凛に似た人…
俺は、その香りにつられるように顔を上げる。さっきの人どこいったんだろう?
ホームから見える場所に凛に似た人が、ここからでもわかるぐらいお腹の大きな人と話しているのがわかる。
凛が泣いてる気がした。
俺は、急いで走り出した。
ドンッ……
「すみません」
「いえ」
階段でぶつかった女の人の鞄の中身ががバラバラと落ちる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。こっちも、見てなくてすみません」
女の人は、そう言って俺に謝ってくる。
「いえ」
俺は、彼女の荷物を拾った。
「ありがとうございます」
「怪我は、ないですか?」
「全然、大丈夫です」
「本当にすみません」
「いえ、こちらこそすみませんでした」
彼女は、申し訳なさそうにお辞儀をしてホームへと降りていった。俺は、それを見届けてから急いで階段を駆け上がる。
「はぁ、はぁ」
早く行かなきゃ!改札を抜けて、外に出ると…。もう、そこには誰もいなかった。
ただ、大粒の雨が頬を濡らすだけだった。
俺は、スマホを取り出して凛に発信した。呼び出し音は、鳴っていたけれど出る事はなかった。
「星村君、何してるの?」
その言葉に、俺は驚いて振り返った。
「嫌な顔するのね」
「お久しぶりです」
「久しぶりね」
そう言った彼女の顔を見て足が震えそうになるのを感じた。
「結婚は?星村君」
「ま、まだです」
「そうなんだ!相変わらず変わらないね」
先輩が、俺に近づいてくる。
「先輩は、ここに住んでるんですか?」
「ううん。たまたま、仕事で来たの」
「そうですか!それじゃあ、頑張って下さい」
そう言って、立ち去ろうとする俺の腕を掴まれる。体が強張るのを感じる。あの頃と俺は、何も変わっていないのを感じる。
「雨に濡れてるよ」
先輩は、鞄から取り出したハンドタオルで俺の頭や体を拭いてくる。
「大丈夫ですから」
「星村君、私、ずっと君を覚えていたよ」
心臓が壊れる程に音を刻んでいる。息が詰まりそうになるのを感じる。俺は、まるで水辺にあげられた魚のように酸素が薄くて苦しいのを感じていた。
「そうですか…。どうも、ありがとうございます」
俺の言葉に、先輩は苛立ちを募らせていた。
「何それ?私を襲ったのによくそんな言い方ができるわね」
先輩は、大きな声を出した。周囲がざわつくのを感じる。
「俺は、そんな」
「誰が君を信じるかな?」
先輩は、俺にしか聞こえない声で呟いた。キョロキョロと辺りを見回すと皆は俺を見つめながらこしょこしょと何かを話したり、怪訝な眼差しを浮かべたりしているのがわかる。
「何が目的ですか?」
俺は、先輩に聞こえるだけの声で呟いた。
「星村君、行こう」
そう言って、俺は先輩に腕を引っ張られていく。
凛、俺を助けて…。心の叫びは、誰にも聞かれる事もなく。
先輩に引っ張られながら、俺は、あの頃と変わらない。弱くて小さな人間なのを感じていた。
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