誰かと比べない…

「行こうか?」


「うん」


私は、拓夢に手をひかれておしゃれなその場所へ行く。ここで、過ごして夜を向かえて向こうに帰れば…。全部終わっちゃうんだ。


「大丈夫?」


「大丈夫だよ」


悲しいのは、拓夢も同じだよね。


「どの部屋がいいかな?一番高いのにしようか?」


「拓夢が好きなのでいいよ」


「最後は、やっぱりいい部屋がいいよな」


拓夢は、そう言ってスイッチを押す。拓夢は、私の手を引っ張って行く。こんな風に、ホテルに来るのは拓夢とのあの日以来…。

龍ちゃんと何かだいぶ来てない。


「ここだな」


拓夢は、そう言ってドアを開ける。自動で閉まる。


「靴脱いで」


「うん」


「何しようか?休憩にしたから」


「時間は?」


「とりあえず、三時間は過ごせる」


「そっか」


「暫く、TVでも見たりしようか」


「うん」


拓夢と一緒にソファーに座る。拓夢がTVをつける。


大画面でイヤらしい映像が流れた。それも、大音量で…。


パチン……。


拓夢は、無言でTVを消した。


「映画見れるのかなー?ハハハ」


「今のなかった事にしてる?」


私は、拓夢の顔を見つめる。


「それは、そうだけど…。前の人、耳おかしかったのかな?」


「普通は、ボリューム下げていてくれそうなのにね」


多分、忙しくて忘れちゃったんだと思う。


「そうだよな!確認ミスかな?」


「そんな所じゃない」


「凛は、ああいうの見た事ある?」


「勿論、あるよ」


「へー。いつぐらい?」


「初めて見たのは、蓮見君とだったかな…?嫌、その前かな…」


拓夢は、私の顔を覗き込むように見つめる。


「嫌な思い出?」


「そうかもね」


「蓮見なら、ヤバいの見せそうだよな」


「あんまり覚えてないかも」


「旦那さんとは?」


私は、拓夢の質問に眉を寄せる。


「ごめん。気になるだけ」


「龍ちゃんとは、それは見たりするよ。色々試してみたくなったりもしたから…。ほら、妊活やってるとね。刺激とかなくなっちゃって…」


「妊活のストレス凄かったんだな」


拓夢が頬を撫でるようにれる。


「また、泣いてた?ごめんね」


私は、拓夢のその手を握りしめる。


「妊活の話すると、凛は泣いちゃうから…。きっと、辛かったんだろうなって…。言葉にしなくても、わかる」


「他にも辛い人なんてたくさんいるのにね。私だけじゃないのにね」


拓夢は、私の頬を優しく撫でてくれる。


「苦しみや悲しみや痛みを誰かと比べるなんて無理だろ?」


「そうだね」


「凛にとっては、悲しかったんだろ?他の人となんて比べなくていい」


「拓夢、ありがとう」


拓夢の優しさが好き。私の痛みを悲しみを苦しみを誰かと比べない拓夢が好き。


「俺にも分けて…。凛の悲しみを…」


そう言ってくれる拓夢が私は大好き。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る