嫌いにならなくて…【凛】
「お風呂沸かしたよ」
「ありがとう」
「お皿洗うよ!」
「龍ちゃん、もう休んで!明日、仕事でしょ?」
「もうこんな時間か…」
私の言葉に龍ちゃんは、時計を見つめる。時刻は、一時半を回っていた。
「カップ洗ったら、休むよ!ゆっくりお風呂浸かりな」
「うん、ありがとう」
龍ちゃんは、マグカップを取ってキッチンに持って行く。ずっと、視界がボヤボヤしていた。拓夢との日々を過ごすまで、私の視界は膜がはったみたいだった。カチャカチャと音を立てながら、龍ちゃんがお皿を洗っていた。この
【もうすぐ、お風呂が沸きます】
そのアナウンスが聞こえて、私はキッチンに行った。
「龍ちゃん、お水飲んだら入るね」
「うん」
私は、コップにお水を入れて飲んだ。
「おやすみ」
「ああ、歯磨いたら寝るよ」
「うん、じゃあお風呂に行くね」
私は、コップを置いて、お風呂に向かった。洗面所を開けて、服を脱いだ。
「入浴剤入れよう」
お気に入りのローズの香りの入浴剤を取り出した。お風呂場に行って、入浴剤を湯船にいれる。
「相変わらずおばさんだね」
鏡に映る姿を見つめながら呟いた。シャワーを捻ってお湯が出るまで待ってから体をさっと流した。
ピンク色に染まった湯船にチャプンと浸かった。
「はぁー。気持ちいい」
この五日間で、心の奥まで燃え尽きたのを感じた。
「炭を通り越して灰になっちゃったのかもね」
私は、湯船のお湯を掬い上げながら言った。
もう、この心にメラメラと滾るような火がつかないのがわかってしまった。
「もしも、拓夢に抱かれていたら…。嫌いになってたかも知れないね」
両手でパシャンとわざとお湯を飛ばす。
「嫌いにならなくてよかった」
私は、そう言ってまたお湯を掬い上げる。
もしも、あの
絶望を拭えなかった時、私はきっと拓夢を嫌いになっていた。ううん。失望したかも知れない。そうならなくて良かったと心の底から思っていた。
私は、唇をゆっくりなぞる。
「一瞬で灰になる程、燃えちゃった」
涙がポトリと湯船に落ちて波紋を作った。
龍ちゃんは、キャンドルみたいな炎を与えていた。いっきに体を暖めはしなくて、じんわりゆっくり染みてくようなものだった。だから、気づかなかったんだよね。
「あんなに愛されていたのに、気づかなかった。私、龍ちゃんの悪い所ばっかりに目がいってたんだよね」
私は、そう言ってまたパシャンと両手でわざとお湯を飛ばした。
拓夢に出会い、拓夢に触れて、拓夢に抱かれた。だからこそ、気づけた。龍ちゃんの愛…
「このまま、一緒にいるだけだったら、私、何も気づかなかった」
私は、ピンク色のお湯を両手で掬い上げる。
「気づかないまま、この
指の隙間から、少しずつお湯が落ちていく。
こんなに、龍ちゃんを求める事もきっとなかったんだよね。
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