行くべきだよ【凛】

龍ちゃんは、私の手を優しく握りしめてから話し出す。


「どこまでやったらいいのかなーとか、どこまでしたらいいのかなーとか、何か色々わかんなくなる時あるんだよ。俺は、結構そういうのあるんだよ。どうやって元気になったのかな?とか、どうやって考えないように生きてたのかな?とか…。そういうのを全部取り除いてくれる人が、凛にとって星村さんなら行くべきだと思う、会いに…」


私は、龍ちゃんの言葉に首を横に振った。


「どうして?行かないの?」


龍ちゃんは、ポロポロ流れる私の涙を左手で拭ってくれる。


「いいんだよ!行っていいんだ」


私は、また首を横に振った。


「俺に悪いと思ってるの?」


私は、龍ちゃんの言葉に口を開く。


「今、たく…。星村さんに会いに行ったら、龍ちゃんを裏切っちゃうってわかるから行かない」


私の目からボトボトと涙が流れていく。


「会うとそうなっちゃう?」


私は、龍ちゃんの目を見て頷いた。


「ポンコツだって、忘れさせて欲しくなる?」


龍ちゃんは、そう言って私の唇を指でなぞった。


「それは、俺には出来ないもんな」


私は、首を横に振った。


「いいよ、嘘つかなくて…。わかってるんだ。俺には、出来ないって…」


「どうして?」


龍ちゃんは、私のお腹を触ってくる。


「赤ちゃんが欲しくなるんだろ?」


その言葉に私は、泣いていた。


「龍ちゃん、気づいてたの?」


「気づいてなんかいないよ。俺がそうだからだよ」


龍ちゃんは、そう言って笑ってくれる。


「私達、元に戻れてたでしょ?星村さんに出会う前に戻ってたでしょ?」


私の言葉に龍ちゃんは、首を横に振った。


「戻れてなかったの?」


うまくいってるって信じてた。私と龍ちゃんは、元通りになったって…。


「壊れたものを元通りには戻せないのと同じだよ。俺達も、元には戻ってないよ。ただ、大人だから…。見ないふりをして、聞かないふりをしていただけだよ」


「そんな…」


私だけ元に戻れると信じてて馬鹿みたいだと思った。


「元には戻れなくてもいいんだよ」


龍ちゃんは、そう言って私の手を握りしめる。


「俺はね、元通りじゃなくていいと思ってるんだ。凛の痛みや苦しみが少しでも軽くなる方がいい。元に戻ったら、凛は絶望しかなかっただろ?」


「そんな事ないよ」


龍ちゃんは、私を引き寄せて抱き締めてくれた。


「凛はいつも絶望だけが友達みたいな顔をしてたよ」


「そんな事ない」


「ううん。あるよ!星村さんに出会うまで、凛はそうだったよ。俺じゃ拭えないのは悲しかった。でも、仕方ない事だと思ったんだ。もしも、俺が星村さんの立場だったら凛を救えてたのがわかるから」


私は、龍ちゃんの言葉に龍ちゃんの背中に手を回して抱き締める。


「今日みたいなのは、本当に嫌だよ。凛」


龍ちゃんは、私を抱き締める手に力を少しだけ込めた。


「龍ちゃん」


「誰といてもいいから、生きていてよ。生きる事を選んでよ、凛」


そう言った龍ちゃんが泣いてるのがわかる。

私は、いつもこんな優しい龍ちゃんを傷つけて泣かせてばかりだ。


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