本心【凛】(話をすると間違ってしまっていました)

私は、深呼吸をする。


「あの日の帰り道、星村さんとぶつかりました」


「はい」


はやとさんの優しい眼差しに泣きそうになる。


「お気に入りのキーホルダーを星村さんは、私に届けてくれました」


「はい」


「私は、星村さんにお礼をしたいと言ったんです」


「はい」


「それで、次の日に会う事になりました」


龍ちゃんが知らない話をしなくちゃいけない。拓夢といつそうなったかを私は話さなくちゃいけない。


「それで、二人はそうなっていったんですね?」


はやとさんは、私の様子に気づいてそう言ってくれた。


「はい。お互いの絶望が重なったみたいでした」


「それからは、定期的に会うようになったんですか?」


「そうですね。お互いに悲しみを癒すように会っていました」


はやとさんは、私の目を見つめて聞いてくる。


「凛さんは、拓夢と出会えて幸せでしたか?」


私は、その言葉に「はい」と言った。


「そうですか」


「はい。私は、星村さんに救われたんです。絶望の日々から、少しだけでも前を向けたんです」


龍ちゃんが話せと言っていた言葉を私ははやとさんに伝えた。


「そうですか…。わかりました」


はやとさんは、そう言って何かを考えながら珈琲を飲んだ。


「では、皆月龍次郎さんに話を聞かせてもらってもいいですか?」


龍ちゃんは、「はい」と返事をした。


私の胃がキリキリと痛み出す。龍ちゃんの本心を聞くんだ。


「皆月さんは、凛さんが拓夢と不倫していたのをいつから知っていましたか?」


はやとさんの言葉に、私の胸はドキリとする。


「それをお答えする事は、出来ません」


龍ちゃんの言葉に、私は龍ちゃんを見つめてしまう。


「それは、何故でしょうか?」


龍ちゃんは、そう言われて少し顎に手を当てて考えてから話し出した。


「そうですね。妻を傷つける事になりそうです」


「それでも、教えていただきたいのです」


はやとさんは、私に聞く時と違ってしつこく繰り返す。多分、龍ちゃんの本心を知りたいんだと思う。


「そうですね」


龍ちゃんは、そう言うとおでこを擦りながら話す。


「夫婦関係が存在していましたから、私は誰に言われるまでもなく妻が、私以外の誰かに抱かれている事に気づいていました」


私は、龍ちゃんの言葉に驚いた顔をした。いつから、バレていたのだろう?目の中に涙がゆっくりと溜まっていくのを感じる。


「それでも、言わなかったのですか?」


はやとさんは、龍ちゃんに尋ねる。


「言う必要はないと思いました。例え、妻に誰かが居たとしても…。その存在(ひと)は、私を越えないと思っていた。私と妻は、そんな脆い絆を交わした仲ではないと信じていましたから」


そう言うと龍ちゃんは、珈琲を飲む。龍ちゃんが他人には、自分の事を私と呼び、感情をいれないように淡々と話すのを私は知ってる。本当は、優しいのに優しいと悟られたくないんだと思う。龍ちゃんの中で、一線を置くような話し方なんだと思う。

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