サードバトル VS 用心棒。

 一方、ローンはまだキャッシュを抱えたまま疾走していた。キャッシュの足に絡み付いた水球は術者が気を失ったおかげで消え失せていた。


「そろそろ下ろしてくれないかな」

「あっ、わりい」


 割とぞんざいにドサッと降ろされたキャッシュは不満顔タラタラでローンに食って掛かった。


「ちょっと、もう少し優しく降ろしなさいよ!」

「あの場所に置き去りにしても良かったんだぞ、助けてやったんだから少し位の事で文句を言うなよ」

「それはこっちもですー。私も助けましたー」

「言い方!」


 事実ではあるがとても腹立つ。二人であーだ、こーだ揉めながら歩いていると、またもや木の陰から一人の男が現れた。


 三十代くらいだろうか、片方の目に傷があり肩より長めの白髪はくはつを後ろで縛っている。着流し風の着物を腰の帯で縛り細身で長い刀を帯刀している。足元がブーツな事に違和感があるものの、素人でも感じる程の強い殺気を放っていた。


「二人連れとは聞いていないが、貴様がローンか」


「誰っすかーそれ。聞いたこと無い名前ですぅ」

「ぶふ――っ! いきなり他人のフリって、ダサ」

「お、お、お前なぁ!!」


 急に吹き出したキャッシュのせいで一瞬で身バレした。男の目に殺意の色が光る。腰の刀に手を掛けた瞬間、目の奥がギラリと光った。


 俺の中の危険信号が警鐘を鳴らす。


 男が刀に手を掛けたのと同時に大きく後ろへと飛んだ。キャッシュを抱えて飛んだ分少しタイミングは遅れたが、男との間合いは明らかに刀の攻撃範囲を越えていたはずだった。


 着地後すぐにキャッシュを放り出した俺だが、胸の革鎧に付いた大きな斬り傷をみて冷や汗を流す。放り出された事でブーブー文句を言ってきたキャッシュも、俺の鎧の傷を見ると無言で白髪の男に向けて左手を突き出した。


「ファイア、ファイア、ファイア!」


 彼女は呪文と共に火球を男に向かって打ち放つ! 

 だが、彼女の放った火球はすべて一瞬で切り落とされ霧散した。白髪男の刀といい、この女のフライパンといい、物理攻撃で魔法になんて事しやがる。


 それにしてもコイツの攻撃は何なのだ。明らかに射程外まで刃が届いて来やがってる。キャッシュを下がらせ間合いを大きく取りながら様子を見る。


「どうした小僧、元気があったのは最初だけか?」


 安い挑発だ。やや腰を落とし刀の鞘を左手で掴み、右手は柄に軽く添えている。いつでもあの超速の刃を範囲内に放てる構えなのだろう。さっきも大きく後ろへ飛ばなければ、あの火球のように真っ二つにされていたかも知れない。どんなにスピードに自信があっても、不用意にあの間合いになんて入れるものか!


「さあ、掛かってこいよ。背中の大剣は飾りか」


 言われるまで忘れていた。そう言えば俺も武器を持っていたのだった。俺の身の丈よりも短いが、普通の剣よりもかなり幅広の刃は大剣と呼ばれる部類の物だ。


 白髪男はくはつおとこの様子を伺いながら、俺は剣を固定していた革のベルトのフックを外し、ゆっくりと正面上段へと構えた。


「ローン、あんたそれ鞘が付いたまま!」


 キャッシュが鞘ごと剣を構えた俺を注意したが、俺は自らを肯定した。


「俺はコレでいい」

「なめるな小僧!」

「駆け出しで未熟な俺が、お前を倒してやる!」

「やれるものなら殺ってみるがいい」


 お互い必殺の一撃に全ての気合を込めた。張り詰めた空気の中、俺は大きく一歩踏み出すとその足に全身全霊の力を込めて後方へと大きく飛んだ。


「なにっ!」


 超速の斬撃……それはあくまでも獲物を攻撃範囲内に捉え、振り切る事で得られる必殺の一撃。だが中途半端に止められた切っ先は振り切るも戻すも大きな隙となる!


 着地と同時に上段に構えた剣を全力で振り切り、攻撃範囲外から白髪男に向かって大剣を投げ付けた!


「行っけーっ、エクスカリバー!!」

「なっ!!!」


 剣はクルクルと回転しながら白髪男へと真っ直ぐに向かっていく。俺の挑発に乗って気合の入り過ぎた白髪男は迎撃に若干の遅れが生じていた。


「武器を投げるとは、舐めるな小僧!」


 それでも飛んでくる剣に自らの斬撃を合わせて来られたのは奴の技量の高さを物語っている。だが残念。俺の剣、エクスカリバーは鞘とセットだとめちゃくちゃ重いのだ。


 正面からの切り合いに行って俺の剣を弾くつもりであった白髪男の刀は、エクスカリバーの重みと回転力によってへし折られ、軌道をずらす事も出来ずに頭部へとクリーンヒットした。


「ぐへっ!」


 カエルが潰された時のような気色の悪い声を上げて倒れ込んだ白髪男はエクスカリバーを抱えるようにして倒れたようで、完全に剣の下敷きになっていた。更に剣の当たりどころが悪かったのか首が変な方向に曲がっていた。


「やべっ、行くぞキャッシュ!」


 少し下がった所で様子をうかがっていたキャッシュの手を引いて走り出した。


「えっ、ちょっと、け、剣は? エクスカリバーはどうすんのよ!!」

「重しに置いとく」

「ええっ!?」

「大丈夫、あれ呪われてるから」

「あんたの話しは全く意味が分からないわ」


 なんだかんだと軽い言い合いをしながらも、いつの間にか二人で自然と手をつなぎ走っている自分に若干の違和感を感じた。


『あれ? 俺たちってこんなに仲が良かったっけ? ああ、コレが釣り走り効果ってやつかな』

(全然違います。普通走りません)


 などとぼんやり考えながらひたすらその場から距離を取るため走る、ローンとキャッシュの二人でした。




 ーつづくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る