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あんだめる、又は中力粉

第1話 鈴木めいの場合

「異世界に飛ばされたけど質問ある?」


私は今、汗でベタベタの手で「気づいたら 異世界」で検索し、まとめサイトを貪るように読んでいた。

充電は86%、明るいというのに頭上には月が2つ浮かび、龍と思われる生き物が飛び交っている。太陽に照らされ樹々の葉の隙間からキラキラした光が降り注いでいた。木は沢山あるので山だと思われるが鬱蒼とはしていない、風は無風に近いが湿度はなくこれが見知った現代風景ならこれでもかとリフレッシュしていたであろう。

だけれども、会社の社食で昼定食Bを食べ終わった後、自分のデスクに戻り目をつぶって微睡んでいた。いたはずなのに、気がつけば後ろには立派な木、眼前に広がるは牧歌的風景。


あ、夢…?


手をじっと見る、一昨日の夜に塗った薄いピンクのマニキュアが光る。この手は私本人だよねぇ、次に手でペタペタと顔に触ってみる。夢にしてはリアルな感覚、お昼ご飯を食べてから塗り直したリップが綺麗に手のひらについた。次に体に触ってみた。痛いところは、ない。左腕にお気に入りの腕時計、羽織っているジャケット、左ポッケにリップとのど飴、右ポケットにスマホ、ジャケットの胸ポケットに細身のボールペン、一昨日買った淡いストライプのシャツ、首から下げた社員証に自動販売機で使えるICカード、黒のスラックスのポケットに薄手のハンカチ、足下は黒のスニーカーパンプス。

次に頭上を見ると、太陽が真上だ、正午なのは間違いない、天気の良い青い空、雲がない快晴、薄く見える月が、ふたつ、ある…。それで、あれは、大きい鳥?鳥にしてはすごいスリムだ、翼らしきものも見えない。なんていうか、龍に似てる感じの…龍?ファンタジーによく出てくる、あの、龍?

流れるようにスマホを手に取るとなぜ電波があるのか、なぜインターネットが繋がるのかはわからないが、少しでも情報収集しようと現代っ子よろしくすぐにGoogle先生に聞いてしまった。検索窓に単語を打ち虫眼鏡マークを押してから、ハッとした。なんで検索できてるんだ?少しずつ進むシークバーを見て今更なことを思った。電波が悪い、で済むのか?こんな一本も電信柱も見えない山の中で?不思議だがスマホは使えるのでGoogle先生に疑問をぶつけていく。


「龍 実在」

「月 二つに見える現象」

「起きたら 見知らぬ土地」

「ここから一番近いコンビニ」

「現在 場所」

「見知らぬ土地 ここから一番近い駅」

「世界 未到達」

「ワープ 異世界」

「異世界 どうやって もどる」

「気づいたら 異世界」

地図は出てこず、一番近いコンビニは聞いたらエラーが出た。

物は試しだと「異世界」というワードを検索してみたら結構な数の体験談が出てきた。



まとめによると、

「気がついたら荒廃した世界に飛ばされてて、やたら蒸し暑く友人と逃げててミサイルが空から降ってきたりしたけど、黒づくめのおじさんと目があって気がついたら2日経った自室のベッドだった」

「マンションの中庭の隙間を覗いたら未来に行ってて空が変に赤黒く、誰もいない世界を散歩してたら黒い服のおじさんになんでここにいる?って言われて気がついたら元の中庭だった」

「自分の家の鍵を回した瞬間周りの景色が歪んで自分の家だけど強い違和感を感じた、周りを見回したらおじさんがいて何か話しかけられてまた周りの景色が歪む感覚がして元に戻っていた」


つまり、おじさんと会ったら元に戻れる…?

ここは蒸し暑くないし空が赤くもないし歪んだ感じもしない…寝てる間に歪んだのか?

周りを見回しても、不思議だけど不気味ではない。天気もいいし、気持ち悪い感覚もない。

少し歩いてみようか?私以外に誰かこちらの世界に来てたりしないのだろうか。もしかしたら元の世界に戻してくれるおじさんにも会えるかもしれない。


私はこの世界で最初の一歩を踏み出したのだ。

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