選ぶのは…【凛】

「龍ちゃん」


「苦しかったよな!ごめん」


龍ちゃんは、そう言って私から離れた。


「ううん。大丈夫」


「レモネード冷めちゃったな!入れ直す?」


「ううん。これでいい」


私は、マグカップを取ってレモネードを飲んだ。


「許してくれるの?」


私の言葉に龍ちゃんは、「もうそういう感情ではない」と言ってレモネードを飲んだ。


「どういう意味?」


「許すとか許さないとか…。そういう二択じゃない。俺は、ずっと感謝しかしていないよ。伝えたい言葉は、「ありがとう」だよ!綺麗事に思われたっていい。世間に馬鹿にされたっていい。これが、俺の本心だから…」


そう言って、龍ちゃんは私の頭を撫でてくれる。やっぱり、龍ちゃんは凄い人。


「これから先の未来へ進んでも二人だよ」


私は、龍ちゃんを見つめてそう言った。


「いいよ」


「龍ちゃんが望んだって、赤ちゃんは出来ない可能性が高いよ」


「わかってる」


龍ちゃんは、私の涙を拭ってくれる。


「期待したって私の体は裏切るんだよ」


「そんな事ないよ」


「あるよ。赤ちゃんを産めないポンコツな体。赤ちゃんに選ばれる事もない人間。神様が作った失敗作」


自分で言いながら涙が流れてくる。


「そんな事ない」


「龍ちゃん」


今の私に必要なのは、温度の違う愛ではもうないのを気づいてしまった。


「凛は、凛だよ!前にも言ったけど…。俺は、離婚するつもりはない。子供は、確かに望んでいたよ。だから、治療だってしたんだよ。だけどね、もうそこは通りすぎちゃったんだよ。欲しい気持ちは、確かにあった。だけど、今は凛といれる事が幸せなんだ。俺は、まだ見ぬ赤ちゃんよりも今いる凛がいなくちゃ生きていけないんだ。赤ちゃんが産まれて、凛がいなくなったら…。そんなの生きていけない」


龍ちゃんは、そう言って泣いていた。


「私といる限り二人だよ」


「それを嫌だと思っていたら、俺は一緒にいない」


「それでもいいの?」


「いいに決まってるよ」


龍ちゃんは、そう言って私の頭を撫でてくれる。


「龍ちゃん、ありがとう」


「俺は、凛の絶望を拭えないよ」


「そんなのは、いらないから…」


「それでも、一緒に生きて行く事は出来るから…。それで、いいなら…一緒に生きていって欲しい」


「寄り添ってくれるだけで、充分だよ。私は、それだけで…もう」


わがままかも知れない。でも、別の愛に触れた事で気づいた気持ち。


私は、龍ちゃんを愛してる。それは、ずっとそこにあった。変わらないまま存在していた。だから、私はこうして帰ってこれた。


「わがままばっかり言って、ごめんね」


「何言ってるんだよ!それも、全部含めて凛だろ?」


龍ちゃんは、そう言ってくしゃくしゃと頭を撫でる。


「お風呂入ろうかな」


「沸かしてくるよ」


「いいよ」


「いいから…」


そう言って、龍ちゃんはいなくなった。

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