一年二組

「おはよう、優衣ちゃん」

朝の教室。いつも話しかけてくれる隣の女子を、飛野優衣はいつも優しくていい子だと思っていた。軽く笑いながら、優衣も挨拶を返す。

「おはよう、美結雨ちゃん」

美結雨と呼ばれた女子は、にこりと笑うと読んでいた本に再び顔を戻してしまった。優衣は、今年から高校一年生となった。ようやく六月。今日は、席替えがあると聞かされていた。今までの番号順だった席から離れてしまうのは、少し寂しいとも思うが、友達が増えたらいいとも思っていた。しかし、もちろん不安もある。

(こんな見た目だし…)

自分の見た目に自信を持てない優衣は、ちらりと美結雨を盗み見る。彼女は、別に可愛いわけでもない。体型も少しふっくらしていて、でも太ってはいない程度。髪もサラサラなわけではなく、少しの乱れがいつもある。鼻の近くにはそばかすのようなものがあって、目元には涙ぼくろがある。特別印象の残る見た目ではない。どちらかと言えばサラリと忘れられてしまいそうな見た目だ。失礼だけど。だけど、と優衣は思う。

一人淡々と本を読む彼女の気質と、はっきりとした目の二重はよく似合っていた。黒い髪ゴムで一つに結んで、黒いヘアピンで前髪を止めた髪型は、彼女の真面目さを表していた。そして何より、彼女は優しかった。

(美結雨ちゃんは、本当に“らしい”見た目だよねぇ)

そんな美結雨が少し、優衣は羨ましいのだ。


(………な、なんでそうなるかな…)

席替えのくじ引きが終わり、黒板に名前が書かれる。優衣が引き当てたのは狙っていた窓側だったが隣は…。

「よろしくなっ」

「はっ、はい!あの!えーっと、小野川優衣と言います?」

「なんで疑問系」

おもしろそうに笑いながらそれくらい知ってるとやっぱり笑っているのは、優衣が一目惚れしてしまった男子だった。

「あー、俺のことは知ってる?斉藤。斉藤歌之斗」

知っている。と、優衣は笑おうとしたが、うまく出来なかった。


「へー、小野川さん斉藤君のこと好きなんだ」

「………うん」

「まあ、たしかにカッコいいし典型的な“モテる”ってかんじだよねー」

「うん?うん。でも、こんな私が烏滸がましいかなあ」

「そう?小野川さん、上手くすれば可愛くなれそうだけどね」

「はぁ…へっ?」

優衣は思わず話し相手を見返した。白い肌が綺麗な三つ編みの女子は、もう片方隣の席の子だった。

「あの、宮野さん?」

ポカンとした優衣に、宮野はさらに言った。

「え、気づいてない?まじかー」

唖然とした優衣に、宮野は放課後おいでと言った。


うだうだと悩んだ挙句、優衣は放課後、隣の席の宮野に言った。

ーお願いしますっ、と。


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