電車で向かう

俺と凛は、奥の扉の前に立っていた。座席は、ほとんど人が座っていて、空いてる席は一人ずつバラバラにしか座れそうになかったからだ。


「足、痛くない?」


「大丈夫」


凛は、そう言って窓の外の景色を見ている。


「時々は、都会あっちに来なよ」


俺は、凛にしか聞こえない声で呟いた。


「うん」


「理沙ちゃんと来れば寂しくないだろ?」


「そうだね」


凛は、そう言って俺を見つめてくれる。人が沢山いなくて、行きのようにガラガラだったら今すぐに抱き締めてるぐらい可愛い。

俺は、凛の手を強く握りしめる。


もう、最後おわりだと言われたら人間ひとはどうして、こんなにも醜く汚い感情きもちを抱くのだろうか?


「服買って、ハンバーグの材料買って帰ろうね」


「うん」


凛は、見つめ合ってニコニコ笑ってくれる。

凛が、幸せでいるだけで嬉しい。凛の為になっているだけで嬉しい。


「次の次だよね!」


「そうだな」


「スーツ着てくの?」


「その予定なんだよ!家にあるスーツは、サラリーマンって感じだから!ちょっとお洒落なやつがいいかなー。まっ、向こうで着替えるんだけどさ…。ちょっとでも、イメージよくしておきたいだろ?」


凛は、首を傾げながら「どうして?」と聞いてくる。


「ほら、あれだよ!」

俺は、スマホを凛に見せる。


「あっ!そうだよね」


凛は、そう言いながら頷いていた。新快速は、新しい駅につくとさっきより人が乗ってきた。俺は、凛を庇うように立つ。


「大丈夫?」


「うん、凄いね」


「やっぱ、七時前だからかな?」


あっという間に反対側の扉は、見えなくなってしまった。


プシュー


扉が閉まって、電車が動き出す。この次に止まる駅で、俺達は降りる。


ガタンゴトンと揺れる。俺は、凛の身体を支えながら仁王立ちしていた。


「次だね」


「うん」


凛は、横向きで窓の外を見つめていた。満員電車を言い訳に、俺は凛の身体に触れていた。別に、変な事をしてるわけじゃないのに、近くの座席に座る男と目が合った。


「ゴホン」咳払いをひとつすると俺を睨み付ける。不愉快そうに眼鏡を上げて、わざとらしく、また「ゴホン」と咳払いをする。電車がガタンと揺れて凛は、男の近くにある手すりを掴む。男は、凛に不快な顔を浮かべて睨み付けた。


「すみません」


わざとじゃないから、凛は、困って、扉横の手すりを持ち直した。俺は、男から凛が見えないように、男の手すりの近くから凛を引っ張る。男は、公共の場で何をしてやがると言いたそうな顔をしながら俺達を睨み付けてくる。


「大丈夫か?」


「うん、ちょっとバランス崩しちゃって」


「こっちに来といて」


「うん」


俺は、凛の手を掴んで俺の鞄を握らせる。


「ごめんね」


「大丈夫、大丈夫」


俺は、笑って凛を見つめる。また、電車がガタンと揺れる。俺は、凛がそちらにいかないように腰に手を当てる。


「うん、ゴホン、ゴホン」


男は、わざとらしく咳払いをして、また俺達を睨み付ける。上から下まで、値踏みするように見つめて、チッと大きな舌打ちをしてため息をはかれた。


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