第4話 御園診療所 【4】

翌日、深夜。

とあるマンションの前にはワゴン車が停まっていた。


「おい、さっさと乗れっ!!」


車の側にはスーツを着た男が立っている。

マンションの中から、若い男と女性達が小さな荷物を抱えながら出てきた。

次々に女性達がワゴン車に乗り込んでいく。


「これで、全員乗ったな!?」


後部座席のスライドドアを乱暴に閉める。


「おい、新しい場所はわかってるな?」


「はい。」


「じゃあ、行くか。」


スーツの男がワゴン車に近付こうとした時、女性達を乗せた車が急に発進した。


「おいっ!!待てっ!!」


一瞬呆気に取られたが、直ぐに叫んだ。


「おいっ!後を追うぞっ!急げっ!」


「は、はいっ!」


近くに停めていた車に乗るとワゴン車の後を追った。


「くそっ!一体誰がっ?」


男達は焦りを隠せなかった。


「車見当たらないです!」


「いいから探せっ!まだ近くに居るはずだ!」


車を走らせていると数台前にワゴン車が停まっていた。


「あっ!見付けましたよっ!」


「そのまま後をつけろ!絶対に見逃すなよ!?」


「はいっ!」


男達の乗った車はワゴン車を追った。

市街地を走り、段々と人気の無い倉庫街に車は入っていった。


「こんな所に来るなんて好都合だな?」


ワゴン車は廃倉庫の中に入っていく。中に入ると、静かに車は停まった。


「行くぞ!!」


そのままワゴン車の近くに車を停めると後部座席のスライドドアを開ける。


「兄貴っ!女が居ませんっ!!」


「何だとっ?」


車の中には誰も乗っていなかった。


「どういう事だっ?一体どうなってる?」


呆然と空の車内を見つめる。


「彼女達は保護させて貰ったわ。残念ねぇ?」


「誰だっ!?」


暗がりから姿を現したのは葵だった。


「あっ!お前!この前事務所に来た女っ!」


「なにっ?この女が?」


「逮捕監禁罪、強要罪、傷害罪、銃刀法違反、その他諸々・・。刑期は長くなりそうね?」


「何だとっ?」


「あんた達の罪よ。それ以上に彼女達の心は深く傷付いてる。絶対に許せない。」


葵の瞳がギラリと怒りに染まった。


「ふん。たかが女一人に何が出来る?引っ掻き回してくれた責任は取ってもらうぞ?お前も客を取らせてやるよ、今の女達の二倍は取れるなぁ?」


下品な笑みを浮かべながらスーツの男が懐から拳銃を取り出すと葵に銃口を向けた。


「・・・。」


「女達は何処だ?今なら痛い思いしなくて済むぞ?」


「・・・。」


「ハハッ!怖くて言葉も出ないか?だったらユックリ身体に聞いてやるよ?」


ニヤリと笑い近付こうとした瞬間、逆に葵が間合いを詰めてきた。

油断していた為か一瞬反応が遅れ、引き金を引こうとした時には葵に懐に入られていた。

みぞおちに肘打ちされると、拳銃を奪い取られる。


「ふーん。なかなかいい拳銃もの使ってるじゃない?あんた達みたいなクズには勿体ないわね?」


足元に蹲る男に銃口を向けた。


「くっ・・・。お、まえ何者だっ?」


「あんたに名乗る名前なんて持ち合わせてないわ。」


「くそっ!!」


「それで?そっちのあんたはどうするの?」


一瞬の出来事に呆気に取られていた若い男がビクリとする。


「あ・・。ああっ・・。」


その場にへたり込んでしまう。


「それで?林田はどこにいるの?」


視線を戻すとスーツの男に問いただした。


「・・・。」


黙り込む男の足と足の間に発砲する。


「ひっ・・。」


「私は気が短いの。さっさと言ってくれる?」


冷えた瞳に睨まれて背筋がゾクリとした。


「し、知らないっ!」


「この期に及んでまだ嘘をつくの?」


「本当だっ!」


「そう?じゃあ、もうあんた達に用は無いわね?」


額に銃口を突き付けると、なんの躊躇いもなく引き金に力をこめようとした。


「ま、待てっ!!俺は神龍会のもんだぞ?後でどうなっても良いのかっ?」


「・・・。あんた達は破門になってるはず。神龍会には返しをする義理なんて無いはずよね?」


「なんで・・知ってる?」


「・・・。」


「お前が組長おやじに言ったからだろう?俺達がやってることを。」


「は、林田さんっ!!」


倉庫の入口から一人の男が現れた。目付きの悪い体格のいい男だった。


「あんたが林田?自分から来てくれるなんて手間が省けて助かるわ。」


「随分と余裕だな?」


「自首するなら今のうちだけど?」


「ふっ。自首なんてするか!お前を消せば終わりだからなぁ?」


手に持っていた拳銃を葵に向け発砲した。

葵は器用に銃弾を避けると車の陰に身を隠す。


「はぁ。結局こうなるのね・・。」


一人呟くと車の陰から飛び出す、林田が待ち構えていたように葵を狙う。

葵も拳銃を構えると二発発砲した。一発目は林田の撃った弾を弾き、二発目の弾は林田の握っている拳銃を弾き飛ばした。


「ぐわぁっっ・・。」


林田は手を押さえて膝から崩れ落ちた。


「くそっ!どうなってるっ?」


「終わりなのはそっちね?」


「はっ。それは・・どうかな?おいっ!!」


どこからか、若い男達が10人程現れた。手には金属バッドや鉄パイプ等が握られている。


「林田さん。この女ですか?」


「そうだ、手加減の必要はない。好きにやれ!」


「へぇー?」


「残念だったなぁ?俺が一人で来ると思ったか?」


勝ち誇った様に叫ぶ。

葵は少年達を見回して


「ねぇ?あなた達、辞めるなら今のうちよ?林田に何て言われたか知らないけど、後になって後悔しても遅いのよ?」


「うるせぇー!!」

「生意気な女だなぁ!」


金属バッドを持った男が殴りかかってきた。

ヒラリとかわすと金属バッドは空を斬りコンクリートの床を砕いた。

あっという間に葵は少年達に取り囲まれる。

その時、倉庫の外からサイレンの音が聞こえた。

数十人の警察官が倉庫の中になだれ込んでくる。


「全員動くなっ!!」


警察官を見ると少年達は武器を捨て、逃げ出したが次々に確保されていった。

林田は呆然とその光景を見ていた。


「残念ね?私も一人で来たわけじゃないのよ。自分の仕出かした事きっちり塀の中で反省するのね?ああ、そういえば『青龍会本家』もだいぶご立腹みたいよ?塀の中でも安心は出来ないわねぇ?」


「嘘・・だろ?なんで、本家が・・。」


林田の顔色がみるみる悪くなる。


「さぁね?自分のしてた事よーく思い出してみるのね?心当たりが多すぎてわからないかぁ?多分、全部知ってると思うわよ。」


葵の言葉を聞いて林田はガタガタと震えだした。

未だ騒然とする現場を見回しため息をついた。

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