六年一組


ほんっとうにイライラする。

「だから何度も言ってるじゃん!その決め方じゃ無理だよ!」

秋葉乃彩は、半ば怒鳴るようにしてそう言った。彼女の大きく荒れた声が、教室に響く。

(せっかくの楽しい話し合いなのに)

その思いが若干の押し付けなことに、乃彩は気づいていなかった。六年生は今、図工室で修学旅行の部屋割りを決めていた。

「乃彩ちゃん言い過ぎ!」

「はぁ⁉︎」

責められた奈緒の隣にいた女子が、乃彩に反論する。

(なんで私が責められるわけ)

「私はより楽しむために…!」

「もうやめてよ!」

乃彩が言いかけた言葉を遮ったのは、ずっと黙っていた奈緒だった。

「いいよ…。どうせ乃彩は、私と同じになりたくないんでしょ…」

「はぁ?なんでそうな…」

「だって!乃彩、さっきから怒鳴ってばっかり…」

「あ、奈緒…大丈夫?泣かないで?」

自信を無くしたように、奈緒はポロポロと泣き出してしまった。

「ちょっ!」

乃彩も慌てる。そこで、パンっと手を叩く音がした。

「はいはい。取り敢えず他の決まってる人書いてー」

表は埋まり、残りは数チームだ。

「あれー?美結雨みゆうちゃん達は?」

「あ、少し待って」

乃彩と奈緒、そして奈緒の隣にいた海夏は、まだ言い争っていた。


乃彩は、よく言い争いをした。時には囃し立てる男子を巻き込んで。時には、学級会にもなって。そんな日常の最後の一年。衝撃が走ったのは、三学期の始まりだった。


「えー、皆さん。藤本奈緒さんからお話があります」

みんなが座る中、一人先生の隣に立つ奈緒の姿に、教室にはざわめきと緊張が走る。

「この冬休みに決まったことなのですが」

真剣に話す奈緒を、懲りずに言い合いをしたばかりの乃彩は投げやりな気持ちで見ていた。

(相変わらずなんなのあいつ)

「私は、信田しのだ中には行きません。引っ越し先にある、中学校に通います」

血の気が引いた、とはあのことだろう。乃彩は、手でいじっていたペンを落としてしまった。そして次の瞬間、乃彩は立ち上がって駆け寄り、いつもの怒鳴るような口調で言った。

「なんで!」と。それはどこか泣きそうでもあった。ごめんね、と奈緒は言う。

「そこ、バスケも強いし。引っ越しは、仕方ないから」

尚も言い募る乃彩を、海夏が叱るように止めようとする。しかし、それは出来なかった。奈緒が泣いていたのだ。


乃彩と奈緒は、小さい頃からの仲良しで。なんで自分達あんな喧嘩したんだろうと、今でも話す。これが、6-1の物語。

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