第42話 (15)再戦2
久しぶりに向かい合う神崎は、相変わらず涼しい顔をしていた。
これから試合をやるというのに、口もとには親しみをこめたような笑みを浮かべてやがる。
やっぱりいけ好かない野郎だ。
おれは睨みつけるような目で神崎を見ると、蹲踞の姿勢を取り審判の始めの声を待った。
「はじめっ」
構えはお互いに正眼だった。
嫌でも神崎の竹刀の先から出ている気を感じてしまう。
ただ、向かい合っただけなのにグイグイと押し込まれるような感じだ。おれはその気を受け止めながら押されないように歯を食いしばった。
先に仕掛けたのは、おれだった。
体を沈みこませるようにして踏み込み、胴打ちを狙う。
その胴打ちに合わせるように、神崎が面打ちを狙ってくる。
おれの方が速い。
竹刀が神崎の胴に当たると思った瞬間、おれの竹刀は空を切っていた。神崎が後ろに飛んだのだ。
引き打ちの面が来るのが見えた。
だが、竹刀を戻すには遅すぎた。
体を捻るようにして、おれは神崎の面打ちを避けた。
肩口に竹刀がぶつかる。
そのまま、おれはさらに前へ出た。
竹刀を引いた神崎と鍔迫り合いになる。
斉藤ほどの力はないが、体幹がしっかりしているため神崎は容易に崩すことはできない。
神崎の顔が近くで見える。
やはり涼しい顔。切れ長の目には力がある。
膠着状態になる。
お互いに、押す一瞬を狙って引き打ちを仕掛けようと狙っているためだ。
おれは鼻から大きく息を吸い込んだ。
そして、一気に神崎の竹刀を押し込む。
神崎に引き打ちをさせる隙は一切与えない。
予想以上のパワーだったのか、それとも来ることを読みきれていなかったのか、神崎の体が崩れ掛けた。
辛うじて、おれの押しを支えているような状態だ。
チャンスと見て、さらにおれは押し込む。
だが、罠だった。
引き小手打ち。
おれは咄嗟に体を引いて、その小手打ちを竹刀で弾いた。
やっぱり、神崎という男は侮れない。
間合いを外すと、神崎は構えを中段から上段へと変えてきた。
背筋が粟立った。
物凄い威圧感。
おれはその威圧感に押しつぶされそうになるのを耐えるのがやっとだった。
もしこれが剣道の試合ではなく、侍のやるような真剣での斬り合いだったら、おれは神崎に背中を見せて逃げていただろう。
そのぐらいの威圧感が神崎の上段構えにはあった。
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