社長令嬢とダンゴムシ男
うなぎの
第1話
また。セミが鳴いているわ。
・・・ちょう!
・・ゃちょう!
「社長?!」
「・・・」
なによ、うるさいわね。
「えぇ、分かっているわ。その案件については先方と会長の承認を得ています。現場の状況を一番鮮度のいい情報として引き続き適に対応するよう野村君には伝えといて」
「わかりました。その、社長?どこか具合でも?」
若手の一人である酒井は心配そうに眉をしかめる。なによちょっと顔がいいからって一々煩いわね。あなたの悪い噂なんて、こっちは飽きるほど聞かされてるのよ?この恥知らず。高学歴って自分より身分が低いと見た相手には偉そうにふるまうくせに、自分以上の立場の相手に対しては意地汚くゴマすりだから嫌いだわ。でも、低学歴の馬鹿はそもそも使い物にならないし・・・。
つらいわ・・・。
「いいえ、体調はすこぶる良好です。酒井君」
「そうでしたか・・・社長には元気でいてもらわないと・・・あ。その、失礼しました社長」
その手のおべっかは聞き飽きたわよ。うんざりするわ。
「ああ!あの社長!」
「そうだ酒井君」
・・・うるさい奴は封印封印っと。
「はい!」
「あなたニーチェを読んだことは?」
「はぁ、学生の時に何度か」
「では、村上春樹は?」
「先週出た新作をちょうど今朝読み終えたところです」
私は、エレベーターに乗り込んで鏡に映る自分の姿を確かめ、それからすぐに後ろからついてくる酒井の姿を見た。シュッとしていていかにも今風の若者だった。
彼は、そのほか大勢と同じく会社にとってこの上ない財産であり、労働力であり、顔であり、牛であり馬であり肉で魚なのだ。
酒井は、扉が開く随分前から私の眼鏡のレンズを見ていたようだ。彼は扉の先には鏡があって、この場所が盗み見ることに適さない事をあらかじめ知っていたのだ。
鏡越しに見える育ちのよさそうな顔に、懐疑的なものが滲む。それから西日も。
ええと、確かニーチェに村上春樹。
「・・・そう」
「社長?それが何か?」
「いいえ、去年のニーチェ展、村上春樹展、どちらも7年連続で増収したの、アンケート調査によると、主な客層は27歳から35歳までの社会人男性だというの」
私はどこかで聞きかじった知識を披露した。私にとってそれは伊邪那岐が雷公に投げつけた桃のようなもので。幸か不幸か、この時もそれは本人が思いもよらない成果を上げてしまう。酒井が血圧と脳のクロックを一段上げて姿勢を正す。
「ああ、それで、そういえば僕の兄や友人も2年連続で来展したと小耳にはさみました。なんでも、現実世界を鋭く描写した中に、細胞を輪切りにしたような幻想的なリアルが詰まっていた。と言っていました。今更ですが僕。なんとなくわかるような気がします。おそらく、世間一般的な同世代の人たちも似たような共感を得たのではないでしょうか?そう考える理由としましては、僕ら世代を取り巻いてきたメディアの影響が大きな一つの要因ではないのかなと思います。僕たち世代の成長過程は、ちょうど特撮映画からアニメーションへと視覚文化が大きく転化したタイミングでもありました。テレビの向こうで繰り広げられる超リアルとファンタジーの鬩ぎあい。ある種のノスタルジーともいえる感情が彼らを引き付ける要因かもしれません」
「ふむ。なるほどね。さすがの分析ね酒井君」
は?ノス、なんですって?
「恐縮です。でも少しだけ象徴的過ぎました。次の機会からはもっと解像度を上げてより明瞭に個人的見解を言語化するよう努めます」
「いいのよ酒井君あなたはそれで。そういえばあなた、明日休暇ね?」
「はい」
「引継ぎはいつものようにぬかりなく、正確に」
「はい社長」
酒井が一歩引いて姿勢を整える。
だんだんと扉と扉との隙間が狭まり酒井が最後に見ようとしたのはスマホの画面だった。
どうせ、人事部に新しく編入された土屋にでもちょっかいだすつもりなんだわ。それしか考えられないもの。酒井がちょっかい出したと噂される子達は今のところ経理部の村主さんを除いて全員よ?信じられるかしら?10割よ10割。伝説のバッターかっての、生殖本能の奴隷で、飢えた狼が人のお面をかぶってるんじゃないかしら?
けれど、そのうち誰一人として退職したり表ざたになるようなトラブルに発展してないあたり。どちらもさすがと言わざるをえないわね。酒井だけじゃないわ。最近の若い子はみんなそう、仕事も異性との関係もどちらも徹底的にトラブルを避ける傾向にある。まぁ、それを継続するだけで給料がもらえて性欲も満たせて幸せなんだから気楽よね。
上半期の株主総会に備えて私は資料を整理しなくてはならない、幸い、父の会社から分裂する形で引き継いだわが社の業績は好調で2か月後には都会の地熱発電事業とのパートナー契約も控えている。携帯電話用の小型モーターばかり作っていては業界での需要は必ず国外との価格競争に競り負ける。金も学もない彼らではあるが決して侮ってはいけない。不幸なことにもこの惑星はつなぎ目のない球であり、技術とは大気のように流動的で、地を這うようにゆっくりと流れるそれを止めることは誰にもできないのである。さながら砂漠のオアシスを掘り当てるように次から次へと新たな需要を開拓し続け、絶え間なく人と物と技術を回転させながら、得られる利益を社員や株主に還元する。
このように経営とはピンボールのように退屈な単純作業であり所詮はその繰り返しなのだ。
ピンポーン。
簡単、簡単、とても簡単。
「あ・・・社長。お疲れ様です」
エレベーターの扉が開くとそこには例の経理部の村主の姿があった。
「あら、村主さんどうしたの?今日もかわいいわね」
「あっありがとうございます社長!」
「乗るの?」
「はっ!はい!」
かわいいわ村主さん。私が心から信用しているのはあなただけ。本当よ?
「あ・・・あの社長」
「なにかしら?」
「その、実は私・・・」
ピンポーン。
「ぁぁ!それでさ!その娘たちがつぶれて寝てる間に・・・」
「おまえなぁ・・・学生じゃないんだぞ?・・・・ッ!!しゃ社長!!お!おお疲れ様です!」
「あッ!お疲れ様です社長!」
今更遅いわよ。馬鹿ね。増長した馬鹿なオスの態度のおかげで村主さんが黙っちゃったじゃない、きっといつもそうやって学生サークル気分のままヘラヘラして、私の見ていないところで悪態をついているんだわ。
外面ばかりよくしても無駄よ。頭のネジも股も緩い子猫ちゃんたちはその程度の策略で欺けるかもしれないけれど私は違うんだから。私に隙なんてどこにもないわ。
「お疲れ様。悪いのだけれど次の機会にしてもらっていいかしら?」
「はい!」
「もちろんです社長」
「失礼いたしました」
「悪いわね二人とも。どうもありがとう」
私は階層ボタンのいくつかを長押しして快速モードを起動させる。これで外部からの操作でこのエレベーターが止められることはもうない。ちなみに、余談ではあるが
このような機能を搭載した機種は割と多い。
5階を押し、上り始めると同時に次は1階を押した。これでしばらくの間はだれにも邪魔されることはない。
「それで?村主さん?今日はなにかしら」
ずっと黙っていた村主さんは狭い空間の角に張り付くようになっていたけど、さすがというか、寄りかかるような真似はしていない。
「その・・・どうしても社長に一番初めに聞いてほしくって・・・!」
うふふかわいいわ。村主さん。あなたは気づいてないでしょうけどあなたは私の癒しなのよ?存分に誇りなさい。
「村主さん。いつも言っているでしょ?報告は常に相手に合わせた言葉で正確に端的に。と」
「はっ!はい!ごごごごめんなさい社長!私いつもこんなで・・・お父ちゃんからもなんでお前みたいなやつがあんなにいい会社に入れたんだって。たまに言われて。社長のおかげなんです全部!面接のときも私が緊張しないようにわざわざ機械みたいに話してくださって。ああ!その悪い意味じゃないんです!」
あら、この子気が付いてたのね。意外と鋭いところあるじゃない。
村主さんに対人恐怖症の気があるのは面接室の扉を開ける前からうすうす感づいていたもの。その人に合った部署をあてがうのと同じく。
面接のときもそれぞれの根っこが見える方法でやらないと、優秀な人材が面接官との相性で性格や能力や性質がわからないまま落とされて、若いくせして上司にこびへつらうような嘘つきばかりに埋め尽くされた職場なんて考えただけで気持ち悪いもの。
「エレベーター止めたほうがいいかしら?」
私がちょっと意地悪を言うと、村主さんは泣きそうになった。この顔を知っているのはきっと私だけね。だって村主さんはどちらかというと直接手を出されるよりも無視されるタイプのいじめられっ子だもの。
わかる人にはわかるのよこの子がとってもかわいいって。半端な小娘なら一目見るだけで戦意喪失するくらいにね。
「だだだだだだだいじょぶですぅ!はぁ・・・はぁ・・・」
「なら、いつものようにやりなさい」
何かしら?いつも以上ね、余程重要なこと?まさか、ふふ、告白なんて平社員時代以来だわ。
「はいっ!すぅーすぅーその、私」
気が付いたら村主さん汗だくになってるし、そんなに熱くないでしょ?まったく早くいってよね?こっちは笑いをこらえるので必死よ。眼鏡も曇ってるし。鼻の穴も広がりすぎ。
耳真っ赤、手だってそんなに強く握ったらあとで痛くなるわよ?お箸持てなくなっても知らないんだから。
「結婚することになりましたッ!!!」
・・・・。
ふむ。結婚?結婚、結婚。ええとええとこんな時なんていえばいいんだっけ?
「そう。おめでとう村主さん。すると、私はその報告を初めて聞いた人間ということになるのかしら?」
「はい・・・!」
結婚ねえ。
・・・はぁまったくあなたにはがっかりよ村主。せっかく分不相応な仕事と報酬を与えてやったというのに。それを自ら失うかもしれない選択を取るなんてね。
人によっては仕事と家庭の両立ぅなんて戯言を言う時もあるけど、それはあくまで両立。それじゃ困るのよ、ただ立ってるだけじゃ。潰れてないだけのその辺の汚い飲食店と同じ何の価値も無いの。それだったらいっそのことやめてもらったほうが助かるわ。まぁ、この時代に専業主婦が許されるような高給取りの旦那がいればの話だけど。
「お相手はどんな人なのかしら?よかったら聞かせてくれる?」
「はい!その・・・相手は総務部の・・・酒井さん・・・なんです・・・」
なんですって?
「酒井君?」
「はい・・・」
ふむ、つまり、酒井が最近やたらと仕事熱心なのはそういう理由があったという事?彼に関する悪いうわさや、やんわりと村主が孤立していたのは皆の
結婚。結婚か。
「そう、おめでとう村主さん。式には是非呼んでよね?」
「はっ!はい!もちろんです社長!」
村主はそう言って、生まれたてのヒヨコみたいにうるんだ瞳で私を見上げた。
村主は寿退社するつもりらしい、二人の結婚と村主の退社が公になったら、すぐに酒井の所属部署を移動する準備に取り掛からなければならない。これは決して嫌がらせなどではない。正常に機能していた会社という組織の動きを理由はどうであれ、二人は乱してしまう事になるだろう。であるなら当然二人は何かしらの罰を受けなければならない。それが組織に対するけじめというものだ。一見すると古くからの悪しき風習のように感じるかも知れないが、こういった通例は当事者のステップアップも兼ねているという事実も決して切り離せない。ほかの者と同じ仕事をして、ほかの者よりも多く報酬を得ることが集団で許されるわけがあろうものか。家庭を持つことになる彼等にはより多くのバリューが必要になる。より多くを与える口実のために、彼等には適切なハードルを乗り越えてもらわなければならないのだ。難しいのはその匙加減。同時に、村主の代わりも探さなければならない。代わり。代わりか・・・居ないわね。彼女はどこにでもあるような石ころじゃないものあの子だけじゃないわみんながそう・・・。はぁ。
辛いわ。
・・・・もむもむ・・・。
「失礼しまーす!」
しゃー!(ふすまを開ける音)
「・・・」
なによ!返事もしてないのに勝手に開けないでよね?これだから安いお店って嫌だわ。せっかく美味しいお芋のてんぷらを味わっていたところなのに!
「はい。こちらタコの酢の物と。焼き鳥の塩・・・です」
・・・もむもむ。
「・・・」
「・・・」
なによこの店員、人の顔をじろじろと見て気色悪い。ていうか糸屑みたいな目して本当に見えてるのかしら?腕も足も首もダンゴムシみたいに太くて短いじゃない。身長と収入が比例するってどこかの機関が論文出してたけど、信じたくなくてもこう言う奴のせいで嫌でも信じなくちゃいけないような気になっちゃうじゃないのよ。
はぁーあ。こういう奴がいるから安い店って嫌なのよ。・・・なんだか今日はどうしても一人になりたくって、会社の関係者が滅多に立ち寄らないこのお店を選んだのが裏目に出たわ・・・がっかりよ。このダンゴムシ。
・・・ごくん。
「あの・・・まだなにか?」
私がそう言うと、ダンゴムシはビクッとする。丸まりなさいよいちいち腹が立つわね。
「あぁいえ。ただ。その」
「ええ」
大の男がもじもじするんじゃないわよ!その丈の短すぎるデニムだっていったいどこで売ってるのよ見た事もないわ小物入れかよ!ていうか、ピタッと動きが止まっちゃったじゃないの!馬鹿みたいに!死んだのかしら?ねぇダンゴムシ!死んだの?!ねえ!
私は、安物のビール(今時これしか置いていなかった)を一口飲んで、日頃のストレスで荒んだ心を落ち着かせ口元を拭いた。
「途中で止められてしまってはかえって気になってしまいます。私のお願いだと思ってどうかおっしゃってください」
「はぁ。では」
ダンゴムシの口元がごにょごにょと動く。
「はい」
「可愛いなって」
ふむ。
するとつまり、ダンゴムシの分際で私を称賛するというのね?
「私が?・・・そう、どうもありがとう」
「・・・・!!いっいえ!すみません!」
ちょこざいなダンゴムシ。人をほめるという事がどういうことか、同郷のトノサマガエルやゲジゲジやワラジムシに教わらなかったようね。哀れだわ。可哀そう。とってもとても可哀そう。
「謝るようなことじゃありませんよ?そんなこと滅多に言われたことありませんから。とても嬉しいです。そうだ」
「え」
あなたに、教えてあげるわ。
人をほめるという事の意味と、あなたがほめた私という人間がいったいどのような存在なのかを。
「今日、お仕事が終わったらすこし付き合って下さらないかしら?」
さぁダンゴムシ。こんな経験あなたの人生に一度でもあって?擬気管ではなく荒立てた鼻息で無様に呼吸なさい。それがあなたにはふさわしいわ。私は勝利を確信して、鞄から財布を取り出した。すると。
「ああ。すみません。今日はこの後予定があるんです・・・明日じゃダメですか?」
『おい!!いつまで油売ってんだ!チンタラすんな!』
「あっ店長!!すみません!いっ今行きます!」
・・・たたたたた。
は?
予定?予定ですって?あなたにそんなのあるわけないじゃないの。どうせかえって落ち葉だか段ボールだかわからない布団の下に潜り込んで眠るだけのくせに!それに明日じゃダメですかですって?ダメに決まってるじゃない!私がどれだけ忙しい身だと思ってるのよ!すぐにばれるような嘘をつくなんて頭が悪い証拠だわ。あ、そうだそうだダンゴムシだものね?仕方ないわ。
だってあいつはダンゴムシだもの。
「・・・あ・・・あのぉ・・・」
あら、かわいい子猫ちゃん。どうしたのかしら?
「・・・」
「あのぉ。調理場のスタッフに何か御用でしょうか?」
「あなた。アルバイト?」
「え?はい」
「私は労働環境を査察するために本部から送られて来た者です。これ、名刺です」
「えっ!しゃ!社長さんっ!!ててててんちょー!」
「しーしーしー!」
そうよ、それでいいのよ?子猫ちゃん。
「はわっはわっ!」
「落ち着いて?普段のあなた達の労働環境がどうしても見て見たかったの。直接ね?私が来ると知っていたら、あなたの上司はきっと緊張していつもと同じように仕事が出来なくなってしまうもの。それではせっかく来ていただいたお客様にお申立てが立たないわ」
「オッお申し立てッ?ろうどうかんきょっ?!ぅぅぅー」
「あら?大丈夫?働きすぎかしら?留意事項にしておかないとね」
「社長さんいい匂いー・・・私に、何かデキマスカ?」
「そうねえ。いつものように働いてもらえればそれだけで満足かしら?出来る?」
「はっはいー!」
・・・ふらふらふらー。
さぁて。ダンゴムシダンゴムシ。
『おい!!4番テーブル片付けたら天ぷら5人前!海老の塩焼き!!酢の物!角煮!エビフライタルタルソース抜き!サバの味噌煮!チキンサラダドレッシング抜き!!たらこパスタ!生ビール7個!酒熱燗!とっととやれ!』
『はい!店長!』
ふふふ、いい気味ね。幼少期の努力を怠った付けをせいぜいその身で清算しなさい。
『おい!冷酒グラスでツー!小鉢の皿たんねぇーぞ!ごはん火つけとけよ!つかえねぇな!天ぷらまだか!エビフライタルタルソース付け忘れてるじゃねぇか!!わすれんなって何回言えばわかるんだ?バカなんじゃねぇの?9番テーブルお前出して来い!』
『はい!店長!』
「・・・」
『オーダー!ソーセージ盛り3!FP4!唐揚げ2!海老グラタン野菜ドリア!ばい貝!!マルゲピザ!軟骨フライ!砂肝・レバー!海老の塩焼き2!おいお前まだできねえのかおっせーな!客帰っちゃったよ。お前もうやめろ!役に立たねぇ使えねぇ!いらないよお前!邪魔』
『すっすみません店長!』
「・・・ダンゴムシ」
「あ・・・あのぉ」
「ひゃ!!あ!ああ!あなたね?どうかした?おかげでこちらは順調よ?」
「はい!社長さん大変だと思ってこれをおもちしました!あんパンと!牛乳です!」
「あら、気が利くわねどうもありがとう」
「はい!私はもう上がりなので。お疲れさまでした社長さん!」
「はい、お疲れ様」
そう。もうそんな時間なのね。
「あっそうだ湯浅さん」
「はい!」
「その、彼なんだけど」
私はさり気なく、動き回るダンゴムシの姿を背後で捉えた。
「あんなに忙しそうに働いた後に用事があるって聞いたの。さすがに無茶じゃないかしら?もしかして掛け持ちで働いてるとか?もし金銭的に困っていたりとか家庭環境に問題を抱えて困っているようだったらこちらとしても何らかの対策を取らなくてはならないと思うのだけれど。もちろんお節介かもしれないんだけど・・・あなた何か知ってる?」
「ああー!多分今日もユメカちゃんって人に会う予定なんだと思いますよ!なんでもこの辺の男の人たちはみーんなその人に夢中みたいですよぉ?よっぽどかわいい人なのかなぁ?」
ユメカちゃん?女?まさかとは思ったけど。
「あの・・・社長さん?」
「あ!ああ!そうなの?なら大丈夫そうね。余計な心配をしてしまったわね。教えてくれてありがとう」
「いいえ!ではお疲れさまです社長さんっ!」
「はいお疲れ様でした。気を付けておかえりになって下さいね」
「はーい」
ユメカ。ユメカねぇ。私の心に好奇心がじわじわと広がる感じがした。思わず、調理場の中をそっと見る。するとやはり。
『!!!』
『・・!』
「・・・」
繁盛してるわね。
『!!!』
『・・!』
「・・・」
忙しそうね。
『!!!』
『・・!』
「・・・」
まだかしら?
『!!!』
『・・!』
「・・・」
・・・くかー・・・くかー。
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