Ein Jurist ein bösen Christ
2-1
夜の、それも遅い時間の電話は心臓に悪い。誰かが終油の秘蹟を必要としているのではないかと思うからだ。
「はい、聖ステファン教会のマクファーソンです」
『クリスか?』
聞こえてきたのはなつかしい声だった。
「はい、猊下」
『声を聞くのも久しぶりだな。元気にしているか?』
「ええ、おかげさまで。猊下は?」
『主はまだこの私に、地上で苦労せよと言っておられるよ。私が一体いくつになったと思う? もう七十五だよ』
「お声だけ聞くととてもそんなふうには思えませんが」
ヴィンツェンツォ・フランチェスキーニ司教の説教の声は、マイクがなくても信徒席の末端まで届くのだ。
『お世辞は
……ああ、そうだ、ふたりは年の離れた友人だった。外見も性格も対照的で……両方知っている私はよく師父のものまねに笑わされたものだ。
『トトは、神のお導きによって自分の道を見つけた学生も、模索している最中の者も、彼らと一緒にいるのはとても楽しいと話していたよ。それが自分の天職だと。そう思えるのは幸せだ、この地上においても。彼こそはまさしく善き羊飼いだった……』
「そうですね」
たとえ一八〇〇マイル、あるいはそれ以上離れていても、共通の思い出の中に存在する人のことを話すのは心があたたかくなる。
闇の中の光。ほかの人からみたときに、それがどんなにささいなことであっても。
『若いうちは……いや、年をとっても、誰しも悩むものだ。かくいう私でさえ』
たしかに、以前の彼ならこんな前置きはせずに単刀直入に用件を切り出していただろう。時差があるのを忘れているんだな。
「それで今日はなんのお話ですか?」私は尋ねてみた。
『ああ、そうだった……お前に頼みたい人物がいるんだ』
「誰です?」また
「どんなご用向きでしょう?」
『助祭をひとり預かってもらいたいのだ』
「ちょっと待ってください」私はあわてて言った。「猊下のいらっしゃるボストン司教区とここはかなり離れていますよ。なぜお膝元で指導されないのですか?」
『言っただろう、私は年をとったんだ。後進の指導にあたろうにも、
数年前に私が教区を飛び出したとき、フランチェスキーニ司教はまだ
「でしたら……教区のほかの教会では?」
『私はお前に頼みたいんだよ、クリス』
「なぜ私なんです?」
『お前でいけない理由でもあるのかね』
もともとあまり気が長いほうではない司教の口調がきびしくなってきた。
『お前の特性をみて祓魔師に任命したのは私だぞ。お前が嫌がっても取り消さんと言ったはずだ。結果的に助かっただろう、違うか? それなのに、その私の頼みを断るのか?』
「いけない理由なんて……ええとその、今この教会にいるのは私ひとりだけではないんです」
『もう助祭がいるのか?』
「いえ、助祭ではないのですが……」
すでに人狼の子を預かっていて、吸血鬼が不定期に訪ねてくるだなんて、この時点で相談することなどできやしない。
『お前が訪ねていくから面倒をみてやってほしいと伝えたとき、トトは今のお前のようにくどくど言ったりはしなかったぞ』
「……」
レオーニ神父ならそうだろう。
『終身助祭じゃないんだ。客用寝室の用意くらいはあるんだろう?』
「……ええ、ありますが……」
最悪、どちらかの部屋を明け渡して、私とディーンが一緒の部屋で寝ればいいかと考え始めていた。ブラウン氏の一件もあるから、注意しないとならないだろうが……。
『……息子よ』
フランチェスキーニ司教の声はこれまで耳にしたことがないほど穏やかだったが、同時に弱々しかった。
『私は疲れた。おそらく長くはない。主の恵みがいつもお前の上にあるように。……引き受けてくれるな?』
……誰がNOと言えるだろう。
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