五島沖海戦-前章-

 賢三「隠岐沖に到着した、これより状況を開始します」

 景治「頼む」

 澪「敵多数を捕捉、上陸までおよそ10分」

 賢三「主砲、撃ち方用意!」


 少し時間が遡り、この日の午前10時ごろ。ゴトランドは隠岐諸島の沖を高速で移動していた。この時レトキシラーデの斥候部隊と見られる連中が大陸方面から進出、隠岐之島に侵略の下準備として爆撃を行おうとしていたのだ。


 澪「ターゲティングよし」

 賢三「主砲、撃ち方はじめ!」


 陽電子徹甲砲が火を噴く。その火力たるや小型レトキシラーデ複数を一瞬で串刺しにし破壊する。


 澪「大型の敵、突っ込んでくる」

 賢三「シールド展開、VLS開放!」


 例のパイルバンカーを持ったレトキシラーデが迫る。そしてゴトランドに迫ったその時、艦とそいつの間にバリアーが張られた。


 レトキ「キィィィィ!」

 賢三「今だ、ハープーン発射!」


 敵を間合いに引きつけてのミサイル発射、シールドをどうにか破壊し目の前の艦を倒そうとする敵にとってはもう避けられない。気化弾の直撃により、敵は完全に吹っ飛んだ。


 澪「両側面から敵多数!」

 賢三「陽電子砲、全砲門一斉射!」


 更に側面方向から同時に迫るレトキ4体を、徹甲砲が一気に薙ぎ払った。


 賢三「敵部隊の殲滅を確認、状況終了」

 景治「承知した、結果は?」

 賢三「陽電子徹甲砲4基12門はかなり強力だが、指向門数を考えると陽電子ボックスランチャーと併用すべきと考えます。」

 澪「たしかに、リア・フィルよりも対処能力は低いと見える。」

 景治「なるほど…承知した、労りたい所だけどすぐに戻って作戦会議を行う。」

 賢三・澪「了解!」


 景治のオペレーションの様子をイズナが後ろから見ていた。


 イズナ「カゲハル、いきいきしてますネ」

 景治「そう…見えるか?」

 イズナ「少し、気分が晴れタ?」

 景治「そう…だね、遠くて掴めない未来を見なきゃいけない仕事だけど…こうやって、周りの人と触れ合うのもいいね。」


………


 カリブディスの甲板は実は装甲甲板となっており、光隆レベルの能力者では傷を付ける事は難しく、レトキのパイルバンカーを間一髪防げる程度だと言う。


 光隆「行くぞ陸唯!」

 陸唯「今回こそは勝たせてもらうぞ!」


 血気に盛る二人の腕には、樒果から昨日渡された腕時計があった。その中にはある結晶が含まれており、文字盤にはディジタルで表示されたアナログ時計が時間を示していた。


 掛瑠「好きでのし上がる天才と応用力の天才の戦い、果たしてどうなるのか…」

 ??「洞察力が育って行ったのかい?」


 どこかから電子音声が鳴った。それは光隆の鞄の上に据えられた、例のぬいぐるみからだった。


 有理「これ…興一さんの」

 こういち「身体に適応したのか、動ける事に気づいたんだ。以降は端末と文章読み上げ機能で会話させて頂くよ」

 光隆「どうしたんだ?」

 掛瑠「何でもないです!」

 有理「バトルに集中して!」

 光隆「あぁ!」


 光隆は手始めに水弾を放つ。銃弾に近い速度で迫る水鉄砲と考えて良いこれは、実は父相浦隆元がはじめて光隆に教えた…人喰い鮫も殺す一撃だった。


 陸唯「ア“ア“!」


 陸唯はそれを熱波で一蹴すると、光隆の間合いへと一瞬で迫る。


 光隆「うわぁ!」

 陸唯「アックス!!」


 間合いに入った陸唯は光隆の脳天めがけ熱された空気を固形化した斧を振り下ろす。


 光隆「危ねぇ!」


 たちまち光隆も水の固まりの盾を展開。すると水蒸気爆発が発生し辺り一面に水蒸気が舞った。


 陸唯「煙に撒いた…やんじゃねぇか光隆!」

 光隆「水榴弾!!」


 陸唯が吠えた先から、真っ正面に固形化した水の質量弾が何発も吹っ飛んでくる。


 陸唯「危ねぇのはお前だ!」


 攻撃を見切った陸唯は光隆へと走り、今度こそ脳天目掛けて振り下ろす。


 光隆「おっとっと…」

 陸唯「ていや!」


 一撃目を光隆は躱し切ったが二撃目が躱した方向から向かって来る。


 光隆「うわぁぁぁ!」


 しかし光隆もバカではなく、馬鹿力で上へと逃れた。


 光隆「今日の陸唯、明らかにヤベェ。それ斧か?」

 陸唯「バトルアックスとか、トマホークとか言われてるな。チョウナによりゃ、プレートアーマーをぶっ壊すんだとよ。」

 光隆「金太郎だな、お前!」

 陸唯「臨むところだ浦島太郎!」


 光音「ちょっと待って、浦島太郎より須佐男(スサノヲ)の方が良くない?」

 有理「んな事どうだって良い」

 掛瑠「しかしここで膠着状態、兄さんが空から降りるか陸唯が飛ぶしかない。だけど互いに互いの庭に踏み込まないと勝てないんだ…」


 光隆「行くぞ陸唯ァ! 水榴弾!」

 陸唯「そー来なくっちゃ、そいや!」


 光隆の放った水榴弾を陸唯が斧で受け止める。だがここで再び水蒸気爆発が発生し、辺りが煙に包まれる。これを好機と見た光隆が、陸唯に対して間合いを詰める。


 陸唯「これでも喰らえ!」

 光隆「しまった!」


 光隆は誘い出されたのだ。そもそも熱に対して水は明らかに相性不一致、何故なら水を熱せば水蒸気になって無力化される。又は熱を奪われ氷にされ、行動不能になる。

 これまで光隆が陸唯に勝てたのは相性不一致なものの出力で押し切っていたからであり、陸唯が出力を斧に絞って動いているのだから瞬間火力で押し切られてしまう。


 陸唯「終わりだ!!」

 光隆「!?」


 陸唯が最後の一撃を振り下ろした途端、審判をしていたチョウナが「そこまで」と大声で叫ぶ。ゲームセットだ。


 陸唯「勝った…」

 光隆「命の危険を感じたぜ…」

 陸唯「お前は俺とは違って技をどんなにぶつけられても治るだろって」

 光隆「あはは…」


 こういち「ふたりとも、良い戦いだった。」

 光隆「興一さん、動ける様になったのか?」

 こういち「お陰様で。暫くはこの端末使ってみんなと意思疎通をするよ。」

 陸唯「ご飯とか食べれるんか?」

 こういち「後でやってみるよ」


……………

……


 椛島、ここは数年前まで少ないものの人の営みがあった。されど怪物に踏み躙られてしまった。そして、深い眠りから怨念を目覚めさせてしまった。


 悪魔に身を委ねた存在は、他人の幸せが憎くて堪らなくなる。自分があの幸せな場に居た筈なのにと。

 悪魔はその思いを肯定した。怨念は彼らに幸せな者を不幸に堕とす為の棍棒と盾を与え、幸せな者を精神的に・肉体的に苦しめた。


 悪魔の眷属は、表向きは貧困や差別に喘ぐ者の味方として現れる。そして身分証などを教えて、自分たちの眷属とすべく調教するのだ。

 そして、幸せな者を悪として刷り込み自らを「正義の戦士」「声を上げた被害者」と規定して棍棒と盾を持たせた。


 悪魔の眷属は、そんな活動を通して豊かになることが出来た。だがその富を仲間に与えずに、独り占めしようとした。仲間は怒り、仲間内で殺し合いや破門する事もあった。


 幸せな者へ怨嗟を飛ばす彼らだが、相手に合わせて自分で棍棒の形を変える。

 その矛盾を突いてレジスタンスを行う者は、必ず怨嗟に対して合理的な現実を突き付けて反抗した。


 発狂した眷属と平和と幸福を求めるレジスタンスの間に、終わりない罵り合いが世界に蔓延した。

 人類が地球にて、自らの数十倍に巨大な怪物と争っていたとしても、一致団結する事は夢物語で実態はこんな醜い有様だった。


 しかしそのサガを利用して人間を従わせる怨霊がこの椛島に眠っていた。


 神はこれを見て、次に起こすのは大洪水か煉獄であろう。

 その時、我々は逃れる事が出来るのだろうか。我々は逃れるだけの力と、心を持っているのだろうか。


…………


 掛瑠「聖書…明らかに社会に対する救いを求める者を取り込む為のプロパガンダに等しい気がします。」

 カンナ「汝神を試す事勿れ、ですわ」


 掛瑠「例えそうであれど、これらの教えが形成された背景を知る事が科学としての歴史学なんです。故に、盲信は寧ろ罪なのではないのでしょうか。」

 チョウナ「相手の本丸で、相手よりも強くなるのが根本的に大事なのかもしれない。」


 掛瑠「されど、生きている事を苦しいと思うのは当然。だから、救われていると想いたいのでしょう。その気持ちは分かりますが、その想いを利用する輩はとても多い。ローマ教会や比叡山、身延山がその代表例です」


 チョウナ「宗教の全否定も、実は宗教たりえるんだよ。100年前にドイツと戦って「ypaaaaa!!」って突っ込んでくる人たちを、歴史好きならご存知でしょう?」

 掛瑠「あ…うん。確かにそうだった。人間は、救いを求めてもがき続けなければならぬ生き物なんだろうね…」


 LA15のラウンジでは光隆と光音、カンナが自習をしており、その横では掛瑠とチョウナが宗教から人間の生き方について考えていた。

 信之と進矢、泰郎はヘリ甲板の横で釣りをしていた。そして光隆と陸唯はと言うと…


 陸唯「なぁにこれぇ」

 光隆「すごく、すごくスライムだこれ」


 LA15の一角にて、回復装置に浸からねばならなくなっていた。今晩に行われると言う作戦に備えての措置である事は間違えなかった。


 景治「一応…これ、陸唯の体を治療するのに使った「超高速回復装置」なんだけどな…」

 イズナ「そのジェルに体を浸からせることで、肉体の不調を治癒できマース」


 恐るおそる、この得体の知れないジェルに足を入れるとほのかな温もりを感じさせた。


 景治「湯加減はどうかな?」

 光隆「うん…普通にお風呂だこれ」

 陸唯「俺本当にこんなんで身体治し…うわぁササクレが戻ってる!」

 光隆「膝の擦りむきが!?」


 表面的な傷の修復をこのジェルが早め、このジェルを内蔵にまで通すと内臓の傷が戻ると言うが、正直なところデメリットが分からないと言う点とトレンシウムの副産物と言う製造過程からかなり危険視されている。


 イズナ「イベメル何とかとは違い本物の万能薬足り得る存在だと思いますのにネ」

 景治「正直ライラック艦隊と出処は同じなんだ、進んだ文明の残骸ではあるんだけどね…」


 一応医療設備である為に、浴室の横に診察室がありジェルに入ってる人とやり取りができる様だ。

 そして、ジェルから上がった二人はシャワーを浴びて体力満タンの状態でみんなと合流した。


……………

……


 賢三「興一のやつ…昨日からどこ行きあがった?」

 秀喜「たいほうで一緒に…?」


 興一失踪に不安になる会議室、割と好評である筈の椿茶に誰も手をつけなかった。そんな最中、重苦しいこの場に少年たちの声が響いた。


 光音「失礼します」

 光隆「失礼しまーす」

 こういち「待たせたな」

 賢三「興一…まさか、そのぬいぐるみから声が聞こえるけど、もしや?」

 こういち「ちょっと色々とあってね、それよりも…」

 景治「作戦会議を始めよう」


 全員が席に着くと、今次作戦に関する説明が始まった。

 現状として恙が九州北部を中心に猛威を振るっており、奴が根城にしている五島列島の一つ椛島の魔力源を封鎖または破壊する事が目的となる。


 イズナ「その上で賢三・澪のyoursには奈留島にてシールドを張り、クライトゥスの群れを引きつけて貰いマス。その間に後方から秀喜艦による波状攻撃を」

 賢三「提言を採用して下さりありがとうございます。」

 澪「今度は…守れるんだ」

 秀喜「だが奴ら武装漁船を使って今度こそ上陸する構えを取っている。その対応は…?」


 こういち「こちらに策がある。掛瑠の能力を増幅し、武装漁船の群れを氷結させる。後は成茂さん達に任せます。」

 成茂「任された」

 掛瑠「え…(困惑)」

 有理「まぁ、どうにかなるって」


 クライトゥスの処理と武装漁船に関しては決まったが後もう一つ、重要な事が残っていた。


 賢三「魔力源の封鎖…か」

 カンナ「それなら心当たりがありますの。祈りを込めた銀の弾丸が最良そうですけど、アルミニウムでも代替できますわ。」

 都姫「なら、弓張重工がスクラップとして購入したフリーダム級及びインディペンデンス級が役に立つかな。先代の遺産だけど、この海を守れるならば…」

 こういち「先代と言っても生きているから…」


 フリーダム級及びインディペンデンス級沿岸戦闘艦。米海軍が近海域での警備を目的に建造した艦艇であり、ハイ・ローミックス構想に基づき建造されたものだ。

 だが初期型は能力不足によりスクラップとして売られていた所を弓張重工が購入したのだ。

 尚現在は海護財団が輸出した通常動力型グリッドレイ級がその役割を担っている。


 カンナ「されど、祈りを込めなければ銀の弾丸となりえません。ですので恙の被害者に引き金を引いてもらう必要がありますわ。」

 チョウナ「銀の弾丸は術式の一つ、だから私たちがサポートするけど…」

 泰郎「覚悟は出来とる、ワイが恙に引導をわたしゃええねんな?」

 光隆「大丈夫だ、俺たちがちゃんと守ってやる。そして俺が恙をギタギタにしてやるから、心配すんなって」


 作戦の大まかな内容は決まった。後は…


 有理「それよりも、作戦名どうする?」

 琴子「恙封印作戦かな」

 秀喜「それはちょっと子供っぽい。」

 琴子「(´・ω・`)」


 光音「作戦名「ツバキ」はどうですか?」

 景治「なるほど…五島列島の象徴、この海域を怪異から人類の手に取り戻す作戦にぴったりだ。ありがとう、光音」

 光音「えへへ」


 そして、景治はみんなが議論している途中に部隊配置を決めていた様だ。


 景治「作戦「ツバキ」遂行に際し、呪文直撃や急性キマイラオート化の危険性がある。だがどうか実行してほしい。この海を今度こそ護り切る、それが海護財団の使命なのだ。」


 イズナ「陣立てを申し付ける。第一遊撃隊、旗艦ミライ及び魔導実験艦オーバーカム。乗員は松浦光音および相浦光隆、カンナ・グラバーおよびチョウナ・グラバー。そして」

 景治「延岡泰郎」

 泰郎「…!」


 景治「君たちには魔力源の封鎖または完全破壊と恙の撃滅任務を任せる。」

 イズナ「続いて第二遊撃隊、カリブディス。武装漁船の足止めとキマイラオートの撃滅任務を任せマス。ここには補佐として壱岐成茂率いる海兵師団予備隊を同行させる。」

 景治「乗員は松浦有理及び相浦掛瑠、諫早陸唯及び川内信之、小佐々進矢。」


 イズナ「旗艦をゴトランドとする第三遊撃隊は奈留島に布陣しシールドでクライトゥス級の対空砲群を引き付けて。そこを秀喜率いる第四遊撃隊の飽和攻撃により仕留めマス。」

 景治「第一守備隊は旗艦をセイファートとして、彼杵半島方面の守備を担う。第二守備隊は…」

 都姫「我が弓張重工自衛船団を以って佐世保及び松浦半島の守備に付きます。」


 景治「尚今次作戦に於いては日本国防軍及び米海軍の眼前での戦となる。その為上空に金属雲を発生させレーダーの目を撹乱、更に陽電子砲と重粒子砲、そしてプロトゲイザー砲の使用を禁止する。

 故に通常火砲、レールガン、荷電粒子砲、ミサイル類、そして各種特殊能力のみ使用する作戦となる。」


 佐世保は江戸時代小さな漁村であり、本来海運の中心だったのは平戸や伊万里の方だった。それが明治時代に入り軍港として整備され、太平洋戦争後は米軍基地も置かれる様になった。その目の前で妖怪相手に戦争を始めるのだから、景治も入念な準備をしていた。


 イズナ「今次作戦の要旨はこの通り。この後2000出撃、戦場まで潜航して潜航。恙陣営の武装漁船の先陣が0ポイントを通過したと同時に交戦開始デス。」


 イズナからの最後の説明がなされた直後、景治が立ち上がる。


 景治「使命を最大限果たせ、されど限界を感じたら即座に退避しろ。この戦を戦い抜き、再会を誓おう。」


………


 椛島、恙の御殿。

 人ならざるものになりつつある存在と、人ならざるものが混ざり合うこの場所。常に悲鳴や怒号が響いており、一度入ると数年は食欲が消え失せる場所だろう。


 恙「あの餓鬼共…とうとう怨めしい松浦の妖術師すら連れて来るとは。」

 ベリト・コラタレ「支度出来てるぞ恙、お前の力を示してやれば良い。何も理解していない愚かな人間共に、お前さんの全能さを示してやれば良い。」

 恙「決まっておろう、吾輩こそが全人畜の主なのだ。」


 ぞろぞろと、御殿に乱雑に寝転んでいた眷属の群れが起き上がる。魔力源からは多数の武装漁船が浮かび上がり、沖のクライトゥス級が息を吹き返した。


………


 光音「なんで姉さんは、非番だったはずの澪さん達を入れたのかな?」


 LA15ミライの艦橋にて光音はひとりごちる。景治の命を受けた艦隊はスペックス・ストレートを抜け、戦場へと潜航し先行する。

 

 光隆「きっと理屈とかそんなんじゃない、心を救うために景治は動いてんだろうなって。」

 光音「理屈じゃ…ない?」

 光隆「賢三さんや澪さんをこの作戦に入れたのも。光音に救われたから、そう考えたんじゃないのかな。」


 こういち「(光隆、たまにIQ跳ね上がるよな…あの父にして、この息子達あり…かな。)」


 センチメンタルな艦橋に、突如警報音が鳴り響く。


 琴子「椛島の魔力源に大規模変動を確認。」

 景治「承知した」

 イズナ「上空よりP3哨戒機及びMQ-9リーパーが接近」

 景治「戦闘が始まる、流れ弾を受けたくなければ退避しろと伝えて。」

 イズナ「退避しませんネ、交戦規定に則って実力行使をして良いデスカ?」

 景治「待て、致し方なしだ。」


 刹那、偵察に来た2機は何かを見失ったかの如くフラフラと大村の国防軍基地へと舞い戻って行った。

 一方彼杵半島沖、松島(火力発電所のある島)の遠見番展望台にて、一人の男が曇る海を眺め佇んでいた。

 男の名前は相浦隆元、光隆と掛瑠の父で日本国防軍最強の能力者と名高い男だ。


 隆元「光隆、掛瑠…存分にやってこい」


………


 琴子「武装漁船に動きあり、佐世保へ向かい侵攻を開始した模様。」

 イズナ「動きましたネ」

 景治「総員、第一種戦闘配置。」


 景治の号令と共に


 イズナ「全艦配置完了、戦闘準備オールクリア。」

 景治「『ツバキ作戦』第一段階、攻撃開始」


 アルニラム隊。120隻の武装漁船を前に矢面に立つ彼らは、前衛右手先鋒にオーバーカム、中峰にカリブディス、その後方にLA15ミライが隊列を組んでいた。


 光隆「行けるか、掛瑠!」

 掛瑠「了解です」


 作戦の第一段階として、敵前衛の進軍を封じるべく掛瑠の能力で海域丸ごと氷漬けにする戦法なのだ。


 光音「アビリティブースター、焦点をカリブディス甲板に合わせた。」

 有理「いっちょかっとばせ!」

 掛瑠「能力発動」


 琴子「敵艦隊、発砲!」

 こういち「間に合うか…」

 光音「アビリティブースター、展開!」

 掛瑠「氷 結 地 獄 !!」


 刹那、後方のブースターから強力なエネルギーが放たれ甲板上の掛瑠に直撃する。

 そしてオーラを纏った掛瑠の正拳突きが、強烈な冷気を前方一帯に放ち、武装漁船の大群を氷漬けにした挙句椛島の半分までも氷結させたのだ。


 陸唯「すげぇ…」

 チョウナ「一気に207平方キロメートルが氷漬けになった…だと!?」


 光隆「よくやった…掛瑠」

 掛瑠「ありが…とう」


 掛瑠は能力の使い過ぎで気絶。それを見た有理が触手を用いて速攻で回収、そして無人艦載機が飛び立ったのだ。


 光隆「後は俺たちに任せろ!!」


 光隆の雄叫びが凍った海域にこだまする。勢い付いた3隻と切り札は進撃を開始した。


 恙「何をやっているのだ…!」

 ベリト「野郎…クライトゥス級、全弾あのクソッタレ共へねじ込んでやれ!」


 武装漁船120隻全てを氷結させたと思ったら、たちまち後方に控えたクライトゥス級80隻から迫撃砲の猛攻が始まった。


 カンナ「あーもうウザったるいですわね!今日は魔石詰め込まれてますの、とっとと失せなさい!」


 カンナの十八番、ハドリアン・ウォールが展開。彼女はいつからクライトゥス級の天敵となったのだろうか。

 しかし今回はアルニラム隊がターゲットにされず、後方の佐世保市への無差別爆撃が目的だったのだ。


 都姫「2番艦トレ・クロノールと3番艦イレータ・レヨンに次ぐ。機関出力を上げシールド展開、全て抑えなさい。」


 賢三「敵さん誘いに乗った」

 澪「Z旗を掲げろ、シールド展開。ミサイル全弾打ち方始め!」


 クライトゥス級の防空能力は左右に搭載された照射型光線砲のみであり、それぞれ左右180度、上下90度まで対応可能だった。しかし砲配置の関係上前に2基とも投射するか、もしくは後ろに投射するかしか出来ない。

 更に言うと後方の砲塔群が火を噴いている状況ならば、砲弾を撃ち落とさない様に後方には撃ち出すことが出来なかった。


 その為、前方に照射光線砲を釘付けにしたのだ。


 秀喜「この機を逃すな! ハープーン攻撃開始、出し惜しみは無しだ!!」


 海面スレスレを対艦ミサイルが飛び交い、クライトゥス級の群れに着弾。その性質上全身弾薬庫な本級は1発でも対艦ミサイルか砲撃を喰らえば誘爆し爆沈するのだ。


 ハープーンミサイル第一波が直撃した途端、指数関数的に誘爆を引き起こし一気に半数のクライトゥス級が轟沈した。


 賢三「このまま行くぞ!」

 澪「喰らい尽くせ!!」

 秀喜「ここまで来ると小気味が良い、是非とも最前線で見たかったな。」


 恙「畜生め…ベリト!」

 ベリト「クライトゥス級など、魔力源さえあれば何隻でも作れるんですよ。財団の努力は全て無駄だったって訳だ」


 ここで魔力源の特色が出現。殆ど壊滅したと見られたクライトゥス級の戦隊が魔力源で再構築され戦場に復活して来たのだ。


 琴子「クライトゥス級多数が魔力源により生成、アルニラム隊へ向かい飛翔!数80、120、160、まだ増えます!」

 光隆「何だあの数…」

 有理「撃ち落とせない」

 こういち「ここで全力が使えれば…」


 空を覆うクライトゥス級の大群が光隆達へと迫る。40隻で島一つを平らげた化け物と理解していれば、膨大な数のクライトゥス級がミサイルとして迫り来る恐怖は計り知れない。


 有理「わ…わぁ」

 掛瑠「」←気絶中

 陸唯「どうしてなんだ?」

 光隆「なんてこった…」

 光音「私たち、ここで終わるの…?」


 景治『諦観は美徳ではない』


 光音「!?」


 刹那、空を覆い尽くすクライトゥス級の群れが一瞬にして粉微塵になり、跡形もなく消し飛んでいた。


 景治「共鳴振動波、母さんが光音を護るために使った技だ。光音、光隆…君たちにはぼくらが付いている。安心して全力を尽くせ!」


 不敵な笑みを浮かべる姉に、ふと安心を覚えた。そしてスロットルを一気に傾ける。


 光音「…ありがとう、姉さん。アルニラム隊、全艦全速前進。魔力源を叩く!」


 LA15とオーバーカムの二隻が沿岸戦闘艦を引き連れて猪突する。浮遊するLA15とオーバーカムの周りを、ヘイローに吊るされた沿岸戦闘艦がが囲むと言う陣容になっていた。


………


 カンナ「どう言うタイミングで下ろせば良いですの?」

 泰郎「あんさん、ワイがタイミングを指示する。心配せへんで集中せい!」


 恙「餓鬼共が…」


 恙はLA15率いる一個小隊に実体を伴わない黒い巨大な前足を出し、引っ掻き攻撃をぶちかました。


 チョウナ「左舷二隻をLA15の下に潜らせて!」

 カンナ「はわわ、こうですの?」

 光音「シールド展開、1ミリでも触れてみなさい!」


 ミライのシールドが展開。ゴトランド級ともまた違う、特異なシールドが恙の妖術攻撃を阻む。


 光音「やった、躱した…」

 光隆「俺やっぱりアイツに腹立った。」


 光隆は席を立ち、急いで艦橋の上に立つ。


 光音「ちょ、光隆!」

 光隆「あいつは俺が倒す。そうしないと気が済まない!」


 恙「来いよ、木偶の坊」


 売り言葉に買い言葉、光隆はLA15から大ジャンプをして恙に迫る。椛島上空500メートル、足もすくむ闇夜の空を決戦の舞台と定めたのか。


 光隆「人の心に勝手に入って、抉り上がって!」

 恙「木偶の坊は飯を食わぬのか?魚を、肉を植物を!」

 光隆「そこじゃねえんだよ!!」


 後方に振りかぶった腕に、水のオーラが流動するまま増大。体長10メートルはある恙を飲み込む様な渦潮が形成された。


 『ア ク ア ・ プ レ ッ サ ー』


 渦潮が一気に収束、ひと束の大きな水柱となり恙の顔面に突き刺さる。その勢いたるや、LA15ミライの居る椛島-奈留島間の水道から椛島の南端を軽く300メートル越した先の凍った洋上にクレーターを作るほどだった。


 光音「アビリティブースター無しに?」

 こういち「作戦会議の時からパワーを貯めてたんだ、あの一撃はLA15のリニア砲より強いぞ…」


 恙「何だ…あの餓鬼」


 光隆「人間って言うのはなぁ、生き物って言うのはなぁ、みんな誰かに必要とされてるんだ!お前なんかが、その価値を決めて良いもんじゃねぇ!」

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