第13話

モルダンさんの部屋で待つこと十数分、ユウさんとルクさんはまた軽く口喧嘩しながら部屋に入ってきた。

モルダンさんの咳払いひとつで口を閉じる2人。いつもこんな感じなのか。仲良しか。


注意事項としては、私が異世界人であること、会話は大丈夫だが文字が読めないことなどを含めた就業規則の再度の確認といった感じだった。


確認が終わると、ユウさんとルクさんについて行き部屋を移動する。私が部屋を出る時モルダンさんが後で開けなさいと封筒をくれた、なんだこれ。


経理の仕事部屋は一階の裏の端に位置する部屋だった。一階の裏手には大きな裏口があり、アンバー家に納品されるものは必ずここを通ることになっているそうだ。納品された品物を運ぶのは専門のベルボーイがいるが、納品書はこの2人が回収し、出納帳に記入。また飛び込みで品物を売りにくる商人がいるそうだが、金額とおおよその価値があっているかどうか目利きもするらしい。基本的にはアンバー家主人がするのだが、他国からやってきた商人が詐欺を働いたことがあったらしく大量に品物を購入する時には細かなところまでチェックするのはこの2人だそうだ。

日々の食糧から生活用品、調度品、貿易をしているが故に飛び込みの商人の相手まで、今までこの2人で回していたのだが、最近アンバー家の商売が大きくなってきて手が回らないのだそうだ。

出納帳は基本的に記入して間違いがあってはならないのだが、そこは人の手(猫の手?)である、忙しくなるにつれ間違いが出てきたので計算専門の私が雇われた、と。

手が空いたら違う仕事ってのはメイドじゃなくて商人の相手か、一応客人の相手だし、アンバー家のご主人様のところに案内したりするもんな。


一通りの流れと使用する備品の場所の説明がされ、2人よりは小さかったが机と椅子も与えられた。


早速出納帳と納品書が渡される。

「これが出納帳ね、分類ごとに一冊しかないから大事に扱うこと。あなたにして欲しいのは、この出納帳と納品書の金額が合っているかって確認。これがキッチンで使うものの出納帳、主に食料品ね。ここが昨日のページ、そしてこれが昨日の納品書ね。上から順に金額が書き込まれてるから計算があってるか検算して欲しいの」


ルクさんが本数冊と紐で綴じられた紙の束を見せてくれた。

出納帳を見ると上の行から50品目ほど名前と2桁〜4桁の金額が書かれている。名前は全然読めないが野菜果物あたりの名前なんだろうか。


一枚白い紙とペンをもらい、上から順に足して、数字を5つ足しては白い紙にメモして検算していった。電卓がないとこんなに大変なのか…

最後まで足してピッタリ数字があった。

「終わりました、これは合っていると思います」

「わー、さすが、早いし、慎重だし良いね。こっちは桁が大きいからこれもやってみて」


数枚ルクさんと一緒に検算してみる。


「うん、良いんじゃないかな。何かわからないことがあったらその都度声をかけてね。」

「はい、ありがとうございます」


私の仕事は基本的に前日までの出納帳の検算で、頭が回らなくなってきたらキッチンで飲み物を飲むなり休憩して良いとのことだった。仕事がもしも追いついたら仕事中に文字の勉強をしても良いとも。

こちらの世界の仕事はだいぶホワイトなようだ。


モルダンさんに貰った封筒を開けてみたら、数冊の薄い小さな絵本だった。1ページに大きく野菜や動物、身の回りのものがカラフルに描かれ、横に文字が書いている。

文字が読めない私のために用意してくれたと思うと胸が熱くなる思いだった。


異世界に来たけど、優しい人が上司なのでなんとかやっていけそうだ。

時空のおじさんも探さなきゃならないけど、とりあえずは日々のご飯もないと生きていけないし、頑張ろう。

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