餃子を作る【拓夢】

「苦しいよ」


「ごめん、ごめん」


チュッって、凛の頬に俺はキスをした。


「今の何で?」


「そういうのいっぱいしようよ」


今さらながら、絵に描いた恋人みたいな事をしたかった。付き合いたてのカップルみたいな事がしたかった。


「フフフ、いいよ」


凛は、ニコニコ笑ってくれる。


「キャベツとニラとにんにくと生姜と豚ミンチであってる?」


「うん」


「で、ニラは忘れた」


俺の言葉に凛は、「えっ?」と言って笑った。


「これが、ニラと思って買ったらしい」


俺は、凛に緑色の野菜を見せる。


「ねぎだよ」


「ねぎだね」


二人で顔を見合わせて、笑い合う。


「ニラを取ったつもりだったの?」


「うん」


「ハハハ、同じ場所にあったりするもんね」


「そうなんだ」


俺は、驚いた顔をして凛を見つめる。


「えっと、餃子は作った事は?」


「ない!買うものだから」


俺の言葉に凛は、少し驚いた顔をした。


「餃子ってラーメン屋で食べたり、ほら冷凍を買ったり」


「作った方が美味しいよ」


凛は、そう言って手を洗ってる。


「でも、俺、一人だよ!冷凍とかしなくちゃいけないだろ?何かべちゃべちゃになりそうだろ?」


「確かに、水分出やすいもんね」


凛は、キャベツを千切りにしている。


「何だかんだ冷凍が楽なんだよ」


「そうかもね」


凛は、千切りにしたキャベツをさらに細かくしている。


「俺、凛の事たくさん知りたい」


「どんな事を知りたいの?」


凛は、にんにくを2片取って皮を剥いている。


「初めての恋とか?」


「いるかな?」


「じゃあ、どんな子だった!小さい頃」


「それもいる?」


凛は、にんにくを細かくしていた。俺は、ボールを取り出して凛に渡す。


「どんな話なら教えてくれる?」


凛は、ボールにキャベツやにんにくを入れた。生姜の小さい欠片を取って、ティースプーンで皮を剥いてから、凛は生姜を細かくしていた。


「わからない」


「凛は、よくSNS見るって言ってたよな」


「うん」


「あれさ、一般人でもエゴサするの知ってる?」


凛は、豚ミンチをボールに入れて、塩、こしょう、胡麻油を入れる。


「自分の名前を検索して何になるの?」


「何でかな?今の人は、自分の価値をネットで決めてるのかな?オイスターソース忘れたけど…」


「そうなんだね。いらないよ。これでいこう。ニラもないから」


凛は、そう言って餃子の種を混ぜてる。


「凛もSNSに振り回れてるだろ?消したりとかしないの?」


俺の言葉に凛は、俺を見つめる。


「そこにいるのは、全部自分なのに消す必要はないかな…。確かに、友達の投稿を見たりして辛いし、悲しいよ。逆に何で消すの?」


「振り回されるの嫌になるからじゃない?ほら、凛みたいに…。上がったり落ちたり…」


「何でも捨てれそうでいいね」


凛は、そう言って悲しそうに目を伏せた。


「何かあった?」


今の話で、俺は凛を傷つけてしまった気がした。

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