過ぎていく時間【凛】

私は、龍ちゃんに抱きついた。

龍ちゃんの本心がどんな言葉でも受け止める。そう決めた。


「凛……これから先も一緒にいような」


「うん」


龍ちゃんは、私を強く抱き締めてくれた。


こんな風に私達は、日常に戻っていくだけ…。


この日も私達は、変わらない日々を過ごして眠りについた。


次の日、いつもと同じ朝がやってきて、龍ちゃんが仕事へ出かけてから私は、相沢さんに連絡をした。


プルルルー


『もしもし』


「おはようございます。皆月凛です」


『凛さんですか!おはようございます』


「あの、お話の件なのですが…」


『はい』


「今週の日曜日なら、主人もいけると言ってくれまして…」


『日曜日ですね。確認します』


そう言って、相沢さんがパラパラと何かを捲っている音がしている。多分、手帳だと思う。


『もしもし』


「はい」


『その日でしたら、お昼だと可能です』


「じゃあ、それでお願いします」


『話をする為に来てもらいたい場所があるのですが…。メッセージしますね』


「はい」


『では、日曜日に』


「はい」


プー、プー


相沢さんとの電話を切った。


「何か怖い」


日曜日に約束をとったものの、龍ちゃんの本心を聞くのが昨日より怖くなっていた自分に気づいていた。

せっかく日常に戻り始めているというのに…。


不倫って認識は、私にだってあった。龍ちゃんだって不倫だってわかっていた。でも、今まではそこは何となく触れないようにしていた気がした。


「はぁー」


大きな溜め息を吐いてから、私はいつも通りの日常をこなした。


そんないつも通りを三回繰り返し約束の日がやってきた。


「おはよう」


「おはよう」


朝から私は、少し緊張していた。日にちが近づくにつれて、不安と溜め息が増えていった。今日に限っては、胃まで痛くなってきていた。


「凛、珈琲飲む?」


「胃が痛いからやめとく」


私は、胃の辺りを擦りながら龍ちゃんに言った。


「大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫」


ちゃんと笑えていない気がするけど…。でも、今はそんな事よりも早く今日が終わって欲しかった。


「何か食べなきゃ駄目だよ。お粥とか作る?」


「そんなのはいらないよ。パン食べようかな」


「食パン焼こうか?」


「うん」


龍ちゃんは、そう言って食パンを二枚焼いてくれる。


「待ち合わせ場所、確認してる?」


「大丈夫」


「車で行こうか?」


「うん」


龍ちゃんは、そう言いながらケトルからお湯をマグカップに注いでいる。


私の本心を知って、龍ちゃんはどう思うのかな?


龍ちゃんの本心を知るのが怖くて堪らなくなってくる。


「凛、泣かないの」


そう言って、龍ちゃんは私の涙を拭ってくれる。


「そんなに胃が痛い?」


「ううん。大丈夫」


「なら、いいんだけど…」


チンッとトースターが音を立てる。


「あっちっち」


私は、食パンをお皿に取り出した。


本当は、大丈夫なんかじゃなかった。


さっきから、ずっと不安で不安で堪らなかった。


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