゃねえか、減るもんじゃねぇし」

 掛瑠「精神的にすり減るよ…(´・ω・`)」


 こんなハプニングもありながらも、一同は指宿の山川湾に上陸。ここにある漁港に買い出しにきた様だ。


 信之「わぁ…色々なものが揃ってる!」

 カンナ「そう言えば光音はどこ行きましたの?」


 刹那、声になっていない絶叫と共に素振りをしながら自転車(とりわけロードバイク)と同じくらいの速度で走って行く光音が、魚市場の屋根の上を跳び越して行った。

 それに光隆が続く。更に後方、オーバーカム甲板上からメガホンで掛瑠が叫ぶ。


 掛瑠「猿叫しながら素振りするのは、本当に早朝です。今何時だと思ってるんですか!」


 陸唯「あいつまた大変そうだな…」

 こういち「光音は光隆と掛瑠に任せて僕たちは買い物済ましちゃおうか…」


 現在6時、薩摩武士は夜明け直前から猿叫を上げながらあばら屋を飛び出し300回の素振りをする事で有名(出典不明)であり、光音もそれに倣おうとしたらしい。しかし今は6時半、この日(2046年5月23日)は5時17分が日の出であり、大遅刻この上なかった。何なら…


 掛瑠「普通に近所迷惑です!金沢八景にいた時から近所迷惑になってた事、知ってますよ!」


 どうにか光音の暴走を光隆が池田湖の直前で止めた。この日の薩南地区は快晴、夜明け前に坊ノ岬沖で起床し黙祷を捧げた後2時間で到着した様だ。

 その際には光隆が「海に潜って戦艦大和見たい」と言い出したが、興一から鉄拳制裁を喰らっていた。


 光隆「海に入っちゃダメならよぉ…池田湖でイッシー探すのはありか?」

 光音「ダメです」

 光隆「お前着いた瞬間叫んでどっか言っちゃったじゃねえか、だからいいだろ?」


 懲りていなかった。彼の海や水の中に対する執着は果たして何なのだろうか、光音はふと考えた。

 それはさて置き、光音は光隆に以前から気になっていた事を明かした。


 光音「そう言えば何で光隆は空飛べるの?私を追っかけてくれたさっきも使ってたけど」

 光隆「ウォータージェットだ!どうだカッコいいだろ?伊豆大島まで遠泳した時に、目の前を突っ切って行ったんだ。カッコ良くって練習してた。連絡船や武装漁船にぶつかっちった時もあったけどよ…」


 光音は唖然としていた。まず第一いつの間にか光隆が伊豆大島までの距離を口ぶりから推測するに、幾度も遠泳で渡っていた事。こちらは直線距離にして50km程ある。それを遠泳で泳ぐのだ、往復百キロをである。


 光隆「まぁやる時は学校休んでたけどさ、母さんに頼んで病欠扱い。その時に何か海の上で瀬取り?ってのやってた船を沈めて回ったんだけどよぉ、全然手応えなくて…」

 光音「ちょっと一旦待って理解が追いつかない」


 ここで光隆がやった事を羅列すると、三浦半島の城ヶ島(推定)~伊豆大島間の遠泳、汽船との衝突事故、浦賀水道や相模湾・伊豆諸島沖合にて海賊行為を行う漁船群の撃滅と何か色々とやらかしているのが分かる。


 光音「大丈夫なの…?」

 光隆「俺はピンピンしてるぜ?」

 光音「いやまず、連絡船」

 光隆「穴開けたわけじゃないし、ちょっと凹んだだけだから大丈夫だろ」

 光音「後もう一つ」

 光隆「なんだ?」

 光音「その“ウォータージェット”のやり方、教えて!」


……………

……


 有理「光音、光隆、二人ともどこ行ってるの?」

 光隆「池田湖」

 掛瑠「まさか…走って?」

 光隆・光音「うん」

 掛瑠「えぇ…まぁ5キロ先だしまだいいかな…?取り敢えず1400まで観光、その後晩御飯食べてその先の航路を考えます。」


 アローリンク通信機を光音がしまうと、光隆はウォータージェットを実演すべく池田湖のほとりに立つ。


 光音「水に落ちないでね」

 光隆「今から水を使って飛ぶのに?」

 光音「先生に言うよ?」

 光隆「ちぇーッ!」


 ひとつ深呼吸、そして足に思いっきり力を入れる。


 光隆「そしたら…お前が昨日剣にやった通り、ぶっ飛べ!」


 刹那、光隆が宙を舞う。確かに足を水源としたアクアジェット…と言うよりウォータージェットで噴進している。


 光隆「うわぁ、すげぇ綺麗な景色!光音も早く来いよ!」

 光音「えちょ、待ってよ一瞬じゃ分からない!」

 光隆「前に教えてくれただろ、薩摩の言葉じゃ、怖がらねぇ肝が据わってる奴を“ぼっけもん”と言うんだろ?お前もそうなれるだろ!」


 光隆の激励に奮起する光音。いざ池田湖のほとりに立ち、足に力を入れる。光隆の様なバランス感覚を維持するのは非常に難しい、だから両足に同じくらいの力が入る様にして水流を噴進する。


 光音「うわぁっ、わぁぁぁ!」


 瞬間、蒼穹へと打ち上げられる光音。対岸の大隅半島南端にある内之浦宇宙空間観測所のロケット発射みたいで感慨深いと思った束の間、気を抜いて池田湖に真っ逆さまになりかける。


 光隆「まずはゆっくりだ」

 光音「ありが…とう」

 光隆「にしても綺麗だろ、やっぱいいなぁ空の上。」


 この後光音は光隆からウォータージェットのやり方を夕方ごろまで教わった後、指宿温泉で一同と合流して湯船で疲れを取ったと言う。


…………


 こういち「(やっぱり、温泉や海水を濾過したお風呂では起きないな…)」


 興一は、指宿の温泉に浸かりながら先日発生した光隆の能力暴走について思案を続けていた。


 掛瑠「興一さん、ぬいぐるみなのに大丈夫なんですか?」

 こういち「問題ないよ。まるで普通の生き物みたいに、そう易々と身体の中にお湯が浸透する事はない。」

 掛瑠「そう…ですか、お湯加減は?」

 こういち「少し冷めてきた、変えてくれるかい?」


 彼が使っているタライを取り上げると、興一は掛瑠の肩に乗る。そして掛瑠は樽の様な桶の中の冷めた湯を捨て、湯船から暖かい湯を入れる。

 指宿温泉は草津温泉の様な硫黄泉ではなく、ナトリウム-塩化物泉であり彼らが入った温泉であれば世知原や佐世保などでも湧出する。更に言えば、実は東京湾岸でも天然温泉を湛える銭湯ではこちらの泉質の様だ。


 信之「草津温泉とはまた違った、これもまたいい…光隆?」

 光隆「だなぁ…ここのお湯、少し海みたいだ。」

 陸唯「お前海入ったら溶けるとか興一さんに脅されてたけど、何もねぇな。」

 信之「確か池田湖や鹿児島湾の湖水、海水が地下に染み込んで阿多カルデラの熱源で熱されたものだった筈。海と繋がってないからかな」


 深まる光隆の能力の謎に、追加で三人も頭を抱えていつの間にかのぼせていた。


 一方女湯。光隆と同じ能力であると判明した光音は、先のアクアジェットの件で一度池田湖に、もう一度は鹿児島湾に墜落していた。凍えない様に一番乗りで光音は湯船に浸かっていた。


 光音「整うって、こう言う事なのかな」

 チョウナ「ねぇ、光音。貴方も光隆と同じ能力なんでしょう、何で光隆と同じ能力暴走が起きないの?」

 光音「え、うーん。何でかなぁ…」

 カンナ「あたくしたち魔法族が、その個性で使える魔力や得意な呪文が違う様に特殊能力者も使える能力で差異がある様ですわね。つまり、能力暴走も同じことではなくて?」

 光音「かもねぇ…」


 有理「にしてもお昼ご飯のお膳の鰻、ちょっと私は苦手だったかなぁ…」

 カンナ「イングランドの料理がまずいと言われる理由は味付けはお客様のお好みでするものですけど、あたくしから言わせていただいても不味いものは不味いんですの。それと比較したら、鰻の蒲焼が乗ったお重はとても美味しかったですわ」


………


 こういち「さてと、授業とかしてる場合じゃないんだよなって」


 意味ありげな事を呟きながら、遠くガダルカナル島での戦闘の報告書を見ていた。ガダルカナル島の失陥、日本人は遺憾ながら2回経験したこの大事件だが1回目は太平洋戦争と言う人類同士の争い。

 今回の争いは人類とエイリアンの争いであり、事の重大さは100年前に小躍りしていたペンタゴンが慌てふためく程である。


 掛瑠「そうなったとしたら、オーストラリアはそろそろ亡命政府を立てねばならぬ頃合いかなと。」

 こういち「残念だ…上手く国民全員を脱出させたとしても、それを受け入れるキャパシティは少なくとも近隣諸国には無い。海上を放浪する事になるだろう…」


 こう考えてみると、人類はじわじわと追い詰められているのが分かる。現状、イベリア半島やアフリカ大陸東部(マリなど)及び南部(モザンピークなど)を征服され、南北両極地も抑えられている。シベリアに、中南米一帯からも人類の優勢は消えている。

 餓島(旧日本帝国に於けるガダルカナルの呼び方)を抑えられ、オーストラリア大陸まで制圧されたとならばとうとう南半球の人類の反抗拠点を失う。


 こういち「向かったのはベッキーではなく作路か…あいつの蛮勇なら、もしかしたら。」

 掛瑠「ベッキー?」

 こういち「ハワイ探題に居る戸次了(べっきりょう)さん、イズナちゃんのお姉さんの…元恋人。」

 有理「別れたの?」

 こういち「恋人だったイズナの姉、歌浦玉望副司令の殉職。直後にハワイ探題司令であったその親父さんの切腹自殺、全く…遺された人間のことを考えてほしいよ」


 海護財団は実は極端に若者が多い組織だ。その理由は30代後半以降、退職(して弓張重工に天下り)する人や殉職する人が極端に増えてしまうからだ。彼らは今も昔も皮肉を込めて「Z世代」と呼ばれる。

 その中で今最前線を張っているのが第1遠征打撃群の真壁司令(常陸にルーツを持つ剣道家)や天竺探題の大村さん、歌浦イズナの母である科学技術副本部長がその「Z世代」の人間である。


 掛瑠「真壁司令ってそれそ…」

 有理「はいはいストップストップ、それで今海護財団は火の車って訳?」

 こういち「海護財団どころか人類が火の車だよ。第8機動艦隊は戸次艦隊への補給作戦に回され、第4・第5機動艦隊は今レベリングに勤しんでる。景治総司令と彼杵副司令が率いる第1・第2機動艦隊は抑えとして残しときたいし、筑紫副司令の第2遠征打撃群は今イエメンだ」


 チョウナ「つまる所、予備戦力は前に不祥事を起こした作路って人だけね?」

 こういち「そうなるな…本人はめっっっちゃ意気込んでる事を僕に書面で残して来たよ」


 同封された、藁半紙(よく小中学校でミニテストや配布プリントとして配られた質の悪いコピー用紙)に堂々と筆で記された達筆な文、これが作路からの手紙として4枚も同封されていたのだ。


 “兄者へ

 雪辱を晴らす日が来た。国家ん撃滅が目的やった前回とは違い、今回は守備。絶対にオーストラリア大陸を守り抜いてみせったる。故に、あたいん事は心配しやんな。

 追伸、執務室ん倉庫に置いとるイモ焼酎はまだ熟成が途中じゃっで飲みやんな。”


 こういち「あいつ執務室でいも焼酎密造してあがった…」

 有理「掛ちゃん、どう言う事?」

 掛瑠「日本では梅酒は特例として密造酒は作っちゃダメなの。でもそれが熟成し切ってないからまだ飲まないでとの事ですね」

 有理「お家で飲む分にはいいんじゃない?」

 掛瑠「そのお家の影響力デカすぎるんですよ、弓張家…」

 チョウナ「そんなのバレたらスキャンダルってレベルじゃないね」

 こういち「もう…部外者3名ほどにバレちゃったよ」


 作路の(見方によっては)遺書とも捉えられる手紙を読みながら、興一はやはりぬいぐるみになって正解だったなと思っていた。

 こんな切羽詰まっている状態の中、景治司令から指示されたのは“有望な能力者の育成”であり、どんどん生徒の技の練度が上がっている。


 もしも自分がそのままの姿だったら、きっと慢心してここまでの成長はしていなかっただろう。まさに、教師冥利に尽きると思っていたのだった。


……………

……


 信之「不思議ですね…」


 夕方、オーバーカムの甲板にて信之はそう呟く。火山活動で作られた湾と綺麗な円錐状の独立峰を見ながら、しばしのティータイムと洒落込んでいた。


 掛瑠「知覧茶です、どうぞ」

 信之「ありがとう」

 光隆「それで…なにが不思議なんだ?」


 信之「草津の白根山と言い、指宿のこの山紫水明の景色と言い、どちらも地球がダイナミックに動いたから出来たんだなって。」


 彼はそう言うと、キャンバスを取り出して描き始める。光隆と掛瑠は三人分のキャンプ用の椅子を用意すると、静かに知覧茶を口にする。


 信之「やはり、良いですよね…この火山が作る風景。今回は行けなかったけど阿蘇や雲仙も行ってみたいな」


 キャンバスに向かいながらも、その言葉を紡ぐ。山育ちかつ、火山が身近にあった彼らしい言葉だった。


 光音「阿蘇かぁ…星空綺麗なんだろうなぁ」

 カンナ「それは、海の上じゃダメなのですの?」

 光音「カルデラの中から見るから綺麗なんだよ、こう自然の宝石箱みたいな…」

 有理「なんか、分かるかも」

 掛瑠「兄さん、そう言えば草津白根山と浅間山の間の嬬恋って…」

 光隆「だな、あそこもカルデラだった筈だぜ」


 陸唯「そう言えば、興一さんが軽くぶっ飛ばしたけど何であん時レトキシラーデが白根山目掛けて落っこちて来たんだ?」


 いつの間にか横にいた陸唯が、知覧茶片手にそう呟く。


 掛瑠「興一さん、本当に凄かった。本当に兄さんと興一さんには救われてばかりだよ」

 光隆「俺は絶対に興一さんも、景治も超えてやる。」

 こういち「力の果ては、余りにも虚無だよ」


 更にいつの間にか黄昏れる生徒の後ろに、興一が立っていた。そしてオーバーカム甲板の手すりに飛び乗ると、おもむろに彼らに教え始める。


 こういち「掛瑠、記録任せた」

 掛瑠「は、はい!」

 こういち「まだ僕も力の先を完全に見たわけじゃない。だけども、あるのは多分虚無だ。盛者必衰の理と言うべきかな、それとも過ぎたるは猶及ばざるが如しと言うべきかな。分からない。」


 必死に掛瑠がメモを取る。それは先生の言葉をまんま書き写してるに等しい速記であった。


 こういち「もう一つ、レトキシラーデが何で草津白根山に攻めて来たか…だったかな。」

 光隆「アレは何だったんだ?」

 こういち「彼らは熱をエネルギーに変換してる。その熱が沢山ある場所を自分のものにしたいんだ。薩摩硫黄島が攻められたのも、後明帝国の黄河上流原発群が立て続けに占拠されたのもそれが原因なんだ。」


 光隆と光音が止めていなければ、火山活動を活性化させ鬼界カルデラを叩き起こしていた可能性があった様だ。

 日本という地域に住む宿命として、地球の動きによって沢山の災いが降り注ぐ。台風や地震、火山がその象徴であろう。だがそれは、時に豊富な水や温泉などの恵みをもたらしてくれる。


 光隆「でも、何のためにあいつらは?」

 こういち「もうヒントは与えたよ、後は自分たちで考えて見ると良い。現実の問題なんだ、君たちを隔離してもいられない程の…」


 先生は、そう言いながら手すりの上を歩き艦橋へと入ってしまった。


 陸唯「興一さん…何を言いたかったんだ?」

 有理「掛ちゃん、メモ見せて」


 一同でメモを見返す。興一が言ったことほぼ全てが書き連ねられており、彼の高い速記能力を物語っていた。しかし問題があり、それは…


 陸唯「お前の字汚いし小さい、英語の筆記体より読みづらいぞ」

 掛瑠「新燃岳の火口に突き落としますよ」

 有理「何でそっち行った?普通に桜島の方が近いよ」

 掛瑠「いまいちインパクトに欠けるから」


 目を凝らせば読めるそのメモの解読、そして興一の言い回しの解読と言う二重の解読をせねばならない。まるで漢文訓読の様だ。


 光隆「取り敢えずもっとレトキシラーデについて、俺たちは知らなきゃ行けないかもしれない。」

 光音「なら、どうするの?」

 光隆「あいつをとっ捕まえる、その為に興一さん程とは行かないけど強くなるんだ。」


 夕暮れに染まったカルデラ湾に、覚悟を誓う光隆。その先にあるものは何か、彼らも…もしかしたら興一もまた、知らないのかもしれない。

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