ついた場所は…

「ゆっくり話そう」


そう言って、先輩が足を止めた場所にホッとしていた。ラブホテルにでも連れて来られるんじゃないかと思っていた俺は、駅前のカラオケボックスだった事に安堵していた。


「あまり、時間ないんですけど」


「一時間ぐらい話せたら充分だから」


「それぐらいなら」


俺は、そう言って先輩についていく。


受付をして、先輩はコーヒーを2つ注文していた。


「行こう」


「はい」


デンモクやマイクを入れたかごを持ってる先輩の後ろからついて歩く。彼女は、あの頃と身長は変わらなかった。俺の方が随分と大きくなったのに、まだ彼女が怖いなんて情けないと思った。

部屋について、先輩は扉を開ける。中に入ると向かい合わせに席に座った。


「星村君は、彼女は?」


「最近、別れました」


嘘ではない。凛と最近終わったのだから…。


「同じね」


先輩は、嬉しそうにニコニコと笑ってる。


コンコンー


扉がノックされて、店員さんが現れる。


「失礼します」


店員さんは、コーヒーをテーブルに置いた。


「失礼しました」


行かないでくれ!そう言いたい気持ちを隠しながら店員さんを見送っていた。


「私の事、ちゃんと覚えてた?」


「はい」


変な汗が体を流れてるのを感じる。俺は、コーヒーにガムシロップとミルクを入れてクルクルとかき混ぜる。


「星村君は、少しはうまくなった?」


先輩は、コーヒーを混ぜる俺の手を握りしめる。


「何の事でしょうか?」


俺は、その手をのけるようにコーヒーのグラスを持ち上げる。


「何、その言い方」


先輩は、フッと鼻で笑うと立ち上がって俺の隣に座ってくる。


「あの、狭いです」


「あの頃より、大きくなったりしてる?」


先輩が俺の太ももに手を置いて足を撫でるだけで、ゾクゾクと背筋に寒気を感じる。


「何の話ですか?」


俺は、バレないようにそう言うしか出来ない。


「久しぶりにしてあげようか?」


「えっ?」


先輩が、俺のそこに手をやってくる。


「すみません。そう言うのなら俺」


コーヒーのグラスを置いて立ち上がろうとする俺に「襲われたって叫ぶよ」先輩は、そう言って笑った。


「俺としたいって話ですか?」


ガタガタと震えそうになる手にぐっと力をいれて握りこぶしを作る。


「星村君、頭いいね!私、婚約者に浮気されてムシャクシャしてるの…。だから、君を見つけた時は嬉しかった。私としよう!ね?」


そう言って、先輩は嬉しそうに笑ってる。俺は、まるでライオンの獲物になった気分だった。


「ここでですか?」


俺の言葉に、先輩は「まさか」と笑った。


「じゃあ、どこで」


「私の家に決まってるじゃない!」


あの日みたいに、先輩の家に俺はまた行くのか?


ブー、ブー、ブー


「電話、鳴ってるよ」


その言葉に、俺はスマホを取り出した。

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