正義の執行者

暗黒騎士ハイダークネス

第1話

 またこの空間に人が来訪しました。


「・・・神様?」


 私を見て男はそうつぶやきました。


 私はそれに何も返しません。


【私は与えるモノ・・・あなたの願いは?】


何十、何百、何千、その言葉だけを繰り返してきたその言葉を彼に聞かせた。


ある者は感動で泣き、またある者は元の場所に返せと喚き、そして、その問いかけに意味がないことに気づくと、誰もが無言で私の言葉の意味を考えていた。


「なんでも・・・?」


 その問いにこの場所で答えるものはいない。


 男はその問いに答えがないと知ると、無言で自分の中の答えを考え出した。


「僕は正しさを知りたいです」


『みんなA子ちゃんを虐めてたのに、A子ちゃんをB美ちゃんを殴ったら、みんなA子ちゃんが悪いって言います』


「誰が悪いか、誰かが正しいのか」


『なんでみんなA子ちゃんを虐めるの?』


「そして、それを裁ける力が欲しいです!」


『そんなの酷いよ!!』


【与えましょう、あなたに見抜く目を、裁く力を】





ある国に1人の処刑人がいました。


あらゆる嘘を見抜き、類稀なる強さを持ったそんな処刑人がいました。


ですが、ある時に国王から命令された罪人を裁かなかったのです。


「この者に罪はない」と処刑人はそう断言したのです。


男は自分に悪意が向けられることが目に映ります。


国王や、それに呼応する貴族は男にとっての悪になりました。






男は向けられた悪意を忘れません。


そして、手を出されれば、やり返します。


それから行われたのは


そう、ただの、、、


力の持つものが悪を討つ。


それだけのことです。


その波紋は広がり大きくなりました。


その大きな波紋はついには国王を、いいえ、巨悪を討ったのです。


新しき王はこう言いました。


「我らが英雄に祝杯を」








 ある時・・・男は故郷へ、母の元へと帰りました。


 裁くべき者が多くいるために、それほど長い期間いる予定ではありませんでしたが、久しぶりに故郷へと帰りたくなったのです。


 そうただそんな何の考えもなく、ただただ・・・男が自分自身でいられる場所に一度休みたかったのかもしれません。


「ただいま」といえば、「おかえりなさい」とただ返ってくるそんな平凡な家に。


 待ち望んでいた声はありませんでした。


「人殺し」「夫を返せ」「バケモノ!」


 溢れんばかりの悪意の歓迎でした。


その中には母も父も・・・混じってました。


聞けば、多くの村人が、そして、兄が出兵していたそうです・・・旧国王軍として。






 ある村が一つ消えました。


 その村は多くの反乱分子がいたそうです。


 男は・・・それを止めることができずに見ていました。


 それには悪と、裁くべきだと、目が示していたからです。


「あんたなんて産まなければよかった」


 そんな恨めし気な目が今でも瞼の裏にこびりついています。





 故郷を失ってからも、彼は裁き続けます。


 この国からあらゆる悪を駆逐すれば、みんな幸せになれる。


 そんな妄想を男は信じていました。


 悪がなければ、幸せなのだと。


 殺して殺して殺して殺して


 最後には終わることのない悪意に男は疲れ果てて、1人逃げ出しました。








 ある時に森から出て、元居た男の国にやってくることがありました。


 そこでは男のことが大犯罪者になっていたのでした。


 目に映るあらゆる場所から向けられる悪意。


「ははは」


 男は力なく笑います・・・自分のしていたことの無意味さを。


 あぁ、、、正義とはこうも移ろうのかと・・・自分の不確かさ、不完全さを呪いました。


「もう何も見たくない」と。


 男は自らの手で両の目を抉り出しました。


 そして、誰も誰もいない森の奥底で静かに男は1人で朽ちていきましたとさ。









私はあらゆる『願い』を叶えるモノ


それによって、生じる不幸も幸福も、あなたが選んだこと。


私はただ誰かに与え続ける装置。


『幸福』も『不幸』も


 乞われれば、与えよう。


それが私の存在理由だから。








    願わくば、誰か私を




                 して





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