芽生え始める新芽-2

 敷島に戻り、昼下がりに機械いじりをしたこの日。夕食は信之の担当になっていて、それもいつもご飯に味噌汁、シャケの塩焼きかサバの味噌煮が献立として出されていた。


 光音「そうそうそんな感じ」

 カンナ「へへん。私にかかれば箸なんて大したものじゃありませんわ!!」

 陸唯「じゃあグリーンピースやるよ」

 カンナ「やってやろうじゃねーかよこの野郎‼️」

 陸唯「いやそんな口調しちゃいけないでしょお嬢様が」

 信之「(ツッコミ役が居てよかった)」

 カンナ「あれ、何度やっても掴めませんわ!」

 陸唯「だろうな」

 興一「信之、少し終わったら話がある。」

 信之「はい?」


 夕食後、興一は皿洗いをしようとした信之を連れ出して艦橋に登った。


 信之「興一さん、僕が洗わなきゃ誰が洗うんですか!」

 興一「まぁ黙って聞いてほしい。君は今日何のためにご飯を作った?」

 信之「そ、それは…みんなのために」

 興一「誰も頼んでなかっただろう?これまでは僕が夜作ってたのを朝温めてみんなに出していた。」

 信之「じゃあ僕がやっても良いじゃないか」

 興一「信之、無理しなくて良い。」

 信之「そんな…無理なんてしてない」

 興一「あの旅館では、信之は仕事をしなきゃ捨てられると思ってたんだろう?」

 信之「…」

 興一「僕はそんな事はしない。だから、もう少し子供でいても良いんだよ?」


…………

……


 食後、食堂に残った人たちでちょっとした雑談が広がっていたがその中で何か疑問に思ったことがあった様だ。


 掛瑠「所で映美さんはどうしたんだっけ?」

 有理「どうやら特殊能力者が横浜付近で居るかもしれないから、フィールドエージェントととして動いてるみたい」

 カンナ「財団は人手不足のようですが大丈夫ですの?」

 有理「どうも、これも財団にとって重要な事らしい。」


 ここで、暫し時間を借りて海護財団のエージェントの仕事について見てみよう。

 海護財団には、映美が所属する「科学技術本部・特殊能力研究課」だけでなく「社会問題研究部」と言う部門がエージェントを持っている。

 「特殊能力研究課」のエージェントは、光隆たちの様な特殊能力者の卵を探し出し研究プログラムへの協力者を募っている。また、特殊能力の行使が疑われる犯罪への捜査の為に警察から呼ばれる事もある。

 「社会問題研究部」のエージェントは、犯罪の原因となる社会問題や社会不安などの要因を実地調査や統計に基づき研究する部門である。

 また「技能実習生」や「不法移民」などの人権に関する社会問題に対しても、彼らは積極的に介入して本国に帰れる様に手配したり、労働環境の改善策を提示したりしている。

 今回は、彼らの仕事について迫っ…


 景治「それは次の機会でやってくれないか」

 映美「えー折角コーナーを設けてくれるって話なのに」

 景治「駄目だ、あくまでこの作品は光隆の物語だ。今度コーナー用意するけん、今回は大人しくしとき。」

 映美「はーい、」


 松浦映美

 有理の姉で景治やイズナと同い年。

 海護財団のフィールドエージェントで興一の部下。光隆たちの故郷、横浜南部・横須賀エリアを守りながらも日本各地で新たな特殊能力者を探している。


 映美「それより、光音は景治が自分の事捨てたんじゃないか…大事じゃないんだって思い込んでる様だけど、そろそろしっかりと対話をすべきだと思う。」

 イズナ「それを提言して実行したら、光音がチェストしちゃったデーズ」


 景治「明かすのなら、それなりに覚悟してもらう必要がある。第一僕は…」


………


 翌日午後、今度はちゃんと海護財団の総本部を案内したいと考えた興一は総本部のCDCに一同を案内した。


 興一「ここが海護財団の指揮中枢である第二CDC、ここで常に敵の動向を見張ったり攻めてきた際の防衛を指揮してるんだ。」

 チョウナ「海護財団の中枢も中枢、私たちにこんな機密を見せちゃっていいの?」

 興一「大丈夫、そんな時は…」


 景治「僕が君の認識と君が存在した事実を食べてあげるから」


 興一の後ろから出現したのは海護財団の総司令長官、松浦景治だった。


 光音「姉さん…!」

 光隆「景治、おどかすなよ!」

 景治「ごめんごめん、でも容易く出来るから忘れたいトラウマとかあれば僕に言って。」

 掛瑠「…」

 有理「景ねぇは何で今ここに?」

 景治「様子を見に来た、昼食ならさっき取ったさ。」

 興一「そうですか…それじゃあ後で僕らも屋上で食べることにしますよ」


 明らかに姉妹関係に気を遣っていた。それもそうだろう、数年ぶりの感動の再会の時に刃傷沙汰を起こしかけたのだから。


 CDCから本部縦貫モノレール乗り場へ行き、次の車両を待っていた。


 双樹「やぁ、弓張興一郎くん。」

 興一「筑紫双樹中将、郎は要らないんですよ。それで何の様で…」


 興一の言うことは聞かずにすかさず信之へと彼女の関心が移った。


 双樹「へぇ…君が信之くんか」

 信之「だ、だれですか?」

 双樹「私は筑紫双樹、興一さんが嫌だったら私の所にいつでも来ていいんだよ?」


 一方佐世保では…


 都姫「極めてキャラ被りを感じた」

 メイド長「ご主人様?」

 都姫「大丈夫。にしてもあの件、佐世保江迎ではキャパ不足だから新しいのを作りたいのだろうけどこれはやり過ぎね。」

 メイド長「しかしながら、些か不本意な事がある様に思えまする。」

 都姫「そうね…あそことは別で新基地の建設は進んでいる、この策を用いようとする派閥にはその新基地が目障りなのでしょうね。」

 メイド長「では、如何なさるおつもりで?」

 都姫「それは…」


………


 興一「ここがLA15などが入っているドック。圧縮空間の中だから、ここまで広い空間にたくさんの船を停泊させれるんだ。この間はよく見て回れなかったでしょう?」


 この巨大ドックは海護財団総本部、敷島第7フロートのほぼ底部に当たり深さ150メートルの場所にある。興一の言っている通り圧縮空間で形成されているためにどんな大きな船でも停泊する事が可能だと言う。


 チョウナ「これが…あの?」

 信之「外にはこんな訳がわからないものもあるのか…」

 進矢「高度に発展した科学は魔法とも見分けが付かなくなるそうだ。」


 興一「そうそう、光音。景治総司令からの指示なんだけど」

 光音「…はい」

 興一「LA15を君に預けたいそうだ。」


 そう言うとLA15の鍵を光音に託し、表で買ったお茶を飲み干す。


 興一「ただ、そうなるとここに置いておいたままには出来ないか。圧縮空間筒でLA15を収納できる?」

 光音「やってみます」


 圧縮空間筒を手に取ると、LA15へ向けてビームを指向する。するとLA15がどんどんと小さくなりビームに吸い込まれる。


 光隆「LA15が消えた!?」

 光音「大丈夫、私が持ってるから」


……………

……


 この日、13時半から何やら式典がある様で興一は彼らを屋上へと案内した。


 光隆「広いなぁ!」

 光音「海抜120mはあるかも」

 チョウナ「あれが本部防衛システム、LA15にもあったボックスビームランチャーが沢山ついてる。」

 

 そして、海上には総旗艦級と思われる艦影が姿を現した。


 チョウナ「LA14カコ?ミライと同じ徹甲砲じゃなくて特殊なボックスビームランチャーを使ってる」

 興一「オーバーホールどころが大規模改装を行うからだろうな…」


 そして、LA14の甲板上からと見られる中継が各部のモニターに出現する。そこには景治総司令の姿があった。


『我々海護財団は、一国に囚われない世界中の人が再び自由の海を取り戻す為に、過去10年に渡って展開されてきた。今日、就役する艦艇はそんな海護財団に新たな1ページを刻むターニングポイントとなる船だ。』


 海中から泡を巻いて、海から4隻の艦艇が飛び出し海を叩いて大波を作った。うち2隻が大型巡洋艦、もう2隻は駆逐艦クラスであり彼らがLA14カコの周りを廻る。


 『海護財団・重粒子砲艦隊構想、大型巡洋艦ふぶき型及び駆逐艦マーシア型。これまで研究を続けてきた“重粒子砲艦隊構想”がようやく完成した。研究を重ねた科学技術本部の職員には多大な感謝を述べる。』


 立派な総司令としての姿を見せた後、ヘリ甲板から艦内へと引っ込んだ。


 興一「重粒子砲艦隊構想、完成したのか!?」

 チョウナ「ジュピター級のマイナーチェンジ?」

 興一「いや違う、あれのボックスランチャーは外向けには6連装電子熱線砲と説明されてるけど陽電子砲なんだ。それであの艦が積んどるのはノーザンプトンやリューベックに積んでる荷電粒子砲、つまり何か言いたいのか分かる?」

 チョウナ「荷電粒子砲艦?じゃああの所謂“マテ貝砲”は何なの?」

 興一「それが重粒子砲。プロトゲイザー砲よりも口径と破壊力は抑え気味だけど、威力調整が難しいプロトゲイザーよりも容易に扱える戦略兵器。」

 進矢「使い勝手で言えばこちらの方がいいかもしれない、日本でトレーラーよりも一般的に軽トラがよく選ばれるのと同じだよ。」


…………

……


 日が水平線へと近づき、間も無く夜になろうとしていた時。再び光隆達はゆうぐもに戻っていた。


 陸唯「ふぅ…疲れた」

 光隆「だなぁ」

 光音「姉さんの真意は一体…?」


 湯呑みの中のお茶が、だいぶぬるくなってしまっている。湯呑みを回す事で、それが水流に振り回される。

 だが、水流に…時代に振り回されるのはどちらだろうか。艦橋からやかましく階段を降りていく音が聞こえた。


 有理「本部から緊急通信、レトキシラーデがこっちに迫ってる‼️」


 里帆「レトキシラーデ、東側より侵攻。第5フロート方面に進撃していきます。」

 興一「こちら【カリブディス】レトキシラーデを迎撃する」


 カリブディスの艦橋は普段職員室として使われているが、この非常時には艦橋として用いられている。本来の軍艦としての機能を、再び果たせる様にしていたのだ。


 光隆「トリウム溶融塩炉?」

 樒果「LA15などが積んでいる機関が【本機関】と言ってもの凄い性能なんだけど、擬似機関やトリウム炉はダウングレードした代わりに量産コストが低く割と作れるの。」

 興一「それでも、各国で実用化寸前のレーザー核融合炉の何千倍の出力を出せて、理論上恒星間航行も出来る。と言っても、ゆうぐも以降つい最近まで作るのを自制してたんだけどね。」

 光隆「こいつがあれば勝てるのか?」

 樒果「えぇ、」


 本部では…


 里帆「第二防衛線突破、無人有人混成艦隊と会敵します。」

 要「せめて、新鋭艦が演習で日向灘まで行ってなければ…」

 景治「状況は?」

 茜「おかえりなさい、総司令。15分前に銚子沖30kmに出現、トリウム炉搭載艦でこちらに引きつけています。」

 景治「となると、防衛艦隊本陣と接敵するまで20分か。」

 澪「現状無人艦隊を急行させ迎撃に当たってます。」

 景治「通常動力艦を主軸に、トリウム炉搭載艦を要とする第2防衛艦隊の出撃を命ずる。」


 レトキシラーデは2036年に現れた、熱エネルギーを奪い取る存在。火山や原子炉を制圧し己のエネルギーとして来た。

 アメリカのイエローストーン、アイスランドのギャウと呼ばれるプレートが生まれる所。

 オロシャ連邦や中華王朝“順”内陸部の大河川を利用した原発など、地球上の様々なエネルギー関連施設が襲われて、占拠されてきた。


 核兵器は当初有効ではあったが、段々そのエネルギーを処理できる様に進化してしまった。

 トリウム炉の熱はマグマと比較にならないものだ。故に、時折敷島にレトキシラーデが侵攻してくる。そんな艦隊が敷島の沖にいる事により、火山大国日本を防衛する要ともなっている。

 サーモグラフィーカメラを覗いたことはあるだろうか。それで強力な熱源を覗くと、周囲まで熱が伝わっているのが分かる。それと同様、艦隊の熱源に連中は釣られるのだ。


 里帆「東海村原子力施設より50km。よかった、離れて行ってる。」

 要「先行する無人艦隊、損耗率60%」

 澪「軍艦くらいまた作ればいい、残存艦と第2防衛中隊の包囲陣形。」


 出現したレトキシラーデは前回とは違い、筋肉隆々なコウロギの様な見た目だった。


 陸唯「うわキツ」

 光隆「えーお前あれで?」

 陸唯「虫はちまいから良いけどさ、あんなデカイと流石に気色悪いぜ」

 興一「発艦シークエンス、アンカー巻き取り完了。カリブディス、発進‼️」


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