20.生き人形
ユキたちはよく、凛から虐められると有栖に助けを求めていたそう。だが、凛がそんなことをするような子ではないと有栖は信じていた。
「凛はとってもいい子なんだよ。私がユキたちの事を紹介するとニコニコして接していたんだ。優しかったのにそんな事する訳ないって」
でも。有栖は瞼を閉じる。
「ある日マーキュリーが珍しく悲しい顔をしていたの。話を聞くと、マーキュリーが大切にしていたティーカップを凛が割っちゃったって」
「あら……」
「流石にそれは怒ったよ? だってマーキュリーは大切な友達だもん。悲しい思いをさせたんだから、謝って欲しいもん」
その話をする度、有栖の表情がどんどん崩れていく。眉毛が歪な線を描き、どこか疲れ切った薄笑いを浮かべていた。
「だから私、怒ったんだ。凛を団地の外に連れ出してマーキュリーにちゃんと謝ってって。結構、強く言ったと思う」
大きな声で凛を制したらしい。自分でもこんなに大きな声が出るとは思わなかったと有栖は呟く。
案の定、驚いた凛は大きな瞳に涙を溜めていた。ちゃんと謝って。ごめんなさいして。その後も凛に言い聞かせらように怒った。
だが、凛は最後まで首を上下に振らなかった。
『わたしはやってない』
凛は確かにそう言ったのだと。
「謝れば許してもらえるよって今度は説得したの。でも、凛は認めなかった。どうすれば良いか迷っていたんだ。そしたら……」
凛がこう言ったんだ。有栖は錘のような口を開き続ける。
『ママはどうして、誰もいない所になんで話しかけるの? 誰とはなしてるの?』
凛の言葉が、有栖の心を引き裂いた。全てを否定されたような、絶望感が押し寄せる。有栖はみんな居ると説得する。だが、凛は違うと一点張りだった。
その時、凛の涙が零れ落ちた。
「その瞬間、凛は何もやってないと泣いて言えば許してくれるって思ってるんだって。それを利用して、ユキたちを虐めてることを隠してたんだって。そう思えば思うほど色々ムカついてきて、それで……」
「近くの並木通りに置いていったってことですか?」
「!! どうしてそれを?」
意外な事を言う納に、有栖は動揺する。
まさか、見られていたのか。お兄さんはそれを知っていて私に近づいたのか。有栖はブルブルと震える。
しかし、納は怒るわけでもなく平然としていた。寧ろこれでやっと通じたと、安心していた。
「実はその凛さんを、現在我々の施設で預かっているんですよ」
「えっ…?!」
納は凛と出会ったことの出来事を有栖に伝える。
「私は凛さんの監視係を務めています」
「監視係……」
「はい。一時的ですけれどね。会話をする時よく、ママって言うんですよ」
そのママの正体が有栖であると分かった時、納は安堵した。有栖は期待の視線を彼に送るも、ピタリと固まり、突然絶望したような顔に変わった。
「でも私、凛に許されない事をしたんだって気付いたのはその後だったの」
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