その時に、本心を…【凛】

「持ってくよ」


龍ちゃんは、そう言ってトレーにシチューとフランスパンとカトラリーを乗せて持って行ってくれる。私は、ビールと黒豆茶を取って持って行く。


「龍ちゃん、ビールグラスいる?」


「自分で行くよ」


「いいから、持ってくる」


私は、ビールと黒豆茶をテーブルに置いてからキッチンに戻った。食器棚から、グラスを2つ取ってまたダイニングに戻った。


「はい」


「ありがとう。凛は、やめといた方がいいよな」


「黒豆茶飲むから」


「うん」


私と龍ちゃんは、自分でグラスに飲み物を注いだ。


『いただきます』


同時に言ってから、サラダボールから龍ちゃんはサラダを取っていた。


「凛もいれようか?」


「うん、ありがとう」


「ううん」


「ドレッシング取ってくるの忘れちゃったから、取ってくるね」


「うん」


私は、冷蔵庫から和風ドレッシングを取り出して戻ってきた。


「はい」


「ありがとう」


「これ、はい」


「ありがとう」


私と龍ちゃんは、サラダとドレッシングを交換した。龍ちゃんが、ドレッシングをかけた後で、私もサラダにドレッシングをかける。

無言の食卓に、パリパリやカリッという音だけが響いている。

サラダを食べ終わった龍ちゃんは、私に話かけてきた。


「凛は、何て話すつもり?」


「星村さんの事?」


「うん」


「まだ、わからない」


私は、龍ちゃんに嘘をついていた。その嘘を龍ちゃんはすぐに感じとる。


「救われた事は、ちゃんと言うべきだよ」と龍ちゃんは言ってきた。


「必要かな?」


私は、そう言ってフランスパンを取った。


「必要に決まってるよ」


龍ちゃんは、そう言って私を見つめてくる。


「どうして?」


私の言葉に龍ちゃんは、立ち上がって隣に座ってきた。


「あのね、凛」


「うん」


「俺達の話を聞きたいって事はね」


「うん」


「凛が星村さんと出会ってどうだったかって気持ちが大切だと思うんだよ」


龍ちゃんは、そう言って私の顔を覗き込んでくる。


「ただ、好きになったとか、したかっただけとか、流れに任せたとか、そんな理由を聞く為にわざわざその人は会いたいなんて思わないよ」


「必要なのは、龍ちゃんで…。私じゃないよ」


龍ちゃんは、首を横に振る。


「凛の話しも必要だよ!だって、その人は星村さん達のバンドの為に何かをしようとしてるんだろ?」


「そうだと思う」


私の言葉に龍ちゃんは、ニコっと笑ってくれる。


「だったら、その人は凛と俺の話を聞いて決めようと思ってるんだよ!その為に、俺達が出来る事は嘘をつかずに話す事だけだよ」


そう言ってから、龍ちゃんは立ち上がって席に戻った。


「その時に、私達はお互いの本心もわかっちゃうんだよ?」


私の言葉に龍ちゃんは、「構わないよ」と言ってパンを取っていた。


私は、龍ちゃんの本心を聞くのが、少しだけ怖い気がした。

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